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高次脳機能障害の介護で疲れた…44%が経験する「介護うつ」の対策と支援制度

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

介護者の約4割が介護うつに…

高次脳機能障害の定義と具体的な症状

高次脳機能障害は、事故や病気で脳が損傷を受けることで起こる障害です。具体的には以下のような症状があります。

記憶障害:新しい情報を記憶として定着させることが困難で、約束や予定を覚えられない、つい先ほどの会話の内容を忘れてしまうなどの症状があります
注意障害:周囲の状況に気が散りやすく集中力が続かない一方で、特定の作業に過度に没頭してしまい、周りが見えなくなってしまうこともあります
遂行機能障害:日常生活に必要な計画を立てることや、立てた計画を順序立てて実行することが著しく困難になります
社会的行動障害:感情のコントロールが難しくなり、些細なきっかけで突然怒り出したり、状況にそぐわない行動をとったりすることがあります
失語症:言葉を理解したり、自分の意思を言葉で表現したりすることが困難になり、円滑なコミュニケーションが取れなくなります

「家族が介護に疲れている。腹を立ててしまったとき、優しさの足りない自分に自己嫌悪になったりします」「本人のそばにいると気が休まらない」――これは高次脳機能障害のある方を介護する家族の声です。

東京慈恵会医科大付属第3病院の渡邉修氏による調査によると、高次脳機能障害者の9割がご家族と暮らしています。60%は両親、主に母親であり、40%は配偶者です。

ですが、実は介護する家族の実に44%が「介護うつ」の傾向にあることが判明しています。

その背景には、これらの障害特有の支援の困難さがあるのです。

そもそも、介護うつとは?

介護うつとは、介護による身体的・精神的な負担が重なることで発症する抑うつ状態のことを指します。体調不良や気分の落ち込みを自覚しながらも、真面目な方ほど「介護者である自分が弱音を吐いてはいけない」という思いから、症状を抱え込んでしまう傾向があります。

一般的なうつ病と同様の症状を示しますが、介護という特殊な状況から生じる特徴があります。

最も大きな特徴は、介護者自身が自覚しにくいことです。「自分が頑張らなければ」という思いから、疲労や精神的な負担を抱え込みやすく、周囲に相談することをためらう傾向があります。また、介護者という立場上、自分の体調を後回しにしがちで、症状が重症化してから発見されることも少なくありません。

介護うつは、さまざまな要因が重なり合って発症します。最も大きな要因となるのが、介護の長期化による疲労の蓄積です。24時間体制の見守りが必要な場合や、休息時間が十分に取れない状況が続くことで、心身ともに疲弊していきます。

社会的な孤立も重要な要因です。介護に追われて外出できない、友人との付き合いが減少する、家族や親戚との関係が希薄化するなど、人との交流が減ることで、ストレスの発散や気分転換の機会が失われていきます。また、相談相手がいないことで、悩みを一人で抱え込んでしまいがちです。

さらに、介護と他の責任との両立による負担も大きな要因となります。家事、仕事、育児など、多くの役割を同時にこなさなければならない状況は、大きなストレスとなります。特に、家族間での介護の分担や方針について意見の相違がある場合、精神的な負担は一層大きくなります。

このように、介護うつは単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。

高次脳機能障害の特性による介護の困難さ

そんな中でも高次脳機能障害の介護が特に介護うつにつながりやすいとされる理由は、大きく2つあります。

1つ目は、要介護家族の性格の変化です。

渡邉修氏の実施した調査によると、「家族にとって、もっとも精神的負担と感じた事柄」として半数以上が「性格の変化」を挙げています。突然怒り出したり、周囲の状況に合わない言動をしたりすることへの対応に、家族は大きな困難を感じるのです。

2つ目は、コミュニケーションの難しさです。

高次脳機能障害を持つ方々は、言語理解や表現能力が低下していることがあります。これまでのように話せなくなったり、逆に外からの言葉を理解できなくなってしまうのです。こうなると、ご家族との意思疎通が困難になります。これにより、介護者は相手の気持ちや要望を正しく理解することができず、誤解や混乱が生じることがあります。

例えば、病気になるまでは穏やかだった家族が、急に気に入らないことがあると大きな声を出して物を投げたり、時には噛みついたり、叫んだりといったような乱暴な行動をとるようになってしまうこともあります。

ですが、本人は何が気に入らないのかを言葉で伝えることもできないので、家族には理解できないことも多く、想像で判断し、対応するしかないのです。

このような状況に追いつめられることで、介護者側が介護うつになってしまうこともあるのです。

介護うつのサインと予防のポイント

以下のような兆候が現れ始めたら、介護うつの可能性があります。

睡眠の乱れ(寝つきが悪い、眠りが浅い)
食欲の変化
些細なことでイライラする
やる気が出ない
頭痛や肩こりなどの身体症状
将来への不安が強くなる

ご家族を支えようとしてご本人がつぶれてしまっては元も子もありません。

それでは、どのように介護負担を軽減していくべきなのでしょうか。

介護者のストレス軽減のためにできること

介護の分担

可能な限り介護を一人で抱え込まない工夫が重要です。家族のうちひとりだけが介護を担うのではなく、全員が分担して支えていくことで、負担は軽減できます。

例えば、平日の日中は主たる介護者が担当し、夜間は他の家族員が交代で見守りを行う、休日は兄弟姉妹で分担するなど、具体的な役割分担を決めることが効果的です。介護には食事の準備、入浴の介助、服薬管理、通院の付き添い、話し相手など、様々な要素があります。

それぞれの家族員が得意な分野を担当することで、より効率的な介護が可能になります。

また、定期的に家族会議を開いて介護の状況を共有し、問題点や改善点について話し合うことも大切です。介護の方針や将来の展望について家族全員で考えることで、主たる介護者の精神的な負担も軽減されます。

介護の分担は、家族それぞれの生活状況や仕事の都合に合わせて柔軟に調整することが必要です。無理のない範囲で協力し合い、定期的に分担内容を見直すことで、持続可能な介護体制を築くことができます。一人ひとりの負担は軽くても、家族全員で支え合うことで大きな力となります。

家族会への参加

家族会とは、障害を持った方や要介護の方を日々支える家族が定期的に集まり、経験や悩みを共有し、互いに支え合う貴重なコミュニティです。この会は、同じような立場にある家族同士が心の内を打ち明け、共に解決策を探る場として機能しています。

東京慈恵会医科大が実施した包括的な調査において、家族会への定期的な参加が介護者の精神的・身体的負担の軽減に極めて効果的であることが科学的に示されています。特に、孤立しがちな介護者にとって、同じ経験を持つ仲間との出会いは大きな心の支えとなることが明らかになっています。

ある経験豊富な介護者は次のように語っています。

「家族会は私たちにとってかけがえのない存在です。高次脳機能障害者を家族に持ち、その介護の日々の困難さや喜びを実際に体験している者同士でしか分かち合えない深い共感と理解、そして何より心の安心が得られる場として非常に重要な役割を果たしています。ここでの交流は、介護を続けていく上での大きな励みとなっています」

さらに注目すべき点として、在宅生活期における支援情報の入手経路についての調査結果があります。高次脳機能障害に関する専門的な説明や指導を医療機関の医師から直接受けられた割合はわずか18.5%に留まっています。これに対して、家族会などを通じて他の高次脳機能障害者やその家族から具体的な説明や実践的な支援方法について情報を得られた割合は55.6%と際立って高くなっています。この数字は、家族会が単なる交流の場を超えて、実践的な介護のノウハウや最新の支援制度に関する情報を共有する貴重な情報交換プラットフォームとしても重要な役割を果たしていることを如実に示しています。医療機関からは得られにくい日常生活での具体的なアドバイスや工夫が、ここでは豊富に共有されているのです。

相談窓口と専門機関の活用

高次脳機能障害に関する相談窓口は、全国の都道府県に設置されています。

例えば、地域包括支援センターの相談窓口では、利用できる福祉サービスについての情報提供を受けることができます。デイサービスや訪問リハビリなど、地域で利用可能なサービスの説明を受け、実際の利用に向けた手続きの支援も行っています。

また、症状や状態に応じて医療機関も紹介してもらえます。高次脳機能障害への理解が深い医療機関との連携により、適切な治療やリハビリテーションにつながることが期待できます。

さらに、介護の方法や家族間の調整についても専門的なアドバイスを受けることができます。家族それぞれの状況を踏まえた上で、具体的な対応方法について助言を得ることで、より良い介護環境を整えることができます。

なお、福井県の地域包括支援センターの例を見ると、主に以下のようなサービスを提供してもらうことができるようです。

相談を効果的に進めるためには、困りごとをできるだけ具体的に伝えることが大切です。また、状況は時とともに変化していくため、定期的に相談することで、その時々の課題に応じた支援を受けることができます。

高次脳機能障害の介護者が活用できるサービス

介護の実際的な負担を軽減するためには、各種支援制度やサービスの活用が効果的です。ここでは、実際に利用可能な支援制度とその活用方法について、具体的にご説明します。

介護保険サービス

在宅介護を行う場合、介護保険サービスの活用が大きな助けとなってくれるはずです。

「レスパイトケア」という考え方が重要で、これは介護者が一時的に介護から解放され、心身の疲れを回復するための支援を指します。

40歳以上65歳未満の方でも、特定疾病に該当する場合は介護保険サービスを利用することができます。

例えば、通所介護(デイサービス)や通所リハビリテーション(デイケア)では、日中の時間帯に専門スタッフによる介護やリハビリテーションを受けることができ、介護者にとって貴重な休息時間となります。

例えば、週4日、2か所のデイサービスに通所することができれば、介護者が休息時間や家事を行う時間が確保でき、要介護者本人も生活にリズムができます。

また、訪問介護(ホームヘルプサービス)では、専門のヘルパーが自宅を訪問し、食事、入浴、排せつなどの介助を行います。ショートステイ(短期入所)は、数日から数週間の短期間、施設で介護サービスを受けることができ、介護者の休養や用事がある際に特に有効です。

これらのサービスは、担当のケアマネージャーと相談しながら、本人の状態や家族の状況に応じて適切に組み合わせることで、より効果的な支援体制を築くことができます。

施設利用も一つの選択肢

在宅介護に限界を感じる場合、施設入所という選択肢も検討する価値があります。高次脳機能障害の方を受け入れる施設には、介護老人保健施設、障害者支援施設、グループホームなどがあります。

施設選びでは、以下の点に注目することが重要です。

専門的なリハビリテーションプログラムの有無
高次脳機能障害に対する職員の理解度と経験
医療機関との連携体制
家族の面会のしやすさ
本人の希望する生活スタイルとの適合性

施設入所を検討する際は、まず短期入所(ショートステイ)を試験的に利用してみることをお勧めします。これにより、本人の適応状況や施設の特徴を実際に確認することができます。また、段階的な移行により、本人も家族も精神的な準備を整えることができます。

まとめ

高次脳機能障害の家族介護は、特に要介護者の性格変化やコミュニケーションの困難さが、介護者の精神的負担を増大させる要因となっています。

そんな時には介護を家族全員で分担し、一人で抱え込まない体制を整えることが重要です。また、家族会への参加は、同じ経験を持つ人々との情報交換や心の支えとなります。

各地域の相談窓口や専門機関の活用も有効な手段です。地域包括支援センターでは、福祉サービスの情報提供から具体的な介護方法のアドバイスまで、幅広い支援を受けることができます。 さらに、介護保険サービスを活用することで、介護の実践的な負担を軽減できます。デイサービスやホームヘルプサービス、ショートステイなどを組み合わせることで、介護者の休息時間を確保することができます。状況に応じては、施設入所という選択肢を検討することも重要です。

長期的な介護を継続していくためには、これらの支援やサービスを躊躇せずに活用し、介護者自身の心身の健康を守ることが不可欠です。一人で抱え込まずに、利用可能な支援を積極的に取り入れることが、持続可能な介護の実現につながります。

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