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中村獅童と寺島しのぶ、今度は『芝浜革財布』で魚屋夫婦になる~12月歌舞伎座公演ビジュアル撮影レポート

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『芝浜革財布』ビジュアル撮影より

2025年12月4日(木)より、歌舞伎座『十二月大歌舞伎』第二部で『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』が上演される。開幕に先立ち、中村獅童と寺島しのぶのビジュアル撮影が行われた。2年ぶりに歌舞伎座の舞台で共演するふたりは、今回も夫婦役を勤める。

同じ年に生まれ、幼い頃から互いを知る間柄でもある獅童と寺島。ふたりの作る空気が、どんな『芝浜』の政五郎とおたつを生み出すのか。ビジュアル撮影の模様をレポートする。

■表情が変わり、物語が立ち上がる

獅童と寺島のスケジュールの合間を縫っての撮影。ある現場に、背景・照明一式を持ち込み、撮影は行われた。

政五郎は、ぼてふりの魚屋。仕事がおろそかになるほどのお酒好き。

『芝浜』は、落語をもとにした世話物。主人公の魚屋の政五郎は、芝の浜で大金の入った革財布を拾う。大興奮で持ち帰った政五郎は、町人仲間を集めて宴会をひらくが、ひと眠りして目を覚ますと財布が見つからない。女房おたつも、財布なんて知らない。「夢でも見たのでは」と諭されるのだった……。

おろしたての草鞋に絵の具をこすりつけ、泥がついているかのように仕上げていた。

最初にカメラの前に立ったのは寺島だった。小道具を確認し、「徳利を隠してみる?」など提案する。カメラマンも「ナイスアイデア!」と即答し、撮影は順調にスタートした。

六代目尾上菊五郎が演じ、七代目菊五郎も当り役とした演目だ。七代目を父に持つ寺島は、父の『芝浜』をずっと観てきた。「観るたびに“やっぱり好きだな”と思うんです。父がやる中でも、一番と言って良いくらい好きな作品。獅童くんの政五郎で、私がおたつをやらせていただく日が来るとは思いませんでした」。

七代目の舞台を見てきたからこその、アイデアと安定感。

撮影中、徳利を抱えれば「ダメだよ」、財布を手にすれば「どうしよう……」など、寺島はポーズに合わせて、おたつの心情を小さな声でつぶやいていた。気分を作るために“言った”というより、おたつの思いが自然と零れたような瞬間だった。

■撮影現場に流れる、二人ならではの間合い

獅童もすぐに合流。皆で過去の舞台写真も参照しながら、イメージを確認しあう。

獅童が資料に目を落としていると、ふと寺島が「ねえ、機嫌悪くない?」と茶目っ気たっぷりに声をかけた。獅童は「真剣なだけ。普通にしていると、機嫌悪い? って言われるの!」と返す。ふたりの掛け合いに、現場は笑いに包まれ、和やかに2ショットの撮影もはじまった。何気ないやり取りに溢れる「気兼ねのなさ」が、自然体の空気を作っていた。

寺島が「奥さんに何か怒られたのかと思った(笑)」と言えば、獅童は「めちゃくちゃ仲良いし」と胸をはる。カメラマンは、加藤孝氏。

劇中では、政五郎とおたつの思いが交錯する。ストロボが焚かれるたび、獅童と寺島の顔に、夫婦それぞれの思いがフッと浮かび上がる。そのままお芝居が動き出して、夫婦の会話が始まるかのようだった。先ほどの獅童と寺島の素の掛け合いとは別物の、政五郎とおたつの自然体だった。

■七代目菊五郎の一言をきっかけに

獅童と寺島は、2023年にも歌舞伎座の『文七元結物語』で共演。その際、七代目菊五郎が「次は『芝浜』をやったらいいんじゃないか」と提案したことが、二度目の共演につながったのだそう。

財布を拾ったはずの魚屋政五郎と、思うところのある女房おたつ。

『文七元結物語』は「楽しかった」と寺島は振り返る。

「皆さんが本当に優しくしてくださいました。歌舞伎の『文七元結』は、世話物として父も何度も演じていますが、2023年は、山田洋次監督の演出で、美術も独創的。すべてをイチから作り直したお芝居でしたから、私もある意味まっさらな気持ちで舞台に入ることができました」。

前回は、「女性が歌舞伎座の舞台に立つ」ことも話題となったが、獅童も寺島もそこは強調はしない。

今回も「自分の目で見てきたものを、自分の役目で、自分のできる形で舞台に出せたら」と、一人の俳優としての思いを語る寺島。獅童も、「もともと公演や演目により、歌舞伎座に女優さんが出ることはあったんですよね。多様性の時代でもありますし、しのぶさんも二度で終わらず、僕が出ていない歌舞伎にだって出たら面白いと思う」とエールを送る。

モニターに表示された写真を見て。

劇中には、政五郎が仲間と酒を飲み、女房自慢をはじめる場面がある。

息があうと、「すごく面白くなるシーン」だと獅童は言う。その友達役として出演するのが、錺屋(かざりや)金太に梶原善、大工の勘太郎に市川中車、左官の梅吉に市川猿弥、桶屋の吉五郎に澤村精四郎。想像するだけで楽しくなる配役だ。寺島も「素晴らしいキャストの方たちが揃いました」と期待を込める。

なお梶原善は、歌舞伎の舞台は初出演。

獅童のアイデアかと思いきや、実は七代目菊五郎が、「(獅童は)せっかく映画や色んな仕事をやっているのだから、その仲間を呼んできてもいいんじゃないか?」と提案したことがきっかけに。

「とはいえ、ただ歌舞伎の世界の外から人を呼べばいい、ということではありません。世話物の中での、友達同士。そんな役にぴったりなのは誰かと考えた時、思い浮かんだのが善さんでした。善さんなら、長屋に出入りするお友達役にぴったりです。歌舞伎デビューしていただこうと思いました」

獅童と梶原は20年来の付き合い。獅童を、最初に三谷幸喜に紹介したのが梶原だった。それが、三谷が手掛けたシットコムのTVドラマ『HR』(2002年、主演:香取慎吾)に繋がった。近年では三谷脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での、獅童と梶原の共演も記憶に新しい。

■夜明け前の芝の浜で

獅童のソロカットは、拾った財布を懐に入れて大急ぎで帰るポーズの撮影から。獅童は天秤棒を軽く担ぎ上げ、さらりと表情を切り替えたかと思うと、一気に政五郎の高揚感をつくってみせた。圧倒される迫力だった。

寺島、梶原と、ふだんとは異なる顔ぶれを迎えるにあたり、通常ならば古典歌舞伎は3、4日間の稽古で初日を迎えるところを、「今回は少し早めに稽古をはじめる予定です」と獅童は話す。

「皆で話し合いながら稽古を進め、今のお客さんの感覚では説明不足になりうる部分は、分かりやすく少し演出を変えて。七代目のおにいさんも“面白くなるんなら、どんどんいじっていい”とおっしゃってくださいました。おにいさんが作り上げた『芝浜』の世界を守りつつ、どこかに中村獅童らしさを感じていただけるものになれば」

撮影中、獅童が、七代目の当たり役に挑むプレッシャーをこぼすと、寺島は「私は歌舞伎の一ファンとして、歌舞伎で世話物をやり続けて頂きたいと思っています。だからプレッシャーをかけ続けたいと思います」と笑っていた。

たらいに腰をかけて、煙管を吸う。

最後にお客さんへのコメントを求めると、「『芝浜』は、年末にぴったりのお芝居。第二部では、尾上松緑さんが主演する『丸橋忠弥』という、こちらもとても面白いお芝居も上演されます。2本のコントラストを、楽しんでいただけると思います」と寺島。獅童は、「しのぶさんと2人で食事に行くこともあるのですが、まだ一度も週刊誌に写真を撮られたことがありません。今回は撮られるようにがんばりたい」と冗談めかして意気込んだ。寺島も「たしかに!」と笑っていた。

立ち位置の確認のはずが、足の人差し指の長さの話題で盛り上がっていた。

この日のふたりは、きょうだいのようでも同級生のようでも、同志のようでもあった。週刊誌が「ちがうな」と思うのも納得の無邪気でオープンな空気感。それでいて撮影がはじまれば、2人は今度は“俳優”の顔に。俳優には、いくつもの自然体があるのだと気づかされる。

歌舞伎座の舞台で、二度目の共演。年の瀬の長屋で仲間たちに囲まれ、獅童と寺島がどんな『芝浜』を見せてくれるのか。歌舞伎座『十二月大歌舞伎』は、12月4日から26日までの上演。

歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『芝浜革財布』特別ビジュアル



取材・文・撮影(ビジュアル撮影)=塚田史香

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