【インタビュー】『F1/エフワン』過酷撮影の裏「筋肉ガチガチ、Gで首がやられる」 ─ 製作ジェリー・ブラッカイマーに訊いた
『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー監督とプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーが再タッグを組み、今度は舞台を空から地上のサーキットに移した白熱の映画『F1®/エフワン』が公開中だ。『トップガン』と同じように、ブラッド・ピットら役者たちが本物のF1®レースカーの操縦を学び、車体やコックピットにカメラを取り付けて実際の走行シーンを撮影した。
ブラッド・ピットが演じる主人公は、かつて“天才”と呼ばれた伝説の F1®レーサー、ソニー。誰よりもレースの過酷さを知る男が現役復帰を果たしたのは、どん底の最弱チーム。しかし、型にとらわれないソニーの振る舞いに、自信家のルーキードライバー・ジョシュア(ダムソン・イドリス)やチームメイトたちは困惑し、度々衝突を繰り返す。バラバラのチーム、そして、最強のライバルたち。敗北が濃厚となる中、ソニーの“常識破りの作戦”が最弱チームを導いていく。
本物のF1®レースの合間に撮影を敢行したという驚きのエピソードや、『トップガン マーヴェリック』から発展させたこと、新たなる挑戦。THE RIVERでは、ジョセフ・コシンスキー監督とジェリー・ブラッカイマーにそれぞれ単独インタビューを行い、この驚愕すべき作品の背景を詳しく聞いた。
この記事では、ジェリー・ブラッカイマーへのインタビューをお届けする。
映画『F1®/エフワン』製作 ジェリー・ブラッカイマー 単独インタビュー
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──あなたはトニー・スコットとともに『トップガン』後に『デイズ・オブ・サンダー』を作りました。そして、『トップガン マーヴェリック』の後に本作を作った。なぜ戦闘機映画の後にレース映画を作るのでしょうか?
とても面白い世界だからです。F1®の世界は、10のチームや2人のドライバーで成り立っている。チームメイトと競い合うという点で、唯一のスポーツです。非常に面白みがあって、ドラマ性もあります。私は「プロセス映画」と呼ぶものを作るのが好きです。普段なら立ち入ることができないような世界の内側に入り、どんなものかを体験できるような映画です。
しかし、私たちはレースの世界にいて、F1®の世界やレースについて何も知らなくても、関心を持っていなくても、この映画を楽しむことができます。これは本当に素晴らしい体験です。キャラクターの旅です。感動的で、面白く、素晴らしい音楽もあります。私が子供の頃、映画に求めていたものは、まさにこれでした。自分の人生から抜け出し、このクレイジーな世界から2時間強、素晴らしい旅と興奮を楽しめるものです。
この映画を作る前に、まず最初に相談したのは、ルイス・ハミルトンでした。この作品を本物でリアルなものにしたかった。彼は今作のプロデューサーの一人であり、レースや感情的なストーリーテリングに深く関わっています。ルイスからは多くの素晴らしいアイデアが生まれました。彼は本物のレーサーですから。
さらに、F1®チームを訪れ、ステファノと時間を過ごし、必要なアクセスも確保しました。そして、各チームの代表とも時間を過ごしました。ドライバーたちとも時間を過ごしました。ジョー(・コシンスキー監督)は彼らに向けて特別映像を作成し、トップガンの制作方法を見せたのです。彼はレース中に私たちの車をレースに投入する方法を示すテストも実施しました。
メルセデスが私たちのために車の開発をしてくれていたのですが、その一方でレッドブルとのライバル関係がありました。そういうわけで、本作ではレッドブルが悪役になるだろうと考えました。しかし、クリスチャンやマックスといったチームの皆さんと仲良くなると、(レッドブルとのライバル関係は)事実ではないと気づきました。数週間前にモナコで皆さんに本作を見てもらったところ、大変気に入ってもらえました。
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──私は先日、本作で音楽を手掛けたにをしました。彼は本作について、こう話しました。「この映画は劇場で観なければ魅力が半減する。今作では、エンジンの唸りを体感してほしい。クルマというのは、ノイズがなければダメだ」と。試写室で鑑賞して、その通りだと思いました。機体の音という点でいえば、これは『トップガン マーヴェリック』の戦闘機よりもさらに重要だったと思います。サウンドメイキングでこだわったポイントを教えてください。
『トップガン』と同様、スカイウォーカー・サウンドにお願いしました。ジョーにとっても私にとっても、サウンドは最優先事項でした。しっかり時間を確保したかったので、彼は2ヶ月か3ヶ月くらいはサウンド作業に費やしていました。レース中の録音にも関わっていました。
まず最初に音を録り、プリ・ダブには6ヶ月を使い、最後の2ヶ月はジョーが直々にミキシングをしました。そしてルイスにも音を聞いてもらい、「シルバーストーンの3つ目のコーナーではセカンド・ギアに入れているはずなのに、サード・ギアの音になっている」といったレベルまで細かな調整を行いました。それから、5つ目のコーナーでは追い越すことができない、といったアドバイスなどももらいました。それを参考に、劇中ではドラマチックな出来事を描きました。
──『トップガン マーヴェリック』に比べて、ドライバーの首の動きに合わせた一人称映像が増加しました。操縦席での撮影において、『トップガン マーヴェリック』から進化したことについて教えてください。
まず、カメラが1/3まで小型化しました。『トップガン』の時はコックピットに6台設置しましたが、今回は車体に15台のカメラを取り付けています。実際のF1®ドライバーは顔にカメラをつけませんから、本作のドライバー役の方はさらに難しい操縦をしていたと思います。カメラによって視覚がほとんど遮られてしまうので、慣れてもらうために4ヶ月の訓練を重ねました。まるでロケットですよ。
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──F1®という実在の競技とのコラボレーションには、ロジスティック面も含めて多くの困難があったと思います。F1®界との交渉や協力体制で特に印象的だった出来事は?
転機で言うと、彼らが我々に慣れてくれて、この映画が可能だとわかっていただけた時だったと思います。難しい部分では、全部で10のサーキットを訪れたのですが、そのうちの9つではそれぞれのF1®プロモーターとチームを持っていたため、それぞれと一緒に開発を行う必要があったこと。
その結果、練習や予選の間の10分間しかもらえないこともありました。5分しかもらえないこともありましたし、全くもらえなかったこともありました。そのため、実際のレースに合わせて調整する必要がありました。
<!--nextpage--><!--pagetitle: 『フォードvsフェラーリ』や『グランツーリスモ』は意識したか? -->
──近年、『フォードvsフェラーリ』(2019)や『グランツーリスモ』(2023)といった本格的なレース映画が登場しました。これらとの違いや、参考にした部分、意図的に避けた要素について教えてください。
意図的に避けたもので言うと、加工されたものですかね。『フォード vs フェラーリ』も本物志向だったと思いますが。本作は全てが本物です。ダムソンとブラッドは本物の車に乗り込み、時速180マイルで走っています。過酷な撮影でした。
──世界各地で行われるレースの一つ一つを通じて物語が展開されます。場面が切り替わるごとに物語が断絶されないようにするのは難しかったですか?
そうですね。本作にはソニーの旅を通じた、一貫したテーマがあります。若い頃に過ちを犯し、あまりにも大胆だった男が、どのように贖罪を果たすのか、どのようにこの世界に戻ってくるのか。彼の復帰は望まれていませんでした。
ハビエル・バルデムが演じるキャラクターは、若い頃に彼と走った男であり、今では自分のチームを所有している。最下位のチームで、勝たなければチームを失う。そしてレースはあと9回ある。さて、どうする?それが本作のドラマです。
ブラッドは世界中どんなレースであっても、走りを愛している。常にチームを向上させてくれる。だからハビエル・バルデムは彼を招き入れた。さて、どうなるのか?映画を観て確かめてください。
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──前作『トップガン マーヴェリック』同様、対立していた二つの世代が信念を共有することで絆で結ばれる物語が描かれました。トム・クルーズとマイルス・テラーのように、ブラッド・ピットとダムソン・イドリスを主体にしたのはなぜですか?
異なる関係性が描かれています。今作での二人は競争相手です。それがF1®というもの。チームメンバーであっても競い合うのです。そこにドラマがあり、スポーツの精神があります。
──ブラッド・ピットら役者たちがF1®の操縦を覚えていくプロセスはどのようなものでしたか?『トップガン マーヴェリック』での学びが応用できたことや、また初めての挑戦があれば教えてください。
全てが新しいチャレンジでしたが、確かに技術面では応用が効きました。本作では新しいテクノロジーを開発していて、例えばカメラをリモートでパンできる技術。これによって、顔のアップから走り去る車へと移動できるようになりました。これは『トップガン』の時にはなかったものです。そのために、トラックの周辺にアンテナを設置しました。
こうした新技術に加えて、ソニーが本作のために特別なカメラを開発してくれました。そして、本作にはAppleの協賛も入っています。彼らもiPhoneカメラを改良し、2台のレースカーのために提供してくれました。本編では、実際にルイスやマックスが運転する映像も使われていますが、その視点は時速200マイルで走行しています。
──この映画を通じて、F1®ファンには何を伝えたいですか?そして、F1®を知らない観客にはどんな入り口を用意したと思いますか?
私たちがやろうとしたのは、普遍的な贖罪とチームワークの物語を取り入れて、それを作品全体に織り込むことだったと思います。そして、それこそがF1®なんです。F1®というのは、ものすごいチームワークで成り立っているんです。
レースを見ていても、あなたがF1®についてあまり知らなかったり、かつての私のように関心がなかったとしても、ピットクルーやモニターを見ている人たちは目に入りますよね。でも実は、その背後にはイタリアなどに1,000人もの人たちがいて、彼らがこの車を支えているんです。
彼らは車を“自分たちで”作っています。エンジンだって自作で、しかも毎週のように改良を重ねている。つまり24時間体制で、この車をレースに間に合わせているんです。
だから今回の作品では、そういう舞台裏に目を向けてみたかったんです。私は以前から、“自分が普段は立ち入ることのない世界の内部”を見せる作品を作るのが好きだと言ってきました。それがどう動いているのかを見せることに意味があると思っている。
それは、戦闘機パイロットを扱った作品でも同じでしたし、『CSI:科学捜査班』をやったときもそうでした。観客は、実際の捜査官たちが何をしているのかを見ることができた。今回も同じです。観客をその世界に引き込んで、感情のこもった物語と、ユーモアや印象的な瞬間を届けることができればと思っています。
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私たちは『ブラインド・プレビュー』という形式の試写を行っています。観客には何の映画を観るか一切知らせずに来てもらうんです。上映後、20人ほどのフォーカスグループで意見を聞きます。
最初の質問は、『F1®のレースについて事前に知っていた人はいますか?』というものでした。手を挙げたのは、たった1人だけ。次に、『F1®に興味がありますか?レースに行きたいと思いますか?』と聞いたところ、全員が手を挙げました。
ある女性がこう言ったんです。『正直に言うと、席に座って“F1®の映画です”って言われたとき、私はF1®にまったく興味がなかったし、何も知らなかったから帰ろうかと思った。でも、……
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ある女性がこう言ったんです。『正直に言うと、席に座って“F1®の映画です”って言われたとき、私はF1®にまったく興味がなかったし、何も知らなかったから帰ろうかと思った。でも、最後まで観て本当によかった。すごく気に入ったし、友達にも観るように勧めるつもりです』と。
つまり、F1®のことを何も知らなくても、レースに興味がなくても、ブラッド・ピット、ハビエル・バルデム、ダムソン・イドリス、ケリー・コンドンといった俳優たちが、“最高の体験”を観客に届けてくれるんです。
──『トップガン マーヴェリック』と異なり、F1®はスポーツなので、勝敗があります。また、『トップガン』よりもチームプレーの要素が強化されていました。スポーツの美しさはどのようなものだと思いますか?また、それを表現することの醍醐味を教えてください。
勝者はひとりだけ。たったひとり。でも、誰もがその“ひとり”になりたくて、みんなそのために努力する。ただし、チームワークがあれば、全員が“勝者”になれるんです。たとえ勝ったのがひとりでも、みんながその勝者を支えていて、みんなでその喜びや歓喜を分かち合えるんです。
配給:ワーナー・ブラザース映画
──『トップガン マーヴェリック』と同様に、この映画も撮影手法の面で限界を押し広げているように感じます。あなたは先ほど、技術を開発したという話もされていましたが、もう少し詳しく教えていただけますか?
すべて断片的に撮影していったんです。ブラッド(・ピット)やダムソン(・イドリス)を実際に車に乗せて、同じシーンを何度も何度も繰り返し撮った。 彼らはF1®の実際のドライバーたちよりも多く運転していたと思います。というのも、レース自体はだいたい1時間半くらいですが、私たちのレースシーンの撮影では、彼らは合計で8〜10時間も車に乗っていたんです。
これはかなり過酷でした。俳優たちは身体を鍛えるだけでなく、筋肉をほぐすためのマッサージも欠かせなかった。体がガチガチになるんです。 運転していないときも、体力維持のためにトレーニングしていました。G(重力加速度)の影響で首がやられてしまうからです。
だから、この撮影プロセスは俳優にとって本当に大変でした。でも、高速で走りながら台詞を言うとなると、演技をしていることを忘れないようにしないといけない。
印象的な話があります。ジョー(監督)が話してくれたんですが、ベルギーのサーキットに『オー・ルージュ(Eau Rouge)』という急勾配のカーブがあるんです。ここは非常に危険なコースで、坂の先が見えないままカーブに入るんです。もし前方で車が止まっていたら、一巻の終わりです。
で、ブラッドが実際にその坂を運転して走り抜けたとき、あまりの達成感に笑顔になっていた。 でもジョー(コシンスキー監督)は、『ブラッド、このシーンでは笑っちゃダメ!この場面では不安そうじゃなきゃ』と注意していましたよ(笑)。そんな感じで、彼らは本当に楽しんでたんですよ、車を運転すること自体を。
素晴らしい質問をありがとう。よく準備してくれたね。
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映画『F1®/エフワン』は大ヒット公開中。