【死ぬほど暑い夏に聴く湘南サウンド5選】加山雄三や加瀬邦彦はもちろんだけど中井貴一も?
今年もまた暑い暑い夏がやってきた。命の危険さえ感じる最近の酷暑には参ってしまうが、せめて音楽でその暑さを凌ぎたい。歌で気温は下げられないけれど、心のクールダウンを促すことはできるでしょう? そう、夏といえば海、海といえば湘南。東京近郊在住民にとって最も身近なリゾート地、湘南をめぐる歌はいつしか “湘南サウンド” と呼ばれて愛されてきた。今回は、王道のアーティストから意外な男性俳優まで潮の香りを感じさせる名曲5曲を紹介します。
ビートたけしによる新たな湘南サウンド
いたいけな夏 / ビートたけし(1981年)
漫才ブームが加熱する中で、フジテレビ系バラエティ『オレたちひょうきん族』が弾けていた1981年の夏に出されたビートたけしのシングル。相棒のビートきよしが歌う「雨の権之助坂」と同時発売だった。前作「俺は絶対テクニシャン」はきよしとのカップリングだったので、純粋なソロシングルはこれが初になる。経緯は不明だが加瀬邦彦に作曲が依頼されて、意外なところから新たな湘南サウンドが誕生した。アレンジは伊藤銀次。
この1ヶ月後に出された加瀬邦彦率いるワイルドワンズの新曲「白い水平線」と一緒にカセットテープに録音して、海辺に持参したラジカセで繰り返し聴いた思い出がよみがえる。海へと向かう夏のドライブで、渋滞する車の中で聴くのに最強の1曲なのだ。
「想い出の渚」感も満載なこれぞ湘南サウンド
白い水平線 / ザ・ワイルドワンズ(1981年)
劇場や映画館のほか、各種娯楽施設が入っていた “日劇” こと、有楽町の日本劇場が半世紀近くの歴史を終えて閉館したのは1981年2月のことだった。その際、最後に催された『サヨナラ日劇フェスティバル』で、かつての『日劇ウエスタンカーニバル』に出演していたグループサウンズのバンドが再結集。それをきっかけにワイルドワンズが本格的に活動を再開する。そこで同年7月に出された新曲がこの「白い水平線」。
作曲はもちろんリーダーの加瀬邦彦、作詞は当時大ヒットしていた寺尾聰「ルビーの指環」を手がけた松本隆。ワイルドワンズでドラムを担当する植田芳暁がリードボーカルをとっている。イントロから加瀬の12弦ギターの音色が響き渡り、「想い出の渚」感も満載なこれぞ湘南サウンド!今でもライブで歌われる機会の多い1曲である。
テンション高めな中井貴一のサマーソング
噂のルーズ・ガール / 中井貴一(1984年)
中井 “DCカード” 貴一の歌手デビューは1984年。岩谷時子作詞、加瀬邦彦作曲の「青春の誓い」という曲。その頃、東宝で若大将シリーズのリメイク版が作られるという噂がまことしやかに囁かれており、ヒロインの澄ちゃん役は沢口靖子というキャスティングに妙に納得したものだった。作家陣といい、そんな話に説得力を増すような爽やかな青春ソング。しかしながら季節的には春の歌。
なのでここでは第2弾シングルとなった「噂のルーズ・ガール」を推したい。作曲がシンガーソングライターの佐藤隆というのはいささか意外ながら、鷺巣詩郎の快活なアレンジを経て、テンション高めのサマーソングとなっている。近年の傑作ドラマ『最後から二番目の恋』を見ても分かるように、中井はコメディに底力を発揮する男性俳優。歌も突き抜けて明るい曲調が似合っている。
加山雄三、生粋の湘南サウンド
君のおもかげ / 加山雄三(1967年)
湘南サウンドを象徴する1曲といえば、加山が名付け親となったザ・ワイルドワンズの「想い出の渚」になるだろうが、その源泉はやはり加山雄三である。ザ・リガニーズ「海は恋してる」なども加山ソングなくしてはきっと生まれなかったに違いない。とはいえ、加山の曲がすべて湘南サウンドかと言うとそれはまた違ってくるわけで。「君といつまでも」はラブソングとしての分母があまりに大きすぎて、湘南サウンドのジャンルに閉じ込めてしまうのは申し訳ない気がする。
「湘南ひき潮」は文字通りの舞台設定ながら、「想い出の渚」と同様に夏の終わりのちょっと物哀しい歌なのでこれから暑い夏を迎える時期にはまだ早い。その点、この「君のおもかげ」は生粋の湘南サウンド。シングル発売はされず、4曲入りのコンパクト盤のみに収録されていた、正に隠れた名曲なのだ。日中の暑さが少しだけ和らいだ盛夏の夕暮れに聴きたい。
作詞にはユーミンも名を連ねたブレバタの「湘南ガール」
湘南ガール / ブレッド&バター(1981年)
ブレッド&バターは、茅ヶ崎に生まれ育った岩沢幸矢と岩沢二弓の兄弟デュオ。加山雄三〜サザンオールスターズの王道ラインとはまた一味違う、通好みな音楽活動を展開し続けてきた。昨今のシティポップ・ブームでは「ピンク・シャドウ」ばかりが取り沙汰されるが、潮の香りを感じさせるソフィスティケートされた佳曲がたくさんある。
この「湘南ガール」は1981年のアルバム『Pacific』収録曲。作曲は岩沢幸矢。作詞には岩沢幸矢と共に呉田軽穂、つまり松任谷由実も名を連ねている。同アルバムにはユーミン作詞、岩沢二弓作曲による「ホテル・パシフィック」も収録されており、ブレバタのアルバムの中でも最も湘南を体感出来る1枚になっている。今はなき『パシフィックホテル茅ヶ崎』に想いを込めて。