「ナチス暗黒時代」復活の兆し?虐殺を“可能にした”宣伝大臣に迫る『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』
現代とリンクするナチスの宣伝術
2025年にもなってヨーゼフ・ゲッベルスの名を頻繁に耳目にすることになるとは。国家および社会的権力による報道機関への規制や検閲的行為、ポピュリズムを煽る(カッコ付きの)新しい選挙手法、米共和党議員のナチス発言引用……それらが戦術として声高に語られるようになった今、かつて“プロパガンダの天才”と称されたゲッベルス(1897~1945年)はたしかに格好の比較対象と言えるかもしれない。
ゲッベルスはアドルフ・ヒトラーの側近として宣伝全国指導者および国民啓蒙・宣伝大臣を務め、ナチスのプロパガンダを通じて党の勢力拡大に大きく貢献。巧みな演説と宣伝手法で大衆を動員し、ナチスのイデオロギーを広める役割を果たした。当時としては目新しかった映画・ラジオを活用した宣伝活動は“メディア戦略の先駆け”とも言われる。
「感情に訴えるメッセージをシンプルに、繰り返し伝える」――大衆の支持を得るためのゲッベルスの手法は見事に現代とリンクする。つまり「わかりやすくてエモい」言葉で「推せる」偶像を作り上げ、そのカットアップをバラ撒くのだ。
ゲッベルスはヒトラー首相就任から彼が亡くなるまでの十数年にわたって宣伝大臣を務めたが、敗戦が決定的となった大戦末期、妻と子供たちを殺害し自らも命を絶った。4月11日(金)より公開の映画『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』はそのタイトル通り、悪名高い“プロモ大臣”の半生を描いた作品だ。
ホロコースト生存者の証言に勝る説得力はなし
本作はナチスの“ホロコーストを実現可能にしてしまう”風土の醸成に貢献した、大衆心理に作用するプロパガンダ装置にスポットを当てる。ゲッベルスは嘘を交えて感情に訴える演説をぶち、娯楽映画にプロパガンダを紛れ込ませたりと、様々なトリックを駆使して国民をじわじわ洗脳。ヒトラーの企てる恐ろしい計画がスムーズに進むよう根回しした。
実際の記録映像や生存者の証言を織り交ぜながら、独裁者の背後に潜む狂気、意外なほど親密な人間関係、それ故に生じる苦悩や不安も映し出す。制作の初期段階では資金繰りやロケ地選定に苦労したそうで、本国上映時にも“ナチスという絶対悪”に人間味を与えてしまうのではないか? ということで賛否もあったようだが、当然ながら制作陣の想いが「再発を防ぐこと」にあったのは明らかだ。なお本作には、アバディーン大学の歴史学/国際関係学教授トーマス・ウェーバーが歴史アドバイザーとして参加しているという。
ゲッベルスを演じたロベルト・シュタットローバーの絶妙な小者ぶりは秀逸。ヒトラーを取り巻く人々の様子を開戦前~敗戦後まで通して描いているところも新鮮で、独裁者目線だけでは表現できない“戦争・虐殺の真相”がつまびらかになっていく。ホロコースト生存者の言葉が要所で引用されるが、それこそが本作のテーマの核心であり、制作陣が本当に伝えたかったことでもあるはずだ。
『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』は4月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開