【世界・日本・静岡の野球事情】県勢9人指名のドラフト、ワールドシリーズ、くふうハヤテの野望まで。運動部長がまとめて解説!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「世界・日本・静岡の野球事情」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年10月31日放送)
(山田)先日、プロ野球のドラフト会議のニュースがありました。
(寺田)今日は、がっつり野球の話をします。今回のドラフト会議で、なんと県勢は9人も指名を受けたんです。これは例年よりも多い印象です。静岡は野球も盛んで、野球王国でもあります。ドラフトで指名を受けた注目の選手の話題から、静岡初のプロ野球チームくふうハヤテの野望まで、話を進めたいなと思います。
指名を受けた主な選手を紹介していくと、まずは宮崎流星選手。ヤマハで1年目の二塁手で徳島県出身の23歳。ロッテから2位と上位指名を受けました。
(山田)すごいことですよね。
(寺田)宮崎選手のお父さんは甲子園に出場した高校球児で、お母さんもアトランタ五輪ソフトボール代表。運動能力は親譲りなんですね。担当記者によると、「とにかくスピードがある」と。走攻守三拍子そろったプレーヤーで即戦力。本人も「打率3割、30本塁打、30盗塁のトリプルスリーを狙いたい。守備はまだまだうまくなれる。ゴールデングラブ賞を目指す」と意欲を高めています。
(山田)いや〜、いいですね。
(寺田)巨人から5位指名を受けたのは、静岡学園高出身で東海大静岡の宮原駿介投手。宮原選手はピッチャーです。150キロ台のストレートが武器の左腕なんですが、静岡学園高時代は一塁手だったんです。今の大学4年生ってコロナ世代で、高校3年の時は春夏ともコロナ禍で甲子園が中止になった「悲劇の世代」なんですね。
宮原選手は夏の静岡大会の代替大会で一塁手として出場した初戦で敗れ、高校野球を終えたんですが、登板機会のないまま最後の打者となってしまいました。その悔しさをかみしめ、そこでプロになろうと思ったそうです。大学に入って投手に専念し、当初は130キロ台だった球速を上げて、今150キロ台。まだ、伸びしろがありそうです。
(山田)20キロも伸びるもんなんですかね。
(寺田)短期間に伸びてますから、もっと伸びるんじゃないかと思います。
(山田)それから、阪神からの5位指名は佐野太陽内野手が受けました。佐野選手は苦労人で、決してエリート街道を歩んできたわけではありませんでした。常葉大橘から中部大に進み、今季は独立リーグの富山サンダーバーズでプレーしました。遊撃手で、主に1番打者を担い、リーグ戦で3割超の打率を残しました。
ただ打つだけではなく、鋭い選球眼で四球も選んで高い出塁率を誇り、チャンスメーカーとしてチームをけん引しました。独立リーグ出身ですから、「チームメートの思いも背負ってプロ野球の舞台でプレーしたい」と。
(山田)夢がありますよね。独立リーグから、プロ野球行けるんだ、っていう。
(寺田)そのほかにも、育成ドラフトということで、将来有望な選手として指名を受けた県勢は6人います。
広島から指名を受けたのは、知徳高の小船翼投手と静岡大で静岡高出身の安竹俊喜捕手。小船投手は198センチ、110キロの恵まれた体格から繰り出す最速152キロの速球が武器です。静岡高時代は公式戦出場1試合だった控え捕手だったんですが、1浪の末に進んだ地元の国立大で急成長を見せました。
(山田)これも夢がありますね。
(寺田)浜松商高でソフトバンクから指名を受けたのは曽布川ザイレン内野手。浜商は名門で、今年創部100年です。曽布川選手がプロ入りとなれば、同部出身者として33年ぶり。OBも大いに喜んでいます。同じ浜商出身で神奈川大の佐藤太陽内野手は西武、伊東南中出身で埼玉・花咲徳栄高の上原堆我投手もオリックスから指名を受けています。
そしてもう一人、創設1年目の2軍ウエスタン・リーグくふうハヤテから早川太貴投手が阪神から育成で指名を受け、球団史上初のドラフト指名選手として名前を刻みました。早川投手は今24歳で、一度は地元・北海道の北広島市役所に勤務した異色の経歴の持ち主です。夢をあきらめきれず、安定した生活を捨てて静岡に乗り込んできたんです。
(山田)すごいですね。
最速151キロの直球を武器に、今季は開幕投手も務め4勝。公式戦で実績を積んで見事、プロ野球への足掛かりをつくりました。
ハヤテはドラフトで選手を獲得できない…?
(寺田)このハヤテなんですが、どういう経緯で創設に至ったのか、覚えてます?
正確にたどっていくと、まず2022年11月のプロ野球オーナー会議でファームリーグ拡大構想が承認されたんですね。2軍のリーグってイースタンと、ウエスタンに分かれてるんですね、1軍のセリーグ、パリーグと違うんですよ。球団の所在地で東と西に組み分けされてるんです。
これまでイースタンが7チーム、ウエスタンが5チームと奇数だったんです。関東のチームが多くて6チームずつに分けられなかったんですよ。リーグのチーム数が奇数だと試合が組みづらいので、それぞれに1チーム加えて偶数にしようということになったんです。
(山田)なるほど。
(寺田)そこで手を上げたのが、成長企業への支援事業などを行うハヤテグループ。静岡市もプロ野球球団の誘致に力を入れていたので、両者が連携し、2軍球団創設を目指したんです。2023年11月にウエスタン・リーグ参入の正式承認を受け、くふうハヤテベンチャーズ静岡としてゼロからチームづくりに着手しました。同時に承認された独立リーグのオイシックス新潟アルビレックスBCは、イースタン・リーグに参入しました。
この2チームは1軍を持たない、2軍だけの球団なんですね。今回の早川選手のように、ドラフトから1軍球団へ選手を送り込むことはできるんですが、逆にドラフトで選手を獲得する権利はないんですよ。
(山田)そうなの?!くじはやれないんですか。
(寺田)1軍を持つチームと違って、選手を育てる、あるいは再生しながら勝利を目指し、2軍戦だけの興行で球団を経営するっていう、まったく新しいビジネスモデルを確立しないといけないんですね。前例のない挑戦ですよ。
ハヤテ1年目の成績は…
(寺田)今季、ハヤテ1年目のリーグ戦の成績は28勝84敗8分けの最下位。首位とは43ゲーム差。やっぱりそんな簡単には勝てないですよね。一緒に参入した新潟も同じく最下位だったんですが、こちらは首位と29・5ゲーム差でした。
でも、楽天イーグルスを思い出してみてください。今や堂々とパ・リーグで戦ってますが、オリックスと近鉄の合併でプロ野球再編問題があって参入した1年目の2005年は、首位と51・5ゲーム差の最下位だったんです。2年目から野村克也監督が就任してチームを作り、星野仙一監督の下で2013年には日本一になったんですよ。
ハヤテに話を戻すと、とにもかくにもドラフトで早川投手が阪神から育成指名を受けた。創設初年度から選手を1軍球団に送り込み、ハヤテの池田球団社長は「最低限の目標がクリアできた」と安堵しています。
今後は、安定した経営を続けることが課題になります。2軍球団の年間運営費は5~10億円と言われていますが、ハヤテは2軍との試合しかないから、入場料収入で稼ぐのはまだ難しい。今季のホーム戦平均来場者数は869人でした。Jリーグと比べてもやはり厳しいです。
収入の大部分を占めるのがスポンサー収入なんですが、現在の契約企業数は県内外で約10社で、もっと増やしたいところです。
早期からスポンサー契約を結んだ県内企業の担当者は「成長過程を応援し支えるのが地元の役割」と話していて、コアな応援団も生まれています。静岡の野球振興と地域活性化への貢献も球団に課された使命です。静岡市の担当者は「地域の一体感、市民の生活文化向上につなげたい」と後押しを約束しています。
(山田)選手も何名か番組に出てくれたりして、「これから静岡でもっと定着したい」って話もしてましたけども、やっぱりそういうことですよね。
メジャーはビジネスの最前線に位置する
(寺田)その前に、メジャーのワールドシリーズ。盛り上がりましたよね。大谷選手と山本投手が所属するドジャースが勝って幕を閉じましたが、今回の対戦でメジャーリーグに関心を持った方も多いのではないでしょうか?
今年のレギュラーシーズンの平均観客数、メジャーは1試合あたり2万9568人だったんですが、実は日本の方が3万1098人で多かったんです。
世界で最も観客動員数が多いチームは、1位ドジャース、2位カージナルス、3位ヤンキース。では、日本のチームは何位くらいかわかりますか?阪神が世界6位です。巨人は13位、ソフトバンクが14位。
(山田)すごい。
(寺田)でも、違和感がありますよね。日本人でもトップ選手はどんどんメジャーに行っちゃって、年俸も桁が違いますよね。大谷の年俸はドジャースと10年契約で総額1000億円以上と言われています。
メジャーの平均年俸が約7億6千万円なのに対し、日本人選手は4000万円超。10倍以上の差があります。観客動員数では五分五分もしくは日本の方が多いのに、メジャーリーグの球団はなぜこんなに選手に年俸を払えるのか。
これは話すと長いんですが、メジャーって商売がうまいんですよ。メジャーリーグはデジタルを生かしたビジネスの最前線にいるんですね。
DXを活用
(寺田)メジャーにはドジャースやヤンキースなど、人気の高いチームもあれば、阪神、巨人どころか日ハム、西武よりも集客力のないチームもあるんですが、テレビやネットの配信をリーグで一括して管理しています。メディア大手と放映権の一括契約を結んで、リーグ収入を各チームに平等に分けたりしてるんです。
また、メジャーのチーム名は愛称と都市名なんですね。日本は市民球団の広島以外は親会社があって、その宣伝費という感じで球団を運営してますが、メジャーのチームに親会社はないんですよ。独立採算で、オーナーが頻繁に変わるチームも多いんです。
(山田)聞いたことがありますね。
(寺田)最近は投資集団がオーナーになって球団の価値を高め、転売するケースも増えているんです。
(山田)ビジネスの一つのツールとして球団を使う。
(寺田)そうなんです。各種データを利用する手法も、急速に発展しています。メジャーリーグだと、今はピッチャーが投げた球の球速だけではなく、打者が打ったホームランの打球スピードとか飛距離、角度なんかが取り上げられますよね。
球場内で常にボールや選手の動きを瞬時に分析し、データ化してるんです。そのデータを選手の評価だけでなく、試合の戦略やスカウティング、トレーニングと健康管理、さらにはファン獲得と満足度の向上まで、デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用が広がっています。
(山田)すごい。
地方からプロ野球を変える?!
(寺田)日本のプロ野球も改革が必要な時に来てるんです。「16球団構想」という、今はセ・パ合わせて12球団あるのを、球団数を増やそうという構想があります。
最初は2014年に安倍政権の成長戦略の一つとして持ち上がり、20年には王貞治さんも構想を提唱したんです。残念ながら今は具体的な動きがあるわけじゃないんです。
ただ、リーグ全体を取り仕切る「日本プロ野球株式会社」といったものを設立した上で、各球団の親会社頼みではなく、やる気のある経営者もしくはGMが現場を取り仕切れば、東京への一極集中を食い止め、地方創生につながる可能性もあるんじゃないかと。
(山田)そうか。そうすると、地方で…。
(寺田)そこで、ハヤテなんですよ。今は2軍だけのチームですが、地域密着でファンを増やし、革新的な野球と経営で力をつければ、16球団に増えた時に1軍チームとしての参入があるかもしれない。今から実績を積んでいけば、有力な候補になるはずです。
現段階では「野望」ですが、静岡から日本のプロ野球を変えるチームに成長する可能性があります。応援したくなりませんか?
(山田)もう、試合に行ってみたいです。僕はそこまで野球に詳しくないんですが、これはかなり熱くなりますね。注目していきましょう!今日の勉強はこれでおしまい!