青い鯉のぼりの日。震災追悼にとどまらない「100年続くお祭り」に育つ【宮城県東松島市】
東北の春を彩るのは、桜だけじゃない。あの日の空を忘れないための青が、今年も掲げられた。
5月5日、こどもの日にあわせて宮城県東松島市大曲浜地区で行われた「青い鯉のぼりまつり」。その空には、全国から寄せられた約600匹もの“青い鯉のぼり”が、風にのって揺れていた。
この鯉のぼりが青いのには理由がある。2011年、東日本大震災で亡くなった多くの子どもたちが、天国で寂しくないように――そんな願いから始まった「青い鯉のぼりプロジェクト」だ。全国から寄贈された青い鯉のぼりを、毎年3月11日から5月5日まで掲揚することで、「あの日」と「今」をつなぎ、命の記憶を未来へ託している。
青い鯉のぼりのはじまり
この活動のきっかけは、震災当時、高校2年生で、震災により弟や4人の家族を失った伊藤健人さんから届いた1通のメールだった。「鎮魂の音楽を奏でたい」と訴えた若者の声に、和太鼓や洋楽器の仲間たちが応え、彼の自宅の庭に集まり、がれきから見つかった弟が好きだった青い鯉のぼりを掲げて音と香りと色で天に祈りを捧げる「青い鯉のぼりプロジェクト」が始まった。
色(青い鯉のぼり)、音(演奏)、香り(炊き出し)という仏教的な3つの要素をそろえて“供養”するというこの活動は、次第に口コミで広がり、多くの人々の手によって支えられるようになっていった。仙台市で活動するよさこいチーム“羽跳天”をはじめ、今年も多くの団体が賛同。力強いパフォーマンスで訪れた人々を魅了した。
追悼から“おまつり”へ。「青い鯉のぼりまつり」誕生
2023年に震災から12年、13回忌を迎えたこの活動は、次の100年を見据え、あらたなフェーズに入った。これまでの「青い鯉のぼりの下に腰を下ろす会」は、「青い鯉のぼりまつり」へと名称を変え、被災地の一角で営まれてきた供養の場から、地域の未来を育む“お祭り”へと進化した。
主役は、天国の子どもたち、そして“今を生きる”子どもたち。青い鯉のぼりは、ただ空に泳ぐだけではなく、子どもたちが笑顔で集い、走り回る風景の中で、未来へのメッセージを伝えている。
ペットと一緒に。にぎわうブルーマルシェ
この日、会場には犬やうさぎなどのペット連れの姿も多く見られた。駐車場は無料で、ペット同伴もOKという親しみやすさも、多くの家族連れに支持されている理由のひとつだ。
また同日、海浜緑地エリアでは「ブルーマルシェ」も開催され、地元のキッチンカーやハンドメイド雑貨店などが出店。グルメや買い物を楽しみながら、来場者は思い思いの時間を過ごしていた。
SNS上でも「こんなに心温まるイベントは初めて」「空を見上げたら泣きそうになった」「次は子どもと一緒に来たい」などの声が相次ぎ、訪れた人々の記憶に深く残る1日となった。
“100年後”に残したいもの
プロジェクト発起人の伊藤健人さんは、現在30歳。あの日、被災し、願いを形にした少年は今、次の世代に思いを手渡そうとしている。
「亡くなった子どもたちの分まで、今を生きる子どもたちがのびのび遊べる場所をつくりたい」
「100年後、ここでまた誰かが鯉のぼりを空に揚げてくれたら、それが一番の願い」
そんな声が、このお祭りの空気感を静かに支えている。
追悼と希望。過去と未来。悲しみと笑顔。
そのすべてを抱きしめるように、青い鯉のぼりは空を泳いでいた。
この春、足を運べなかった人も、ぜひ来年、宮城の空を見上げに訪れてほしい。
※写真は全て筆者が撮影(2025.05.05)
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