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【静岡空港の新幹線新駅構想】30年くすぶる静岡県悲願の空港新駅問題を解説します。川勝平太前知事の退任でJR東海側に変化の兆し⁉「完全否定」が「対話」に。

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡空港の新幹線新駅構想」です。先生役は静岡新聞の市川雄一ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月17日放送)

(市川)今日は最近、ニュースで取り上げられる機会が増えた「空港新駅」について解説したいと思います。山田さんはこの話題、聞いたことがありますか?

(山田)聞いたことはあります。ただ、可能性は薄いだろうというようなことを言われていませんか。

(市川)そうなんです。先日、静岡空港が2009年の開港から15年を迎えましたが、実はあの場所に空港を造ることが決まったのは1980年代後半なんです。そのころから、静岡空港に直結する新幹線駅の構想はありました。

(山田)そんな前からですか!

(市川)1980年代後半から静岡県はずっと空港新駅を造ろうと言い続けているので、もう30年ほどの歴史があります。なぜ、空港新駅を造ろうという話が出たのかというと、静岡空港が全国でも珍しい特色を持つからなんです。その特色というのが、新幹線の線路の真上にある空港ということなんです。全国でもこんな空港はありません。

(山田)そうなんですか。

(市川)空港の直下に新幹線が通っているのであれば、そこに駅があって止まってくれれば静岡空港の利便性が高まって利用者が増えるということで、空港の建設地が決まった時点から空港新駅の構想は静岡空港とセットでの要望だったんです。その歴史の証として、今日は2000年の静岡新聞の1面を持ってきました。

(山田)見たいですね。

(市川)1面トップで大きく「静岡空港『直下駅』了承」という見出しが出ています。

(山田)本当だ。

(市川)2000年8月24日付の朝刊なんですが、静岡空港に新幹線直下駅ができることが決まったかのような見出しと扱いですよね。県や地元市町、経済界などで構成する期成同盟会がさまざまな案から、空港直下の案に決めたという記事です。

ただ、この記事には小さくですが、JR東海の言い分も載っています。JR東海のコメントは「静岡県の言う新幹線新駅については設置不可能であり、これまで一貫して申し上げてきた」と完全否定しているんです。

(山田)設置不可能というのが、大きな見出しと対照的ですね。

「否定」の理由は掛川駅との距離と採算性

(市川)このコメントからもわかるように、新幹線は民間鉄道ですから、どこに駅を造るかは、JR東海が決めることです。いくら期成同盟会が直下駅を造る考えを了承したと言っても、JR東海は一貫して、空港新駅に否定的なんです。

(山田)JR東海は造らないよと言っていると。

(市川)一番の理由は空港新駅の想定地と近隣の掛川駅の距離の近さなんです。

(山田)確かに。

(市川)掛川駅との距離は約15キロです。

(山田)15キロですか。

(市川)これでは、高速鉄道である新幹線にとっては高速性の維持が難しくなるということを言ってるんですよね。

(山田)確かに。「こだま」もより遅くなりますよね。

(市川)そうなんですよ。「こだま」しか止まらないとしても線路は1本なので、JR東海にとってドル箱の「のぞみ」のダイヤにも影響してきます。そうなると、JR東海にとっては「うん」というわけにはいかないんです。ちなみに三島ー熱海間が16キロなので、それぐらいの距離感だと思ってください。

(山田)なるほど。三島ー熱海間もすごく近いですよね。

(市川)もう一つJR東海が否定的な理由としては採算性の問題があります。静岡空港の近辺には空港以外の施設がありませんから、駅利用者は空港利用者が想定されます。ただ、今の静岡空港の利用者は、年間51万人なんですね。単純計算で365で割ると、1日1400人です。

(山田)新幹線の駅としては1日1400人は少なくないですか。

(市川)しかも、車で来たりバスを利用したりする人もいますから、1400人がみんな新幹線を利用してくれるわけではありません。静岡空港利用者のこれまでの最高は2019年の73万8千人ですが、それでも1日2000人です。

(山田)他の新幹線の駅はもっと利用者がいるんですよね?

(市川)ちなみに静岡県が県内の新幹線の1日平均乗車人員を公表していますが、静岡駅で4万2000人ほど。少ないと言われてる熱海でコロナ禍前の2018年で4825人、新富士でも4874人いました。そう考えると、その半分以下の利用者ということになるとなかなか造りづらいですよね。仮に、静岡空港の利用者が100万人に達成しても、365で割れば、1日2700人余りですから。

(山田)いやー、それだと造るメリットがないですね。

(市川)ただ、静岡県は一貫して諦めていません。今日は2011年1月3日付の静岡新聞朝刊も持ってきましたが、1面に「県、空港新駅核に交通体系 中央リニア踏まえ」という記事が掲載されています。このあたりから空港新駅にリニアが絡んでくるんです。

というのも、東京、名古屋、大阪を結ぶリニアができることによって、「こだま」や「ひかり」の輸送体系が変革するという話が出てきたからなんです。最近もいわゆる「こだま」や「ひかり」の静岡県内の停車本数が増えるという話がありましたが、こういった話は実は2010年ぐらいから国がしていたんです。

(山田)2010年からそういう話があったんですね。

「空港新駅」前提に川勝前知事が「リニア全面支援」と語ったことも。

(市川)この記事を見てもらうと面白いんですが、当時の川勝平太知事は「リニアを全面的に支援する。JRとの関係が新たなステージに入るとの認識でデザインを描く」と言っているんです。川勝さんは2009年に初当選しているので、それから2年後ぐらいの話です。

(山田)まさか、真逆になるとは…。

(市川)今思えば、当時はこんなことを言っていたのかというような話ですが、ただ、それは空港新駅が前提というような文脈で話しています。

この頃は国も、リニア中央新幹線の整備計画を審議する国土交通省の交通政策審議会が、リニア整備の意義のとして「東海道新幹線のサービスは相対的にひかり、こだまを重視した輸送体系へと変革することが可能となるほか、新駅の設置などの可能性も生じる」と言っていました。

JRが一貫して否定してきた空港新駅ですが、リニア開通による環境変化により、可能性が出てきたというのを国が明言したのが2010年末。それを県が好機と捉え、新駅を核に交通体系の見直しに動き出すということが2011年の記事になったというわけです。

(山田)なんかすごく希望に満ち溢れてる感じがしますよね。

(市川)2011年はさらに大きな出来事がありましたよね。東日本大震災です。この未曾有の大災害から、県は首都直下地震が起きて羽田、成田の両空港が使用できなくなった場合、それに代わる第3の首都圏空港として静岡空港の存在意義を語り、防災上、空港新駅が必要という主張を盛んにするようにもなりました。

県は2014年度から2019年度まで空港新駅の調査費を計上し、県の有識者検討委員会は新駅設置が技術的には可能、という結論も出しています。2016年には建設工事費が400億円超になるという独自の試算も明らかにしています。

(山田)こういう流れがあるということは知らなかったです。そこで?

(市川)それでもJR東海の姿勢は昔から変わっていません。ただ、最近にわかにまた注目されるようになってきました。まず、2022年にお隣山梨県の長崎幸太郎知事がリニア沿線自治体でつくるリニア建設促進期成同盟会で空港新駅実現に向け議論していく考えを明らかにしました。

静岡県知事交代でどうなる空港新駅構想

さらに、この5月には静岡県知事が川勝さんから鈴木康友さんに代わりましたよね。鈴木知事は早速、6月5日にJR東海の丹羽俊介社長と面会するんですが、そこで今まで一貫して否定していたJR東海側の言葉のニュアンスが少し変わりました。丹羽社長が「県の考えを受け止め対話する」ということを言ったんです。

(山田)設置不可能と言っていたのが?

(市川)「不可能だ」とずっと主張し、勝手にそんなことを議論されても私たちは迷惑だというようなことも言っていたんですが、「県の考えを受け止めて対話する」というこれまでとは違ったトーンの発言に変わったんです。設置するとはもちろん言っていませんが、大きな前進と受け止める関係者もいます。

(山田)それはやはり川勝前知事が否定していたリニアの話が、鈴木新知事になって進むと見込んでJR東海側もこういう発言をしたということですか。

(市川)その可能性が高いと思います。ここで思い出すのが、前回のラジオで話した鈴木知事の著書「市長は社長だ」の中にあった北風と太陽の話ですよね。強硬路線と柔軟路線を巧みに使い分けて相手と交渉をしていくというような話でしたが、おそらく鈴木知事は今回の空港新駅の話もそういった交渉術を使ってJR東海と話をしていくとみられます。それがスタートしたところかなと思います。

(山田)そうは言ってもまだまだ先の話でしょうね。

(市川)実は先日、静岡市の難波喬司市長が会見で、空港新駅の建設事業費について「今だと700億円くらいかかるのではないか」と発言して物議を醸しました。これまで400億円という試算が出ていましたが、物価高や建設工事の人材不足などが影響して建設事業費が高騰するという話です。基本的に空港新駅を造る場合、JR東海はお金を出さないので、静岡県や近隣の市町が100%資金を拠出する必要があります。

(山田)そうなんですか。

(市川)税金で静岡空港新駅を造ることの是非は、やはり県民に問わなければいけないと思います。県は静岡空港が開港した当時、需要予測として利用者数を年間138万人と見込んでいました。ところが現在は51万人、最高でも72万人という現実を考えた時、採算性が取れない空港新駅は造れないというJR東海の言い分はわかります。

一方で、空港新駅を造ることで伸び悩んでいる空港利用者数を増やしたいという県の気持ちもわかります。ただ、まずは県側が空港の利用者を増やし、新駅を造っても利益を生むような環境を整えることが最初かなと思います。

(山田)そうですね。そしてやはり周辺ですよね。「KADODE OOIGAWA」という施設ができたし、週末も「きかんしゃトーマス号」の運行などで、周辺地域も賑わうようになってきていますからね。

(市川)静岡空港新駅ができたときに、空港だけではなく、駅を核にして他にもたくさんの魅力があるというような地域になっていけば、JR東海も新駅を造りましょうということになるかもしれないですよね。

(山田)われわれも楽しみな感じがしますけど、今のところ市川さんが話してくれた数字などを見てみると…。

(市川)単純に考えればJR東海が造ると言うとは思えないですね。ただ、リニアの話なども絡んでくるとなかなか複雑な話ではあります。

(山田)そうですね。番組の公式Xにも「飛行機の発着前後だけ(新幹線が停まる)でいいと思う」という意見も寄せられています。

(市川)「こだま」は今のところすべての駅で止まっているんですよね。飛ばす駅はないんです。それをJR東海が決断したとしたら、すごいですけどね。

(山田)知らないこともたくさんありました。ありがとうございました。今日の勉強はこれでおしまい!

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