哀しくも美しい蝶々さんの純愛物語 栗山民也演出でおくる、名作オペラ『蝶々夫人』を新国立劇場で上演
2025年5月14日(水)~5月24日(土)新国立劇場 オペラパレスにて、2024/2025シーズンオペラ プッチーニ『蝶々夫人』が上演される。
明治時代の長崎を舞台にした蝶々さんの愛と哀しい運命が、プッチーニならではの美しく心揺さぶる音楽で描かれる『蝶々夫人』 。世界中で観客の涙を誘っている人気作だが、誇りをもって愛を貫く蝶々さんの悲劇は日本でもひと際人気で、新国立劇場でも最も多く上演されている看板演目だ。
プッチーニの音楽は美しくまっすぐに心に響き、ドラマティックに物語を伝えてくれる。フィギュアスケートでも何度も使用されている名アリア「ある晴れた日に」は、音信が絶えても夫ピンカートンを信じる思いを歌う蝶々さんのアリア。ピンカートンの2つのアリア「世界中どこでもヤンキーは」「さようなら、花咲く家よ」、蝶々さんとピンカートンの長大な愛の二重唱、蝶々さんとスズキの「花の二重唱」、美しいハミングコーラス、そして幕切れの蝶々さんのアリア「お前、かわいい坊や」と、名曲の数々は枚挙に暇がない。涙なしでは見られない、心揺さぶるドラマはオペラ初心者にもお薦めな作品。
『蝶々夫人』の決定版といえる名舞台を届けるのは、演出の栗山民也。装飾をそぎ落とし、蝶々さんの暮らす世界と外界を効果的に対比する舞台(美術・島次郎)、一瞬一瞬のドラマをクローズアップする雄弁な照明(勝柴次朗)、上質でセンスあふれる衣裳(前田文子)と、日本の舞台芸術界トップクリエイター陣の繊細な感性、そして表面的な“日本らしさ”に流されない、真の日本的な美が凝縮されている。
人物の内面に迫る演劇的アプローチも特色で、至福の愛の時間や、蝶々さんの希望が絶望に転じるドラマが、丁寧に描き出される。長い階段から近づいてくる蝶々さん登場のシーンや、蝶々さんがはやる気持ちを抑え、戸外でじっと星条旗を見つめるハミングコーラスのシーンの演出などは特に印象的。最終場、蝶々さんの子どもが登場する衝撃的なラストシーンは、蝶々さんの死で美しく完結して終わりではない現実のドラマを想起させ、強い印象を残す。
数々の日本人名ソプラノが演じてきた蝶々夫人役に今回登場するのは、ドラマティックで豊かな声と、情感あふれる表現が圧巻のソプラノ小林厚子。新国立劇場の“高校生のためのオペラ鑑賞教室”公演で何度も歌い込み、藤原歌劇団公演など近年日本各地で立て続けに歌って、「理想の蝶々さん」と感動を呼び続けている蝶々夫人役を、新国立劇場のシーズン公演で初めて披露する。今聴きたいソプラノ歌手ナンバーワンといえる小林厚子の真打ちたる蝶々さん、圧巻の感動的な表現に期待しよう。
共演者には、アメリカ海軍士官ピンカートンに、ヨーロッパの劇場で引っ張りだこのアメリカの新星テノール、ホセ・シメリーリャ・ロメロ、シャープレスには躍進中のイタリア人バリトンブルーノ・タッディアがそれぞれ新国立劇場初登場。蝶々さんを献身的に支えるスズキには山下牧子が出演。指揮は明晰で劇的な表現が評判のエンリケ・マッツォーラが13年ぶりの新国立劇場登場となる。
【あらすじ】
明治の頃、長崎の海を望む丘。アメリカ海軍士官のピンカートンは、結婚斡旋人ゴローの仲介で15歳の芸者、蝶々さんを身請けし、アメリカ領事シャープレスの忠告をよそに軽い気持ちで結婚式を挙げる。ピンカートンは帰国するが、愛を信じて疑わぬ蝶々さんは音信不通の夫の帰りを、3歳になった息子と女中のスズキとともに待つ。
やがてアメリカで正式に結婚したピンカートンが妻ケートを連れて長崎に。全てを悟った蝶々さんは、我が子をケートに託し、父の形見の短刀で命を絶つ。
新国立劇場オペラ『蝶々夫人』ダイジェスト映像 Madama Butterfly-NNTT