「感受性」が強い 「注意力」の範囲が狭い 特性のある子の小学校生活の注意点を専門家が指摘
「感受性」と「注意力」に着目すると、イライラしがちな子どもの行動にも対応することができます。連載第3回は、この2つの力が学校生活に与える影響について。学校での困りごとへの対処法などを、多くの保護者から相談を受ける野藤弘幸氏が解説します。
【図解】「発達性協調運動障害(DCD)」と他の発達障害の重なりとは眠い、排泄などの生理的な感覚を感じにくい。着替えや外出の準備など、自分のことが一人でできない。こうした悩みを「感受性」と「注意力」で読み解くと、イライラしたり過剰に𠮟ったりする毎日から抜け出すことができます。第1回は感受性、第2回は注意力の詳細について解説しました。第3回では、感受性と注意力が小学校生活に及ぼす影響について紹介します。幼児期はそれなりに対応できていた子でも、集団の規模が大きくなり、自分で管理することが前提となる学校生活では、うまくいかないことが増えるケースがあります。
特に注意力が狭い子の場合、保護者の支援が欠かせないといいます。保育の現場に精通し、これまでたくさんの保護者や子どもから相談を受けてきた野藤弘幸氏に詳しく聞きました。
【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は大人から「育てにくい」と思われる乳幼児期~青年期の子ども・保護者に関わる保育者への研修などを行う。
小学校生活 注意力が狭いとどうなる?
第1回、第2回で紹介した幼児期の保護者の悩み(「寝つきが悪い」や「自分でできない」)は、成長とともに解決していくことがほとんどです。しかし、感受性の敏感度、注意力の範囲によっては、小学校入学後に困りごとが増えることもあります。
特に注意力の狭い子にとって、小学校の授業や活動はハードルが高く感じることが多いようです。
たとえば、小学校低学年の図工の授業では、絵の具でぶどうの絵を描く際に、先生がこのような指示を出したとしましょう。
──ロッカーから絵の具セットを持ってきて、パレットを出しましょう。パレットを出した人は、赤と青の絵の具を米粒ぐらいのせてくださいね。そのあと水道に行って水差しに水を入れます。そこまでできたら、先生のところに画用紙を取りに来てください。
「注意力の狭い子にとっては、とんでもなく難しいことです。5つのことを、一気に覚えてこなさなくてはならないわけですから。何の準備もしないまま最初に画用紙を取りに行ってしまう、水を入れに行ったまま隣のクラスの授業が気になって戻ってこない、水道で勢いよく水を出してびしょ濡れになってしまう……。こんなことがいくらでも起こります。
もちろん、子どもは怠けているわけでも適当にやっているわけでもありません。頑張ってもうまくできない状態で、本人はすごく困っているんです」(野藤氏)
また、持ち物や提出物なども、問題になりやすいことの一つです。教科書やノートを紛失する、忘れ物が多い、プリントを出さない(持って帰ってこない)などが頻繁に起こることも……。
「配布されたプリントを持ち帰ってくるというのは、保護者にしてみたらすごく簡単なことですが、これが思うようにできない子はたくさんいます。
前の子からプリントを受け取り、うしろの子に渡そうと紙をとり、残りをまとめ、ふり向いて手渡そうとしている間に『では教科書を出して』などと先生から声がかかると、焦って引き出しの奥にプリントを突っ込んでそのまま忘れて帰宅する……。子どもは必死に言われたことをやっていますが、先生にも保護者にも怒られてばかりになります。
注意力が限定的な子は、低学年では特に『うまくいかないこと』に囲まれながら生活している状態です」(野藤氏)
「小学生だから自分でできるでしょ」はNG
このように、子どもが小学校生活で小さなつまずきを抱えた場合、保護者はどうしたらよいのでしょうか。
「小学生になったからといって、『自分のことは自分で』と突き放すのではなく、幼児期と同様に一緒にやる、支援することが基本です。
『学校の支度』というひと言の中にも、ランドセルのものを全部出す、時間割りを見ながら必要なものを用意して入れる、持ち帰ったプリントを保護者に渡す、などいろいろな要素が含まれています。こうした一連の作業を声をかけながら一緒に行い、その子の習慣になるまでサポートを続けてください。
今、この子はどこまでなら自分一人でできそうなのか、どんな状況だと忘れてしまうのか、手伝いながら把握して、少しずつ本人ができることを増やしていくとよいでしょう」(野藤氏)
また、学校でできなかったことや失敗に直面したとき、保護者がすべきはそれを責めることではなく、「必ず取り戻せると教えること」だと野藤氏は強調します。
「プリントを持ち帰れなかったら、次の日に持って帰ってこられるよう、その方法を一緒に考える。自分だけでは忘れてしまうなら、先生に連絡して支援してもらうなど、やり方はいろいろあります。失敗を失敗のまま終わらせず、『こうすれば大丈夫』という自分に起こった問題を解決する経験を積み上げていくことが大切です。
失敗を𠮟り続けると、子どもはそれ自体を隠したり過度に言い訳したりするようになります。それでは、本人はずっと困ったままです。でも、失敗したら素直に認め、取り戻すための行動をすればよいのだとわかれば、ゆくゆくは自分で問題を対処したり解決したりできるようになります」(野藤)
注意力の範囲が狭い子は、先生や友達からイライラされることも多く、自信をなくしやすいといいます。「だからこそ、保護者は否定するのではなく、失敗してもそれを取り返して、自分に安心をもたらすことがきるのだと示してあげてください」と野藤氏は力を込めて語ります。
感受性が敏感なタイプが困る小学校でのあれこれ
注意力が狭いタイプだけでなく、「感受性の強い子(外からの刺激を受けやすい子)」(詳細は第1回を参照)も、小学校入学後に困りごとを抱える場合があります。気がつかずにそのままにしていると、授業に集中することができなくなり、学習についていけない、学校に通えない、といった事態に発展してしまう可能性があります。
工夫次第で学校生活が送れる子はたくさんいます。 写真:ohayou/イメージマート
野藤氏が相談を受けるのは「聴覚と視覚が敏感な子が特に多い」といいますが、きちんと対策をとることができれば、問題なく学校に通えます。
ここでは、視覚と聴覚が過敏な子どもの具体的な困りごと及び対応策の例を紹介します。
【聴覚が敏感】
●同時にたくさんの音が耳に入る子
《困りごと》
・校庭など教室外の音が気になり集中できない
《対応策(例)》
・座席を先生の近くにしてもらう
(窓側や廊下側、うしろの席を避ける)
●大きな音、特定の音域が苦手な子
《困りごと》
・大きな音や声に恐怖心を抱く
・特定の音域や話し方が聞き取りにくい
《対応策》
・イヤーマフをする
・先生に相談して話し方などを配慮してもらう
【視覚が敏感】
●視覚情報が多いと混乱する子
《困りごと》
・一度にたくさんのことが見えると集中できない
《対応策(例)》
・座席を一番前にしてもらう
・(算数などで)答えを直接、教科書やドリルに書かせてもらう
(教科書とドリルとノートを広げて視線を移すことが苦手なことも多いため)
●パソコンやタブレットの光が苦手な子
《困りごと》
・目や頭が痛くなる
《対応策(例)》
・ブルーライトカットのメガネをかける
・画面に光の反射を防ぐシートを貼る
「子どもがとても疲れやすい、授業に集中できていないのではないかといった懸念があれば、『何か原因があるかもしれない』と考え、ここで説明したような困りごとが当てはまらないか確認してみてください。
配慮(合理的配慮)を受けることは当然の権利ですから、学校側に積極的に相談してみるとよいでしょう。対策さえ講じることができれば、問題なく学校に通える子もたくさんいます」(野藤氏)
一方で、感覚過敏だけでなくその他にも気になることがある場合などは、専門家へ相談することが重要です。第4回では、医師の受診の際の注意点に加え、不登校につながりやすい注意力・感受性の両方に特性のある子どもの特徴と対応方法などについてうかがいます。
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Photo by 川端アリ
【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。
取材・文 川崎ちづる