「新潟にいながら世界へ発信できる人に」開志専門職大学、2代目学長各務茂夫氏インタビュー
開志専門職大学の各務茂夫学長
開学から5年を迎えた開志専門職大学(新潟市中央区)の第2代学長に、各務茂夫氏が就任した。東京大学などで長年、アントレプレナーシップ(起業家精神)の育成に取り組み、一般社団法人日本ベンチャー学会の前会長も務めた各務氏。昨年度、全学部から卒業生を輩出し「準備期間」を終えた同大学の印象や今後の歩みについて、話を聞いた。
目次
○「スタートアップ的な勢い」を感じる大学
○専門職大学として開学し5年、これまでとこれから
○新潟から世界を変える人材に
「スタートアップ的な勢い」を感じる大学
各務氏は学長就任の話を聞いて、その場で快諾したという
──改めて、学長に就任されるまでの経緯を教えて下さい。
2020年8月から2024年末まで日本ベンチャー学会で会長を務めていましたが、(NSGグループ会長の)池田弘氏も長年同学会で副会長を務められており、十数年来の付き合いがありました。それが大きなきっかけです。過日、学長就任のお話をいただいた際、「検討させてください」とは言わず、その場で快諾したことを覚えています。
──それほど開志専門職大学を魅力的に思えた点は何だったのでしょうか?
専門職大学は多くの場合単科大学ですが、開志専門職大学は事業創造学部、情報学部、アニメ・マンガ学部の3学部を持つ総合大学です。単に3つの学部が集まっているのではなく、例えば亀田製菓とのプロジェクトのように、事業の視点でものを見ている人、情報系の技術を学んでいる人、クリエイティブの分野の人が一緒に物事を進めています。
専門職大学と総合大学の強みを併せ持っており、将来的には学部間をまたがった形のスタートアップのマネジメントチームが出てくると思います。そうした点に魅力を感じ、この場に身を置きたいと思いました。
亀田製菓と開志専門職大学の共同プロジェクト「米菓新価値創造プロジェクト」の最終報告会の様子(2025年3月撮影)
学生たちが発表したアイデアの一つ「Kakigumi」(2025年3月撮影)
──学長に就任してまだ2カ月ほどですが、大学の印象はいかがでしょうか?
まだ若い大学だけに、企業で言えばベンチャーやスタートアップが持っているような「勢い」を感じます。私は東京大学で約20年、起業にフォーカスして取り組みをしてきましたが、それを立ち上げた当初の高揚感に似たものがあります。教員はもちろん職員全体に「新しいものを作っている」という気持ちがあり、学生にも共有されています。
スタートアップメンタリティが強いというのは、単に学生が自分の将来に起業という選択肢を入れているだけではなく、新しいものにトライしようという気持ちがある、ということです。
専門職大学として開学し5年、これまでとこれから
開志専門職大学2025年度入学式の様子(2025年4月撮影)。今年度は3学部合わせ205人が入学した
──「専門職大学」についてはどう思いますか?
当大学では1年から4年までの間に600時間(事業創造学部の場合)の企業内実習をしますが、これは専門職大学でしかできないことです。これによって「社会人ゼロ年生」として基本的なマナーなどを学べることもですが、企業がどのように成り立っているのかを知ることもできます。
理論的には、企業はどういうもので、売上や利益というものは……と勉強できるのですが、実際に現場へ行くことで本当の会社のリアリティに初めて気がつきます。売上の先に顧客が居て、「お客様の困りごとを解決する」というのが企業としての役割だ、ということなどが現場で分かるのですね。スタートアップの世界では「解像度」とも言いますが、これが高まるのです。
また(現場を知るからこそ)自分で価値を出して、その評価の対価としての給料であるという意識もやっぱり強く持つと思います。だから一人一人が自然と自ら学ぶことができます。本当に立派な職業人というのは、学ぶことを習慣化できる人。そして知識を持ってるというよりも、何かあった時にどうやったらその問題を解決できるかということが大切です。そういったことを卒業までに学ぶことができるカリキュラムになっていると思います。
開志専門職大学では近年、県内外の高校と高大連携も進めている。画像は聖学院高校(東京都)との連携協定締結の様子(2025年4月、写真提供:開志専門職大学)
──昨年度、1年遅れで開学したアニメ・マンガ学部も卒業生を輩出しました。開学から5年が経ったこれからの課題についてお願いします。
これまでは定員を満たすということや、企業内実習の受け入れ先を探すエネルギーも大きかったと思います。もちろん実習先企業は毎年変わるので継続して探さなければいけないのですが、企業にも開志専門職大学と連携することでメリットがあると理解していただき、好循環が今まさに回りかけてるところです。
一方、アニメ・マンガ学部は今年の新入生のうち約3割が海外からの留学生です。こうした中で、授業の外国語対応などの課題が出てきます。こういった課題は成長とともに出てくるので、それを地道に対応することがこの先重要なことです。
教育のあり方は変わってきています。ChatGPTに聞けば何でも教えてくれる時代になり、「本当に意味のある学びとは何か」が問われます。現代は有益な授業を公開するYouTuberなども多く居ます。
そうした中で、現場で働く経験などの提供が学生にとって大きな価値になります。実習を通して肌感覚で経験・体験し、授業ではそうした経験に理論を結びつけます。これが本当の学びになっていきます。そういった意味で開志専門職大学は大きなポテンシャルを持っています。
新潟から世界を変える人材に
ハードオフの山本太郎社長(写真左)と開志専門職大学在学中に起業した古津瑛陸さん(写真右)、写真は「NVAピッチ」で古津さんがグランプリを受賞した際のもの(2024年12月撮影)。各務氏は、古津さんのような「シンボリックな学生や教員の存在」もこれから大学が成長するために重要だと話す
──起業の話に戻りますが、開志専門職大学ではすでに在学中に起業した学生が居ます。また、ビジネスコンテストに積極的に出ようとする学生も多い印象があります。これまでベンチャーについて教鞭をとられてきた各務学長に今後の展開をお聞きしたいです。
私は東京大学で2005年に、起業教育のプログラムとして「アントレプレナー道場」というのをつくりました。そこから約20年で165社ほどの会社ができており、この中から近いうちにユニコーン級企業が出てくると期待されています。
起業家が次のステージに行った時、出身大学で講義をしてくれたり、あるいは学生をメンタリングしてくれたりと、繋がりができてきます。最近よく「エコシステム」という言い方をしますが、つまり人の連鎖ですね。(大学出身の)起業家が成功して、そこに卒業生が就職する。企業が成長すると人材がどんどん増えますから、そういった状況を経験した人が、今度はそこを辞めて自分で起業する。こういった「のれん分け」も新潟の地で起こって、人脈や人の連鎖が複合的になってくると思います。
もちろん、起業で失敗する人も出てきます。でも、その中で「うまく失敗する」ということを学ばなければいけません。うまく失敗して次に活かす。「失敗というのは一生ものじゃない」ということを地域の中に常識として根づかせていくのです。学生の頃に会社を作れば、失敗してもノーリスクだと思っている人がアメリカではけっこういます。
これからも在学中に起業する学生はどんどん増えていくと、例えば野球で言うと、大谷翔平選手に続いて同じ高校や地域から優秀な選手が輩出されているように、地方の大学である開志専門職大学が(起業家を目指す人の集まる)「極」になっていきます。大学としても(起業する学生を)応援していきながら、それがある程度年を重ねていくと、私の感覚で言うと10年ぐらいやるとそれなりの大きな「核」になって、いわゆるエコシステム的なものになってくるかなと思います。
学生たちへ「グローバルへ目を向けてほしい」と話す各務氏
──最後に、学生へ伝えたいことをお願いします。
学生には「グローバルへ目を向けてほしい」と伝えたいですね。最初から東京を目指したり日本国内を見るのではなくて、新潟の地にいながら日本を代表して発信できるような担い手になってほしいです。今の若者は、社会のために何ができるのか、ということに対してとても関心が高い。社会の現場にどういう課題があるのかを知ることができれば、大きく羽を広げることができると思います。
もちろん、起業だけが最良の選択肢ではなく、企業に就職してそこで組織を変えてくれるような人材になっていくことも重要ですし、自治体の職員としても新しいことをやっていかなければいけません。しかし変わらない点は、産業の発展は新しい人が作るものだということです。ついつい「経験がないから」としばらく様子見をさせてしまいますが、私たちは若い人に対する期待を全面に出さなければいけません。
今世界を動かす大企業というのは、すべて学生が作ったわけです。多くのイノベーションを作っているのは、例外なく若い人です。そうした人材が新潟から生まれたら素晴らしいと思います。
(聞き手 鈴木琢真、中林憲司)
開志専門職大学 紫竹山キャンパス(写真提供:開志専門職大学)
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