周りの人に迷惑?児童館、近くの公園からも足が遠のき…居場所がなかった自閉症息子1歳の頃
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
親子で楽しく通えていたはずの支援センター。しかし1歳頃から足が遠のくように……
たーちゃんが赤ちゃんの頃は自宅保育をしており、地域の支援センターによく通っていました。
同じくらいの月齢のお友だちと遊んで刺激を受けたり、人見知りや場所見知りがよくなったりしたら良いなと思ったからです。また、私にとってもほかの保護者の方と話すことで、情報交換や気分転換ができました。
たーちゃんは、人見知りや場所見知りで泣くことはありましたが、歩き始めるまでは問題なく通えていたと思います。
しかし、1歳頃から徐々に支援センターへ行きづらくなりました。たーちゃんの困った行動が目立つようになり、周りからの視線が気になってきたからです。
支援センターでの困った行動。まだ小さいからしょうがない?でも周りからの目が気になって……
まず気になったのは、ほかのお子さんが遊んでいるオモチャを取ってしまうことでした。
「ほかの子が遊んでいるから、違うオモチャで遊ぼう」と誘導しても、一度気になると執着心が強く、なかなか気持ちを切り替えられませんでした。今考えると、ASD(自閉スペクトラム症)の特性で、人への興味より、物への興味が強かったのかもしれません。
それに関連して、オモチャや絵本を次々出してしまうことも気になっていました。
その頃のたーちゃんは、支援センターでも自宅でも、ひとつのオモチャでじっくり遊ぶことはほとんどありませんでした。ほんの少し遊んだあと、別のオモチャを出して遊んでいました。
「遊ぶ」というより、「出す」ことのほうを楽しんでいるようにも見えました。飽きっぽいのか、集中力がないのか……。
私はたーちゃんがひっきりなしに出すオモチャや絵本を片づけ続けなくてはなりませんでした。
ほかには、落ち着きがないことも気になりました。職員さんが絵本の読み聞かせをしてくれてもウロウロしたり、前に出て絵本をめくろうとしたりしていました。もっと月齢の低いほかのお子さんでもじっとしているのに……。どうしてたーちゃんはできないのだろう、と疑問に思っていました。
そして一番困っていたことは、あまりにも周りを見ずに部屋の中を走り回ってしまうことでした。私や職員さんが何度注意しても、やめられなかったです。歩けない赤ちゃんもいる中で、けがや事故につながったらと不安になり、だんだんと足が遠のいてしまいました。
支援センターや児童館に行かなくなり、次は公園に。しかし、そこでも問題が。
赤ちゃんの頃から、エネルギーがいっぱいあるたーちゃん。支援センターで動き回っているのを見て、たくさん体を動かせるように外で遊ぼうと思い付きました。まず、一番家から近い公園に行ってみました。
しかし、ここでも問題が……。たーちゃんは公園でも遊びに集中することなく、すぐに公園の外に出ていってしまうのです。あまり広くない公園で、すぐそばに交通量の多い道路もあり、飛び出してしまわないかいつもヒヤヒヤしていました。
また、感覚過敏もあり手を繋ぐことも難しく、自宅から公園への行き帰りも大変でした。大人の足なら3分かからない距離なのに、片道30分近くかかることもありました。
さらに、公園から帰りたくなくて癇癪を起こすことも何度もあり、たーちゃんと外に出るのがどんどん億劫になっていきました。
迷惑をかけない、のびのび遊べる大きい公園に。夫の協力にも感謝。
どこにも居場所がないような気がして、たーちゃんと家で過ごすことが増えていった1歳半頃。塞ぎこんでいた私を気遣ってか、夫が平日休みや午前休を取り、夫とたーちゃんだけでよく車で出かけてくれました。少し遠いところにある広い公園をいろいろ探して、2~3時間ほど遊んでくれたのです。
その間は私のリフレッシュの時間にしてくれたことを、今でも感謝しています。午前中は夫とたくさん遊んで、午後は自宅で過ごす。そんな日が増えました。
私も気力がある時にはたーちゃんと近所の公園に行ったり、自転車を購入して広い公園に行ってみたりしました。
徐々に、危な気なく公園で遊べるように。大変なこともあるけど、成長を感じる。
そんな生活を続けていると、2歳あたりから公園から抜け出すことが減ってきました。言葉が通じるようになったことが、理由のひとつかなと思います。近所の公園で平行遊びをする友だちもでき、たーちゃんの成長を感じました。
しかし、お友だちとのコミュニケーションはまだまだ難しく、私はいつもたーちゃんとつきっきりで遊んでいました。そのため、ママ友とのおしゃべりに花を咲かせることはあまりなく……。よく子どもたちのお世話係になりがちでした。でも、それも今となっては良い思い出です。
その頃に仲良くなった近所のお友だちやママ友のおかげで、今通っている幼稚園も楽しく過ごせています。トラブルを避けることも大事ですが、居場所がないと諦めずに家族全員で頑張ってこれて良かったです。
執筆/みかみかん
(監修:室伏先生より)
みかみかんさん、たーちゃんが安心して遊べる場所が少なかった頃のたーちゃんの様子や過ごし方、その時のお気持ちなどについて詳しく共有してくださりありがとうございます。共感されるご家族は少なくないのではないかと思います。お子さん・ご家族が安心して過ごせたり、ご家族が安心して預けられる場所というのはとても重要ですよね。療育はそういった場所の一つと思いますが、療育が必要なお子さんでも、1歳頃ですとまだ受け入れが難しい場合も多いですし、施設には限りがあるので十分な時間過ごせるとも限りませんよね。お父様が広い公園に連れて行ってくださったとのこと、移動手段や生活環境などによって難しいご家庭もあるかと思いますが、たーちゃんにとっては安全に思い切り遊べる場所になり、みかみかんさんにとっては一息つく時間になって、とてもよかったですね。このようなお子さんが安心して過ごせる場所が増えること、療育をもっと低年齢から幅広く利用できるようになることを願います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。