華麗な変身! 国蝶「オオムラサキ」の羽化 愛好家が撮影成功 釜石の保護活動 成果着々と
羽の美しい模様と鮮やかな色彩、力強い羽ばたきで愛好家にも人気のチョウ「オオムラサキ」。国蝶(こくちょう、日本昆虫学会選定)で、環境省の準絶滅危惧種に指定されているこのチョウは6~7月が羽化の時期。サナギから華麗な変身を遂げる雄の姿が6月下旬、釜石市内で撮影された。一連の過程の写真撮影に成功したのは、オオムラサキの保護活動に長年取り組んできた、かまいし環境ネットワーク(加藤直子代表)会員の菊地利明さん(59)。自然の神秘の一部始終を紹介する。
オオムラサキの羽化が見られたのは同市甲子町の雑木林。同ネットワークが2000年代初頭、オオムラサキ繁殖のために植えたエゾエノキの葉陰だ。エノキ類の葉は幼虫の餌になっている。菊地さんは毎年、同所で観察を継続。今年も休日などを利用し足を運んでいたところ、6月22日午後、薄緑色から黒っぽく変色した羽化間近のサナギを発見。撮影を開始した。
午後1時半ごろ、亀裂が入った殻から成虫が出始めた。頭部と背中から姿を現し、触角、脚も出てきた。3分ほどで体全体が殻から抜けると、ゆっくりと体勢を上向きに変え、羽を伸ばし始めた。この後、胴体と羽が乾いて飛べるようになるまで、じっとしていた。午後5時前、葉陰から葉表に移動。何度か羽を開閉しながら飛び立つ練習をした後、午後5時40分ごろ、勢いよく夕空に向かって羽ばたいた。羽化開始から4時間余り。オオムラサキの貴重な生態の一部が菊地さんによってカメラに収められた。(以下、羽化写真=菊地さん撮影)
菊地さんがこの場所で羽化の瞬間を目にするのは初めて。これまで、サナギと羽化後の殻は確認していたが、「今回はタイミングが合って撮影できた」。釜石では例年6月末に羽化を確認していたが、「今年は関東並みの早さ。地球温暖化の影響かな」と菊地さん。オオムラサキは雄が先に羽化し、その後、雌が羽化する。観察に同行した6月30日はエゾエノキ周辺を飛び回る雄の姿が見られた。「雄は体の成熟に時間がかかるため一足早く羽化する。雌は羽化直後に交尾が可能。雄は雌の羽化を待って近くにいる可能性がある」という。
同ネットワークが同所に植えたエノキ、エゾエノキは計4本。成長が早いこれらの木は約20年で大きく成長。周囲の環境と相まってオオムラサキの繁殖に適した木になっているとみられる。幼虫は枝を動き回って葉を食べるが、サナギは天敵の鳥に見つかりにくい、比較的低い枝の葉陰に多く形成される。このため、梅雨時期に水分で重くなった枝が垂れ下がってくると、シカがサナギごと葉を食べてしまうことがあった。菊地さんは今年、シカ対策として枝を支える支柱を設置。大雨が少なく、食害も防げたことで、目視で確認できる範囲に8匹のサナギができた。
オオムラサキは北海道から九州まで広く分布するが、生息数は減少している。高度経済成長期の森林伐採や木材供給のための針葉樹林化など山の環境変化で、幼虫に必要なエノキ類、成虫が樹液を吸うためのクヌギ、コナラなどの樹木が減ってしまったことが影響しているとみられる。
菊地さんが釜石市内で他にオオムラサキを確認できているのは、甲子町の小学校裏山、日向ダムなど。同ネットワークは県や市の協力で、同ダム周辺にもエゾエノキの植樹を続けていて、昨年5月の植樹時には、以前植えた木に幼虫の姿が見られた。今回、菊地さんが撮影した羽化写真を目にした加藤代表は「感激です。市民の皆さんにも見てもらえる機会を設けたい。子どもたちの環境学習にも役立てられたら」と期待。植樹の成果が表れていることも喜び、「引き続き生息環境を守っていきたい」と話した。
オオムラサキはタテハチョウ科に属する。羽を広げると10センチ前後になり、雌のほうが一回り大きい。羽の表面は雄が青紫色、雌は黒褐色で、白や黄色の斑紋がある。日本では南北で大きさや羽の裏面の色が異なる。北に生息するほうが小型で、裏面の羽色は南にいくほど白っぽく、北にいくほど黄色味が強くなる。菊地さんは「地域によって模様にも若干の違いがあり興味深い。こんなにきれいなチョウが釜石にもいることを知ってほしい。一緒に保護活動に取り組む仲間も増えてくれたら」と願う。