独立系書店が選ぶ「学びのきほん」──OH! MY BOOKS 編【学びのきほんフェア2025】
書店インタビュー
「学びのきほん」シリーズ おすすめの1冊(第3回)
刊行開始から5年で、累計70万部以上を発行している「学びのきほん」シリーズ。2025年2月現在、全国の書店とNHK出版公式サイトにて、「学びのきほん」キャンペーンを実施中です。
今回は、「学びのきほん」シリーズを応援してくださっている書店にインタビュー。お店の紹介とあわせて、「学びのきほん」からおすすめの1冊を教えていただきました。
第3弾は東京の幡ヶ谷にお店をかまえる「OH! MY BOOKS」の店主・福永さんにお話をうかがいました。
自分1人のお店を持ちたい
──お店はビルの2階にありますけど、1階に看板がないんですね。ここにお店がある事が分かりづらいと思うんですが、目的をもって来られるお客さんが多いですか?
福永:そうですね、来ようと思って来てくれる人のほうが多いです。でも、このあたりは夜になったら暗くなるので、お店が明るく光って見えるらしく、バスを降りて歩道を歩いたりする近所の方が「このお店は何だろう?」と思ってマップで調べたら本屋だったから来てみたとか、この界隈に住んでいる人が本屋を検索したら出てきたから来ましたとか。そんな人が来てくれたりもします。
──もともとこういうお店を始めたいと思っていたんですか?
福永:「自分の店とかやれたら楽しいだろうな」と、本当に誰もが思うくらいのぼんやりした感じでは思っていました。ちょうど30歳になるときがコロナ禍で、それまでに結構たくさん転職してきたんです。何だろう、うまく働けないというか。時間を人に合わせられないし、頑張ってもどこかでひずみがきてダメになっちゃったり、チームで動かなければいけない時でも自分で全部やりたくなったりして。転職するたびにそういうことがしんどくなって、また環境を変えて、ということを繰り返していました。
それで30歳を迎えるころに、「一生この繰り返しの可能性があるぞ」と思ったんです。そんな時に、1人でお店をやることは真面目に考えてみる価値があるかも、リアルに計算してみようかな、と思って始めていった感じでした。
だから、まずは自分1人のお店を持ちたいな、から入りました。ずっとアパレルで仕事をしてきたので服屋さんかなとか、何でもできるならパンが好きだからパン屋さんかな、とか思ったけど、ちょっと自分とはかけ離れているように感じて、自分で仕入れて物を売るのであれば、続けられそうなのは本だと思って本屋さんにしました。
──ということは、〇〇屋さんがしたいという思いが先にあってお店を開いたわけではないと。
福永:そうです。それまでやってきた貿易の仕事は、チームで動くことが必須な職種だったんですが、私はチームワークが苦手なのかもしれないと思って、そういう仕事は一度選択肢から外してみることにしました。それで、なんでも自分でやるしかないような状況に自分を追い込んでみようと思って、じゃあお店かな、と。
──お店は1人でやっているんですか?
福永:1人でやっています。うちの空間演出をしてくれた友達が隣の部屋を借りていて、月に数日お店を開けています。『SuperZoo』という家具やインテリア雑貨のお店です。
──いきなり本屋を始めようと思った時に、どうやって勉強したんですか?
福永:今、本屋さんに関する本ってすごく多いじゃないですか。コロナ禍で時間があった時に、色んな本屋さんの開業本を片っ端から読みました。どこかのお店で働いてみた方がいいのか、とも思ったんですけど、そうするとそのお店のスタイルに染まっちゃいそうなのでやめておきました。色々と丁寧に書いてくれている本、いっぱいありますよ。
会社、辞めてもいいかも
──いまお店で展開されている「OH! MY BOOKS OF THE YEAR 2024」に、学びのきほんの『はみだしの人類学』を選んでくれています。なぜこの本を選んでくださったのですか?
福永:この本は、まさに会社を辞めて1人で働くかどうかを考えている時期に読んでいました。この本を読んで「会社、辞めてもいいかも」って思えたんです。自分にとってすごくきっかけになった、大切な本です。学びのきほんシリーズを知る前に、この『はみだしの人類学』を知りました。
きっかけはコロナ中で、マガジンハウスのウェブマガジンに人類学者の小川さやかさんが出られていたんです。私は大学で国際関係学を専攻していて、文化人類学は必修の授業でした。そうすると、授業でアフリカの人たちの儀式や生活を動画で見るんですが、これから何を学べばいいのか、当時の自分にはいまいちわからなかったんです。人類学にはそういうイメージがずっとあったんですが、小川さやかさんの記事を読んだ時に、仕事とか働き方をベースに人類学のことを話されていて、「人類学ってこういう話もできるんだ」と興味がわいて。それで人類学の本を探していたら、松村圭一郎さんの名前を知って、一番読みやすそうだったのでこの本を選びました。
──この本のどのあたりが刺さったんですか?
福永:20代で大学を出て新卒で会社に就職して、そのあと転職を続けていったんですが、何回も面接を受けたり履歴書を書いていくうちに、自分のキャリアに筋が通ってないといけないという意識が刷り込まれていったんです。やってきたことは必ず積み上げていかないといけない、そして人に説明できるようにキャリアを繋いでいかないといけない、みたいな。
そうやって、何となく積み上げてきた感のある職歴を作っていったんですけど、30歳になる前にいよいよ説明が付かない感じになってきて。でも、今から会社を辞めてお店を始めるなんて、それまでの人生を棒に振ることになる気もしていました。そんな時に、この『はみだしの人類学』を読んで、本の中に、「すべて右肩上がりに進んでいくのが人生ではない」というようなことが書いてあったのを見たときに、解放されたというか、勇気をもらえた感覚がありました。
あと、これは仕事とは関係ないんですが、それまで「本当の自分」っていう言葉に踊らされていたところもあって。会う人によって自分のキャラクターを変えて、家に帰ったら1人で落ち着く、みたいな。でも、「家に帰ってひとりきりになった時の自分こそが本当の自分だ」と思っていることにもストレスを感じていました。そういうことについても『はみだしの人類学』の中に、家に帰って1人でいる時の自分だけが自分ではなくて、その時々に生まれる自分、その時々に変わる自分、そういうもの全部が自分ですよ、というようなことが書いてあったんです。それもすごくホッとしたというか、その時の自分の助けになりました。
しばらく働いて社会人に慣れてきた頃って、漠然とした不安があるじゃないですか。これからどうしよう、みたいな。それまでの中でもものすごく悩んだ時期だったので そんな時に読めてよかったです。
あと、本の帯に「2時間で読める」って書いてありますよね。初めてこの本を読んだ時に、本当に2時間で読めたのが嬉しかったんです。ショート動画のようなコスパ重視の意味ではなくて、入り口になってくれる優しさの2時間というか。シリーズの他の本も自分の本棚にあります。
たとえばこのあいだだと、柚木麻子さんの『らんたん』という昔の女性のフェミニズム視点の本を読む前に、上野千鶴子さんの『フェミニズムがひらいた道』を読みました。そうすると、その物語が読みやすくなったり。あと私、自分ですぐ病気を疑って怖くなっちゃうことがあるので、『からだとこころの健康学』も読みました。日常生活の中で「むむっ?」って思うことがあったら、このシリーズの中で何かあるかを見たりしています。
──『はみだしの人類学』は、どんな人に読んでほしいですか?
福永:世代によっても違うところがあるかもしれませんが、私は小学校・中学校・高校と努力を積み重ねていけばいつかは報われるということを言われ続けてきたので、中学生くらいでこういう考え方の人の本と出会っていれば、どれだけ自分の選択が変わっていたんだろう、とは思います。だから特に同世代の人達には、そういう紹介の仕方をしています。
今って、「自分らしさ」とか「個性」を売っていく時代じゃないですか。自分をどう見せるか、みたいな。でも、働いてしばらく経ってくるとそういうのに結構しんどさを感じて、「こういうのって私じゃないよね」と思ってしまう時もありました。でも、それって変だなって『はみだしの人類学』を読んで思いました。今日、自分が読んだ本を持ってきたんですが、「自分をカテゴリーに当てはめすぎると生きづらいし息苦しくなる」とか「自分を固定しないで複数の自分がいるって思えば希望になる」みたいなメモをしてますね。「important!!」とか書いてる(笑)。
今日は仕事関係とか生き方関係にフォーカスしましたけど、そうやって紹介するだけではもったいないくらい色んな要素が書かれていると思います。
OH! MY BOOKS https://oh-my-books.square.site/
Instagramアカウント @ohmybooks_ayn
今回ご紹介した『NHK出版 学びのきほん はみだしの人類学』などは、全国の書店、またNHK出版の特設ページでも展開しています。