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静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーほかで7月18日に上映が始まった外崎春雄監督「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」を題材に。コミックス全23巻の累計発行部数2億2000万部を突破した吾峠呼世晴さんの人気漫画「鬼滅の刃」の新作アニメの劇場版が公開された。 2020年10月公開の劇場版「無限列車編」は世界40カ国以上で上映され、累計来場者数は約4135万人、総興行収入は約517億円を記録した。日本国内歴代興行収入1位。当時は国会の首相答弁でも作中のせりふが取り上げられ「国民的作品」との声も聞かれた。 「無限城編」は、そんな「鬼滅の刃」シリーズの最新作だけに、関係者やファンの期待が大きい。「遊郭編」「刀鍛冶の里編」「柱稽古編」とテレビシリーズが続いた後の、3部作と予告された劇場版第1弾。7月18日、全国452館、県内では12館で上映が始まった。 初日の雰囲気を確かめようと、静岡市葵区のシネシティザートに足を運んだ。この日の同館は午前9時5分を皮切りに、上映は21回を数えた。2020年の「無限列車編」公開日の静岡新聞の取材記事を確認したところ、28回だった。それに匹敵する上映回数である。午後8時上映の席をネット予約し、午後7時25分に新静岡セノバ9階へ。シアター1の320席は完売だった。 時間の余裕をみて会場入りしたつもりだったが、パンフレットや飲料を購入するための長蛇の列に巻き込まれた。客層を確認すると、高校生や大学生の男女それぞれのグループ、母娘という組み合わせが最も多い。次いで男女の2人組。自分も含めた男性一人も目についた。皆、一様に上気した顔をしている。夏休みを前にした高揚感も入り交じっているのだろう。 入場者特典の特製アートスタンドを受け取り、自分の席に着いたのは上映開始時刻の3分前。チケット完売なので当たり前だが、びっしりと客席が埋まっている。レイトショーで満員の客席に身を置くのは人生で初めてかもしれない。

上映時間は155分。途中トイレに立つ客も見られたが、終始スクリーンに目を奪われていた。ストーリーを詳しく記すのは避けるが、何より無限城の細密な描写に圧倒される。日本家屋の建築構造を際限なくスケールアップしていて、廊下や柱、ふすま、回廊、ひさしなどが画面の奥の奥まで続いている。不規則にともる明かりの美しさが尋常ではない。 エッシャーのだまし絵や、ピラネージの「牢獄」も想起させる、これまでに見たことのない世界である。静岡的に言うならば、果てしなく続く蓬莱橋のような構造物もあった。これは大きなスクリーンで見る価値がある。 しかもこの世界は重力の方向が一定しない。鬼狩りの組織「鬼殺隊」の隊士・竈門炭治郎と最高位剣士「柱」の富岡義勇を始め、登場人物が落下していく場面が多々あるが、不思議な浮遊感があって何度も見たくなる。 作品パンフレットのプロダクションノートによると、「無限城」の描写は困難を極めたようだ。数値データを元に3DCGを描画する「レンダリング」の作業は、当初計算では3年半かかるとされた。商業作品としては現実的でないこの期間をいかに縮めるか。制作会社のufotableは設備投資や制作システムの開発など、さまざまな工夫を凝らしたという。 「無限城編　第一章」は原作のコミカルな面を残しつつ、「上弦の参」に位置する鬼「猗窩座」と炭治郎、義勇のアクションシーンにたっぷり時間をかける。猗窩座の軸足の踏み込みから蹴り、突きに至る動作のスピードに見ほれた。 上映終了後のざわめきの中には、大きく息を吐く音が聞こえた。緊張感から解き放たれた、といった雰囲気だった。目頭を押さえる客も多々見かけた。「コミックを読んだのはずいぶん前だったから、この展開を忘れていた」と話す若い女性もいた。 本作は恐らく、コミックスの16巻中盤から18巻中盤あたりまでを描いている。このペースで3部作となると、23巻のラストまでたどり着かないかもしれない。もしや「３部作の次」があるのでは。そんな考えが頭をよぎった初日の鑑賞だった。 （は） ＜DATA＞※県内の上映館。7月18日時点ジョイランドシネマみしま（三島市）シネプラザサントムーン（清水町）シネマサンシャイン沼津（沼津市）シネマサンシャインららぽーと沼津（同）イオンシネマ富士宮 （富士宮市）MOVIX清水（静岡市清水区）静岡東宝会館（静岡市葵区）シネシティザート（同）藤枝シネプレーゴ（藤枝市）TOHOシネマズららぽーと磐田（磐田市）TOHOシネマズサンストリート浜北（浜松市浜名区）TOHOシネマズ浜松（浜松市中央区）