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Czecho No Republic バンドのアイデンティティを余すところなく詰め込んだ4年ぶりアルバム『Mirage Album』の手応えと結成15周年の構想を聞く

SPICE

Czecho No Republic 撮影=大橋祐希

多幸感あふれる男女ボーカルバンド、Czecho No Republic(以下チェコ)が9作目のアルバムとなる『Mirage Album』をリリースした。バンドの変化を反映した前作『DOOR』から4年ぶりとなる今回もまた、バンドのさらなる変化を踏まえた上で「チェコのアイデンティティが余すところなく詰め込まれた」とバンド自ら言えるものになったところに今現在のチェコの絶好調が窺える。
メンバーの発言から想像するに生まれ変わったような感覚も少なからずあるんじゃないか。
来年の1月からは久々の全国ツアーもスタートする。結成15周年を迎えるチェコの調子は、ここからさらに上がっていきそうだ。

――『Mirage Album』、とても聴き応えがありました。幻想的なサウンドも纏いながら、メンバー全員の演奏している姿が見えるようなところがとても良くて、いいか悪いかはさておき、昨今、PCの中だけで完結しちゃっている作品を作るバンドも多い中、明らかにスタジオで鳴っているバンド然としたサウンドのアルバムを聴けてうれしかったです。

武井優心(Vo, Gt):ありがとうございます。

――みなさんもかなり手応えがあるんじゃないですか?

武井:すごくあります。4年前に出した『DOOR』は4人編成になってからの1枚目だったんですけど、それ以降、サポートを入れてまた5人で活動するようになって。

――はい。サポートベーシストとしてオオナリヤスシさんが参加していますね。

武井:やっぱり5人で作るアンサンブルが好きなんです。だから、基本は5人でやりたいのに以前は4人だから4人の音って、ちょっと頭でっかちになってたんですけど、やっぱり物足りなくて。それでこの数年、また5人でライブ活動するようになったんですけど、その中でチェコのアイデンティティとか強さとかがすごく見えてきて。なおかつ以前の5人でやってた頃とはまた違う、今の5人でやるべきチェコの音楽が見えて、そこから取りかかったので、ある意味また1stアルバムのようなテンションもあるし、同時に今までやってきたことも取り入れてるから、チェコをオススメする時に聴いてもらうのにぴったりの1枚になったと思います。

山崎正太郎(Dr):前作から4年空いてますからね。本当に1枚目のような気持ちって言うか、サポートにナリさんが入ってから、「ライブいいね」って言われることも増えたんですけど、実際、自分たちでもライブを含め、バンド活動していてすごく楽しいんですよ。デジタルでシングルはリリースしてたからレコーディングはしてましたけど、やっぱり久々にアルバムが出せるぞっていう高揚感は、けっこうありますね。15年目のアルバムとは思えないぐらい新鮮な気持ちで取り組めたんですよ。

――砂川さんとタカハシさんも手応えを聞かせてください。

砂川一黄(Gt):コロナ禍に入って、活動が止まった時期もあったから、じれったさはあったんですけど、ようやく出せたっていう爽快感があって、しかもそのアルバムが腑に落ちたと言うか。誰も無理してないし、今までの経験もいっぱい入ってるし、武井さんの最近のマインドもしっかり反映されているし、すごく納得の行く作品になったと思います。

タカハシ(Vo, Syn):私たち自身も活動がなかなかできなかった時期に落ちていたって言うか、考えることもいっぱいあったんですけど、それを乗り越えてきたと胸を張れると言うか、私たち自身もこういう作品を待っていたと思えるような作品を生み出せたことが素直にうれしいです。

武井優心(Vo,Ba)


いつからか意味のあることを歌わないといけないって思い込んでいたんです。自分でも気づかないうちに。(武井)

――今回、勢いに満ちた作品になったのは、1stアルバムのテンションという言葉も出ましたけど、久々にアルバムを出せる高揚感とともに新鮮な気持ちで取り組めたことが大きかったわけですね。

武井:それもあると思うんですけど、ナリさんを含めた5人でまたライブを一から作り始めた時に過去の代表曲やライブで定番になっている曲のパワーを、この曲たちにこんなに助けられていたんだって今一度実感したことも大きかったと思います。バンドを続ける中で、それが段々わからなくなってきたところもあったんですよ。それで、前と違うことをやるのがクリエイティビティだと思って、違うことをやらなきゃってなっちゃってたと思うんですけど、今回、自分たちの武器が何なのかを改めて知ることができたおかげで、過去と違うことをやらなきゃって発想に縛られずに曲作りを始められたので、逆に、いい意味でチェコを意識しながら曲が書けたんです。ある意味、お客さん目線にもなれたと言うか、“みんな、こういう曲を待ってたでしょ”って思えたというか、それが曲の勢いに繋がったんだと思います。

――新たに5人編成になったチェコのアンサンブルという意味では、オオナリさんの存在が大きいと思うんですけど、今回、オオナリさんはレコーディングに参加しているんですか?

山崎:全曲参加してます。

武井:俺、ベース弾きたいって曲があったんですけど、それもやってもらって。あ、でも、俺もちょっと弾きましたよ。「Bad Dreams」の1番のAメロは俺が弾きました。

――そういえば、『DOOR』をリリースした後、武井さんは曲が作れなくなってしまったそうですが、23年2月に配信リリースした「emotional girl」をCwondoさんと作ってからは、今回のアルバムの曲も含め、スランプに陥ることなく曲作りはできたんですか?

武井:去年、配信リリースした「emotional girl」「STORY」「Journey」を作った時は、まだリハビリ期間というか、正直、“ライブは良いね”って言われてるけど、どんな曲を作ったらいいのか、まだ掴んでなかったです。

――掴んだのはいつ頃だったんですか?

武井:掴んだのは……。去年の11月にアルバムを作ろうってなって、そこから今回、アルバムに入っている曲はほとんど、ばーっと集中して作ったんですけど、掴んだっていうか、やっと揃ったと思ったのは、本当に一番最後にできた「Bad Dreams」とか、そのあたりなんじゃないかな。

――今回、アーバンでダンサブルな「Psychedelic Night」から、カントリーパンクなんて言えそうな「Bad End」まで、振り幅の広い全14曲が収録されていますが、自然にできた曲もあるし、アルバムを作るならこういう曲も必要なんじゃないかって捻りだした曲もあるしっていう曲作りだったんですか?

武井:そうですね。最初の頃は、ライブで盛り上がるから、そういう曲をもう1回やってみようってカントリーなパンクチューンを作ったりとか、もう手探りしながら、“チェコらしさってどんなかな?”って自分で自分を確かめるみたいに作っていたんですけど。曲が10曲ぐらい揃うと、気持ちに余裕ができて、段々遊べるようになるんです。

――あー、なるほど。

武井:アルバムはもう十分作れる、だったらもうちょい行けるだろうって。だから、曲作りの後半にできた曲なんですよね。アルバムのリードになってる曲って。「Bad Dreams」とか、「Psychedelic Night」とか。その2曲はほとんど最後にできた曲なんですよ。でも、最初は不安でしたけどね。曲は書いてるけど、本当にアルバムになるのかなって。

――でも、10曲ぐらい曲ができたところで確信が持てた、と。

武井:確信までいってたかわからないですけど、今年の7月に「Friend」を配信リリースして。アルバムの曲作りの皮切りというか、アルバムへの道筋になった1曲目の曲なんですけど、それを作ったとき、みんな、“いい曲”って言ってくれて。しかも俺も久しぶりに自分で作って、自分で感動して。“うわ、昔はこんなふうに曲を作って、毎回感動してたな”って思い出したら、けっこうほろりと来たんです。そこから曲作りは、より乗っていった気はします。

タカハシマイ(Gt,Syn,Vo)


今回のアルバムは、ただポップで、明るくて、キャッチーでっていうのはイヤだったから、とことん変なことをしてほしいとか、遊んでほしいとかみたいなことは言ってた気がします。(タカハシ)

――タカハシさんがリードボーカルを担当している「Friend」はシューゲイザーな魅力もあるギターポップナンバーですね。

砂川:「Friend」が上がってきた時は、“来た!”みたいなのがあって、確かにそこから武井さんの曲作りはけっこう加速していきましたね。

――「Friend」がターニングポイントになったわけですね。

タカハシ:アルバムに入ってない曲とか、リハビリ期間的な時に作ってた曲とか、暗めの曲が多かったんですよ。でも、正太郎さんが歌詞について、武井さんにアドバイスしてからすごく変わった気がして。武井さんってその時の思いがそのまま曲になる、すごく正直な人なんです。でも、そうじゃなくてもいいんだっていう吹っ切れたものを、正太郎さんがアドバイスしてから上がってくる新曲たちに感じて、そこから曲作りを客観視できるようになった気がします。“今、揃ってる曲たちもすごくいいけど、みんなで歌えて、ライブで盛り上がれる曲があったら絶対いいよね”って話をすると、ちゃんとそういう曲を作ってきて。だから今考えると、正太郎さんのアドバイスが私はナイスだったなって。

山崎:え、俺なの?(笑)

――何てアドバイスしたんですか?

山崎:18年に出した「好奇心」っていう曲ぐらいから、けっこうエモいというか、熱い感情を歌詞に乗せる傾向にあったと思うんですけど、もっと肩の力を抜いて、自分だけ意味がわかるようなというか、聴く人見る人には想像する余白を与えるような感じでいいんじゃないの?みたいなことは言いましたね。アルバムを作るってなってから、曲がめっちゃ送られてきたんですけど、曲は毎回、いいんですよ。それは今回に限らず、昔から曲はもう最高なんですけど、今回は選曲会議の前に集まってきた曲を並べてみると、ポップさに欠けるというか、いい曲なんだけど、これでアルバムを作ったら、ハッピーなバンドではないかなって感じになってましたね。それで1回、みんなで会議して、来年は結成15周年なんだから、やっぱりお祭りだろう。もっとお祭りの曲を作ろうってなったんですよ。

武井:アルバムを作ろうってなって、最初に送った曲が「Life To Me」だったんです。

――あー、人生の最後に何を思うのかと問いかける。なるほど。

武井:それで正太郎が“いや、重いなぁ”って(笑)。いつからか意味のあることを歌わないといけないって思い込んでいたんです。自分でも気づかないうちに。昔はもっと言葉の響きだけ考えて、辻褄がなんとなく合っていれば、自分だけわかればいいだろうって歌詞を書いていたのに、いつの間にか“歌詞が伝わらないのかな?”とかいろいろ考え出して。誰が読んでも文章として伝わるものが歌詞の正解って思い込んでいたんですけど、今回、正太郎に言われて、確かにって思いました。歌詞ですごくエモーショナルなことを言ってる曲ばかりだと、確かにダルいというか、めんどくさいって気持ちになるっていうのはあったんですけど、正太郎がそれを言語化してくれて。

山崎:武井さん、酔っぱらってるとき、話がすごくおもしろいんですよ。適当なことをめっちゃ言うから。それを歌詞にしたらいいじゃんってところだと思うんですよね。

武井:今まで歌詞を書くとき、時間がかかりすぎてたんですけど、確かに、もっと適当でいいんだと思って、「Life To Me」以降は、もう気楽に書いてました。言葉の響きだけで書いても、細かい性格だから、ちゃんと物語になるんですよ。それなりのバランス感覚とともに。だから、超楽でした。今回の歌詞は。どの曲も3日ぐらいしかかかってない。ほとんど悩んでないんですよ。

――でも、メッセージとしては一本芯が通っているというか、武井さんが歌っていることはアルバム全体を通して一貫しているように思いましたけど。

武井:それはやっぱりぎゅっとした期間で書いているから。

――確かに「Bad Dreams」の《右ならえの奴隷》とか、「Go!Go!Juliet」の《なるなよ誰かの奴隷》とか、同じ言葉が使われていて。

武井:言いたいことはどの曲も似ているなって思います。それがまさしくミラージュ的なところなのかなと思っていて。

――ミラージュ的っていうのは?

武井:何か実体のないものを掴もうとしてるっていう感じかな。この日々の中で。そもそも曲を書き続ける作業が、なんだか幻の中にいるみたいな感じがするんですよ。バンド活動一つ取っても、何も保証されてないという意味では、濃い霧の中を走っているような感じじゃないですか。まさに人生もそう。だから、1個のメッセージでいくとしたら、この日々をミラージュとするか、バッドドリームとするか、どっちかだなと思いながら、幻想って言ってもおもしろいし、悪い夢って言ってもおもしろいしっていう感じで。最近、すごくポジティブな思想を高々と掲げている気持ち悪い奴がSNSによく登場するんですよ。思考は現実になるとか、その引き寄せがとか、君が全てを作ってるんだとか、そんなことを言う奴らに対して、“いやいや、この世は悪い夢だから”って思いながら歌詞を書いてました。

――「Bad Dreams」っていうのは、そういうことだったんですね。

武井:すごく肯定的な投稿がThreadsとか開くと出てくるんですよ。

砂川:見なきゃいいじゃん(笑)。

武井:何かつらつらとめっちゃ喋ってんなと思って。それに対して、たぶん、みんなフラストレーションが溜まってるじゃないですか(笑)。

――だから、見ないようにしています。

武井:でも、腹が立ってるわけじゃないですか。

砂川:別に俺は腹立ってないけどな。見てないから(笑)。

武井:それに対するアンチテーゼが「Bad Dreams」なんです。

――そういうことなんだ。そうか。いや、不思議だったんですよ。歌っていることは、とても前向きだと思うんですよ、今回のアルバム。僕は今回のアルバムを聴いて、“子供のような純粋さを持って、何にも縛られずに自由に生きろ。最後、悔いが残らないように”というメッセージを受け取ったんですけど。

武井:いや、そう思ってますよ。俺も。

――そういうアルバムが、なぜ「Introduction (Into The Bad Dreams)」で始まって、「Bad End」で終わるんだろう?って不思議で。だって、それだけ聞いたら、ディストピアの話みたいじゃないですか。

武井:いや、バッドドリームの中にはいるけど、気づいているんです。これが悪い夢だってことに。だから、目覚めようぜっていうアルバムなんです。

――なるほど、なるほど。バッドドリームからから目覚めよう、ということなんですね。

武井:バッドドリームからっていうか、バッドドリームの中で目覚めようっていう。目覚めてもバッドドリームの中なんですけど、ここがバッドドリームの中だってことに気づこう、そこからが冒険のスタートだっていう。

――この世は悪い夢だというのは、今の現代社会がということなんですか?

武井:いや、そこまでは考えてないですけど、悪夢のような瞬間ってあるじゃないですか。日々生きていれば、誰においても。その中で大切なことに気づくというか、その一瞬を逃したくないし、その一瞬の気づきがおもしろいっていう感じです。

山崎正太郎(Dr)


今まではデジタルっぽい曲はドラムの音もそれに合わせて加工してたんですけど、今回はちゃんとこの中に俺がいるって感じられるものになってます。(山崎)

――ところで、「Psychedelic Night」という曲も収録されているし、今回、サイケデリックもテーマの一つとしてあったのでしょうか?

武井:それはなかったと思いますけど。

山崎:いや、けっこうサイケだよ。だってアートワークもちょっとサイケだし、武井さんが自分で作った「Go!Go!Juliet」のMVもサイケじゃない?

武井:性格がサイケなのかな。

砂川:なんかね、根っこにあるんだろうな。

――「Go!Go!Juliet」のMVはサイケですよね。中でも、薬のカプセルに《Fifhth Dimension》と書いてあって、僕なんかは、たとえが古くてすみません、サイケデリック・ロックの名盤の1枚に数えられるザ・バーズの『霧の5次元(Fifth Dimension)』を連想してしまいましたが。

武井:いや、だから、あれもまた最近言われているんですよ。スピリチュアルの世界で、5次元が云々って。「Go!Go!Juliet」に《フォーファイブ煌めく方へ》《フォーファイブ手の鳴る方へ》っていう歌詞があるんですけど、それはワン、トゥー、スリー、フォー、ファイブっていう意味にも取れるし、フォーファイブで5次元、つまり別次元に移行しようってメッセージとも取れるしっていう。別に、そういうメッセージを伝えたいわけじゃなくて、“こういうの好きなんだろ!? スピリチュアルが好きとか言ってる奴は”と思って書いているんです。“別次元に行きたいんだろ? おまえらは”って。

砂川:そういうことを言っちゃってるんだ(笑)。

武井:いや、俺も好きですよ。スピリチュアルな世界。好きですけど、それを言葉にして、偉そうに何か語ってる奴が嫌いっていうだけです。スピリチュアルって語れる世界じゃないと思うんですよね。

砂川:それはその人の自由だから。

タカハシ:でも、今までいろいろなアルバムを出してきて、ポップでキラキラとか、可愛いとかって言ってもらうことが多かったんですけど、今回のアルバムは、ただポップで、明るくて、キャッチーでっていうのはイヤだったんですよ。だから、とことん変なことをしてほしいとか、遊んでほしいとかみたいなことは言ってた気がします。アートワークも含め、いろいろなところにおもしろい仕掛けをたくさん盛り込んで、楽しいことをしたいと思ってました。それが武井さんはサイケデリックな性格だからうまくハマったのかな。

――今、タカハシさんがおっしゃっていたいろいろな仕掛けはバンドアンサンブルにも言えると思うんですけど、中でもまずギター2本のアンサンブルのかっこよさは、今回のアルバムの大きな聴きどころですね。

武井:そう言ってもらえるとうれしいですね。

――砂川さんはもちろんですけど、武井さんも弾いているんですよね?

武井:めっちゃ弾いてますよ。

――どちらがリードみたいな分担はあったんですか?

武井:一応、砂川さんがリードではあるんですけど、2本が鳴って、成立するツインギターのアンサンブルを作るのが好きなんですよ。だから4人になった時は、それができなくて物足りなかったんです。チェコの一番の武器は、やっぱりそこだろうと思って、今一度ギターで遊ぶっていうのは、今回、アルバムを作り始めた時から考えてました。思いっきりそれでいこうって。

砂川一黄(Gt)


(「Pony Bambi」は)自分としては異物混入感がすごくて、自分の声を聴くと“うわ、気持ち悪っ”てなっちゃう。もう自分の声が嫌いすぎて。(砂川)

――ギター2本のアンサンブルは、どうやって作るんですか?

砂川:基本的に武井さんがデモで作ってくるんで、それをそのままやることもあるし、自分なりに解釈したりすることもあるし。

武井:あとはリハーサルしながら、足していったりっていう感じです。

――今回に限らずですけど、砂川さんってトレモロピッキングめちゃめちゃするじゃないですか。

砂川:しますね。

武井:めっちゃさせてます。

砂川:チェコに入ってからするようになったんですよ。チェコに入る前、武井さんと2人で飲みに行って、僕がチェコに入るかどうかっていう話し合いの時に“あれ、できる? あれ”ってトレモロピッキングのことを言われて、“できるんじゃないですか”って言ったら、“じゃあオッケー”って入ることになったんですけど、その時はこんなにやらされるとは思ってなかったですね。

――砂川さんのトレモロピッキング、めっちゃ好きなんですよ。

武井:いいですよね。

砂川:でも、あれ、けっこう難しいんですよ。だから、がんばってやってます。今回も「Wonderland」なんて、(ピッキングする)右手がつるかと思いました。基本的には16でずっとピッキングしてるんですけど、BPMが途中で上がってテンポがさらに速くなるから、もう一発録りでいこうってやって、ミスもそのまま生かしていて。本当にね、腕がぶっ壊れるかと思いました。ライブでやったらどうなっちゃうんだろうって、ちょっと考えちゃいますよ。

――いや、「Wonderland」は絶対、ライブで聴きたいですよ。途中でテンポが速くなるのは、デモの時からそういうアレンジだったんですか?

武井:そうです。最初はアーケイド・ファイアみたいな多幸感のある曲にしたいと思ってたんですけど、友達のライブを観に行ったら、曲の途中でテンポが速くなる曲があって、その時、人間ってこんなにテンションがアガるのかってぐらい気持ちが高揚したんですよ。それを自分たちでもやりたいと思って、曲を作っているとき、チバユウスケさんが亡くなって、メンバー全員がその話しかしない時期があったんです。俺らはミッシェル世代だけど、The Birthdayはあまり聴いたことがなかったから、The Birthdayも聴き直して、めっちゃいいなって言ってたんですけど、「Wonderland」の後半のテンポが速くなるところは、ミッシェルの「世界の終わり」を意識してます。アウトロの疾走感とか、ドラムとベースの絡みとか、まんまそうですね。

――「Wonderland」は今回のアルバムの中で一番好きかな。

武井:俺もです。

タカハシ:1曲目にしたがってたよね。

武井:1曲目しかないと思ってたんですけど、長すぎるって思いっきり却下されました。

――ギターの音色は歪みとリバーブを中心に曲ごとに、いろいろ工夫していると思うのですが、「emotional girl」の、ちょっとコンボオルガンっぽい音色がすごく印象的でした。

砂川:ありがとうございます。フェンダーのアンプにファズフェイスってジミヘンが使ってたエフェクターだけかまして、エピフォンの箱もののギターで録りました。

――そういう音がこの曲には合うと考えたということですよね?

砂川:そうですね。デモの時点でけっこうファズっぽい音色だったと思うんですけど、自分もファズでやったら合うんじゃないかってすごく思いました。チェコって今まで、そんなにファズって使ったことがなくて。全然ないってことはないんですけど、1曲通してずっとファズって、あんまりなかったから、それもいいかなと思って。それを言ったら、僕が箱もののギターを使ったのも初めてでしたね。

――聴きどころの一つだと思います。山崎さんのドラムは、たたみかけるようなフィルインがめちゃめちゃかっこよくて。

山崎:気持ちはめっちゃフレッシュでしたけど、やってることは変わらないというか、俺自身はいつも通りの俺でした。

――リバービーな音像の中でめちゃめちゃ生々しい音色で鳴っている山崎さんのドラムが今回のアルバムを特徴づけているところもあると思います。

山崎:うれしいですね。今まではデジタルっぽい曲は、ドラムの音もそれに合わせて加工してたんですけど、今回はちゃんとこの中に俺がいるって感じられるものになってますね。

――タカハシさんのシンセも曲ごとにいろいろな音色を使っているという印象でした。どんなふうにアプローチしていったんですか?

タカハシ:「Bad Dreams」は元々、ピアノだったんですけど、ピアノではきれいすぎると思ったんですよ。もっとおもしろい、チェコっぽい音色にしたほうがいいと思って、スーパーオーガニズムをはじめ、宅録感のあるおもしろい音をいっぱい使ってるバンドをいろいろ聴いて、チェコがよく言われてきたおもちゃ箱をひっくり返したような感覚をアップデイトしたいって思いながら作っていきましたね。あと、「Life To Me」も冒頭からシンセが鳴ってくるから、リスナーを引き込む可愛らしさとキャッチーさを意識しながら、悩みに悩んで作っていきました。

――ところで、「Hope」の跳ねながら刻むシャッフルのリズムも珍しいというか、新しいですよね?

山崎:確かに、今までになかったかもしれないです。

――いろいろなところにおもしろい仕掛けがあるとおっしゃっていたとおり、その「Hope」は後半、プログレっぽくなるところもおもしろくて。

武井:チェコではあんまりやってないけど、意外と好きというか、得意なのかもしれないです。コロナ禍の期間中に俺、タカハシさんとLiving Ritaっていうユニットを始めて、もしかしたらそこでそういうアレンジもできるようになって、それが今、チェコで融合したのかなって感じもしますね。

大事にやってきたお祭りをやりたいと思ってます。それも含め、やっぱりライブはいっぱいやっていきたいです。いろいろな場所で。(武井)

――『Mirage Album』はそんなふうに聴きどころの多いアルバムになりましたが、アップテンポのポップソングの「Pony Bambi」は、ずいぶん可愛らしいタイトルだと思ったら、要するに馬鹿ってことだったんですね。そこに気づいた時は思わず吹き出してしまいましたが、それも含め、この曲はエキセントリックなところがすごくチェコっぽい。

タカハシ:初めてメンバー全員がソロで歌ってる曲なんですよ。

――あれ、そうでしたっけ?

タカハシ:そうなんですよ。1番が砂川さんで、3番が正太郎さん。でも、聴き馴染みがいいから、意外と気づかない人もいるのかもしれないですね。

砂川:客観的に聴いたらそんな感じなのかな。でも、自分としては異物混入感がすごくて、自分の声を聴くと、“うわ、気持ち悪っ”てなっちゃうけど。

山崎:そう? 俺はめっちゃうれしかったよ。

タカハシ:うれしかったんだ? かわいい(笑)。

砂川:もう自分の声が嫌いすぎて。

タカハシそんなことないよ。今年の5月から3か月連続で年代別コンセプト・ワンマンライブをやったとき、砂川さんと正太郎さんが歌うパートも作ったら、お客さんがすごく楽しんでくれて。それもあって、今回、全員が歌ってみてもいいんじゃないかってなったんですけど、そんなところからも今のチェコっぽさを感じてもらえると思います。

――じゃあ、「Pony Bambi」をライブでやる時は?

タカハシ:もちろん砂川さんも正太郎さんも歌います。

――ライブの楽しみが一つ増えました。さて、そんな『Mirage Album』をひっさげ、来年の1月11日から全国各地をツアーするわけですが、全国ツアーは久々ということで今から楽しみなのでは?

武井:そうですね。今、5人でやっているライブをいい感じと言ってもらえることが多くなってきているし、今回、作ってる時からライブでやったら楽しいだろうなと思える曲が多かったので、きっといいツアーになると思います。すごく楽しみです。

――そして、来年2025年、チェコは結成15周年を迎えるわけですが、15周年記念にどんなことをやろうと考えているんですか?

武井:大事にやってきたお祭りをやりたいと思ってます。それも含め、やっぱりライブはいっぱいやっていきたいです。いろいろな場所で。もちろんフェスも狙いたいし、新譜も出したいし。それがアルバムなのか、何なのかはまだわからないけど、やっぱり新曲を出し続けないとなっていう気持ちがあるので、とにかく新曲をたくさん作って、出していくと思います。

取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希

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