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​【静岡県立美術館の「新収蔵品展」】 ヴァンジ彫刻庭園美術館、IZU PHOTO MUSEUMを追憶。

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡県立美術館で4月9日に開幕した「新収蔵品展」を題材に。

静岡県立美術館は2024年度、92件の作品をコレクションに加えた。このうち26点と関係する3点を展示している。

目につくのは2023年9月閉館したヴァンジ彫刻庭園美術館と分館のIZU PHOTO MUSEUMの所蔵だった作品群だ。杉戸洋「refrain2」「refrain3」や松江泰治「jp-12 22」、持塚三樹(旧金谷町出身)「Vonto」などは確かに、ヴァンジ館の空間で見た記憶があり、こうして県立美術館の展示室で再会すると、複雑な気分になる。それは、今は活動していない2館の甘美な追憶であり、作品が新しい居場所を見つけたことへの安堵だ。

松江の同作品はヴァンジ館を上空から撮影したもので、画面の隅々にまで焦点が合っている。建築と庭園のユニークな配置が見て取れる。エレナ・トゥタッチコワの映像作品「飛ぶ、立ち止まり、走り、歩き、歩き、歩」は、庭園の池の周辺をとことこ歩く鳥たちの姿を捉えている。

野口里佳、川内倫子、長島有里枝の作品は、この2館が女性アーティストに対して意識的だったことを思い起こさせる。米国の写真家テリ・ワイフェンバックのアーティスト・イン・レジデンスを含めた作品展(2017年)や、植物の種子などを素材とするドイツ出身の美術家クリスティアーネ・レーアの個展(2015年)などがよみがえった。国内外の若い世代のアーティストに積極的にアプローチした、県内では珍しい美術館だった。

これらの作品は、今回展では残念ながらウェブ公開を禁じられている。同じように写真公開が許されていないが、1960年代末から1970年代初頭にかけて静岡で活動した現代美術家集団「グループ幻触」の飯田昭二(静岡市出身)、鈴木慶則(旧清水市出身)の作品にも目を見張った。

両人とも複数の作品が県立美術館コレクションに名を連ねているが、新収蔵作品は私が知る彼らの作品とはテイストを異にする。特に飯田の「時空変位」「タイトル不詳(平面にて)」には驚かされた。 どちらも1990年代の作品だが、木枠に和紙を貼って薄く溶いた墨や水彩絵の具を幅広のローラーにつけて着色している。こんな作品あったんだ、というのが率直な感想だ。

写真公開が許されたものの中では栗原忠二(三島市出身)「ヴェニスの港」がいい。描かれた時期は不明だが、恐らく大正期から昭和初期にかけてだろう。憧れだったというヴェネチアのにぎわいを、美しいあかね色で描いている。隣に掲げられた石川欽一郎(静岡市出身)の湿度が高そうな「ロンドン」と、見事な対照をなしている。

(は)

<DATA>
■静岡県立美術館「新収蔵品展」
住所:静岡市駿河区谷田53-2
開館:午前10時~午後5時半(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
企画展料金(当日):一般300円、70歳以上と大学生以下無料
会期:6月15日(日)まで

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