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監督・柿本広大が振り返る『BanG Dream! Ave Mujica』制作舞台裏②

Febri

TOPICS2025.04.01 │ 17:00

監督・柿本広大が振り返る


『BanG Dream! Ave Mujica』制作舞台裏②

柿本広大監督がTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』の制作模様を振り返るインタビュー連載。第2回は、本作を象徴するキャラクターとなった若葉睦が生み出された経緯や、「作品を熟知している」というスタッフの仕事ぶりに触れてもらった。

取材・文/太田祥暉

アニメクリエイターインタビュー_TOPICSバンドリ!柿本広大

望まない才能に恵まれた睦、つねに正しいにゃむ

――『Ave Mujica』の特異性を象徴するキャラクターとして睦がいると思うのですが、彼女が多重人格という設定になったのはどのような経緯だったのですか?
柿本 睦が有名人夫婦の娘であることは当初から決めていたのですが、人間関係の濁流の中に漂うような、世俗離れして無垢な子として考えていました。でも、幼いときからつねに衆目にさらされる状況にありながら、無垢なまま育った人の内面ってどんなことになっているんだろう、とあらためて考えて、同時に「才能」という軸で彼女のキャラクターを掘り下げていったんです。メタルバンドにふさわしく技巧は申し分ないけれど、MyGO!!!!!の楽奈(らーな)とはまるでタイプが違うギタリスト。人格の希薄さからくるコンプレックスで自分の演奏に自信が持てず、自分では才能がないと思っている。その反面、本人に自覚がない演技の才能にあふれていて、その才能が人格そのものを圧迫しているイメージです。自身では望まない、持って生まれた巨大な演技の才能が彼女の器の9割を占めていて、睦という人格はその残り1割で形成されている。その9割の才能をつかさどる人格としてあらわれたのがモーティスです。ただ、モーティスは人格として生まれたばかりで能力を生かしきれませんし、睦は睦で自分の発する言葉――周囲の和を乱し、全部ダメにしてしまう自分の言葉に、恐怖心を持つようになってしまっています。

――となると、ひとりでは睦自身の物語が回らなくなってしまいますよね。
柿本 話が回らないといえばもうひとつ、キャラクターの設定を作るときに、仮面バンドなので、ステージネームが必要になり、それぞれバンドのモチーフである月の地名からつけていったのですが、ひいてはそれが、キャラクターの「消したいもの」「怖いもの」、つまりはその人を縛っているものとしてドラマに反映しようと考えていました。たとえば、モーティスの場合は「死」ですが、多重人格という設定を考えついたときには、じつはこの要素とは切り離して考えていたんです。キャラクターの行動原理や関係性の変化によって、先の話が流転していく物語の作り方をしていた中で、キャラクターを要約できるような設定で縛ってしまうとその動きが阻害されて、どうしても心情と行動範囲が限定されてしまったんですね。なのでいったん切り離していたのですが、睦の掘り下げが進み、モーティスが登場したときに、同一人物内での「人格の死」という描き方もできるなと脳裏に浮かんで。他のキャラクターに関しても、それぞれのステージネームが冠する名前を一度外して、キャラクター自身の生き方を掘り下げるうちに、キャラクターたちがあらためてそれぞれのテーマにたどり着くという、ちょっと不思議な現象が見られました。また、その流れの中で睦の母親(みなみ)との関係性も探っていき、大女優の母親が嫉妬するほどの才能を宿す人物として睦を描きました。「みなみちゃん」「睦ちゃん」と呼びあっているのも、みなみが嫉妬と恐れを抱いていて、ただの子供だとはどうしても思えないからですね。「他人の才能に敏感」という意味では、みなみと似ているのはにゃむちです。

――そのにゃむについて米澤茜さんに取材した際、キャストに決まった時点では現在のにゃむとは異なるデザインだったと聞いたのですが……。
柿本 企画最初期の、僕が関わる前にブシロードさんが植田(和幸、キャラクター原案)さんに発注していた頃のデザインがそうでした。背が小さくて元気そうな、Roseliaのあこちゃんみたいなキャラクターで。その頃は燈(ともり)も、香澄みたいな真っ直ぐで明るそうなデザインでしたね。キャラクター開発を進めていく中でリデザインしていき、カリスマである祥子に面と向かって意見が言える人物になっていくとともに、祥子を見下ろせる身長のあるデザインになっていきました。身長差のある女子同士が見合っている構図のイラストが植田さんから参考に出てきて、脚本チームが「これがいい!」と絶賛して。そこからさらに今の「強い」にゃむになっていきました。祥子はある種の復讐のためのAve Mujicaだと言っているけれど、「それは私情だよね」と指摘できるキャラクター。手段を選ばないので自分勝手な面はありますが、野心があってクレバー、主張がブレることなく、ある側面ではつねに正しいことを言っている存在です。

Ave Mujica編は「追われ走り続ける」イメージ

――第1話から一貫して、物語はスリリングな展開が続きましたが、監督としてはどのような思いで制作に臨んでいましたか?
柿本 そうなっていたならうれしいです。迷いながらも自力で一歩ずつ進むMyGO!!!!!に対し、Ave Mujicaは大きく傾きながら、さらに何かに追われながら走り続けるイメージ、止まってしまうとそのまま奈落に転げ落ちてしまうようなバンドとして話を編んでいきました。MyGO!!!!!編が物語のビルドアップだとすれば、Ave Mujica編は先に提示された要素に答えを出しつつ、話を進める構成だったために、必然的に情報量も多く、その印象をより強めていると思います。「迷子」がコンセプトだったMyGO!!!!!編では、構成会議でなんとなくの構成を決めつつ、それはあくまで指標で、キャラクターやその関係性の変化に肌感で寄り添いながら物語を紡いでいきました。Ave Mujica編ではそれに加えて、「追われ走り続けるAve Mujica」というイメージのもと、MyGO!!!!!編同様、キャラクターやその関係性に向き合いつつも、最初に浮かんだ幾通りかの案はボツにして、先がどうなるか自分でもわからなくなってからあらためて筋を考え出すというやり方で作っていきました。なので「次はどうなるんだ」という展開が続くのは、その空気が反映されているからかもしれません。なんとか最終話までたどり着けたのは、僕の飛躍したアイデアを粘り強く受け止めてくれた脚本チームと現場の理解があってこそで、とても感謝しています。

作品を熟知したスタッフの仕事に助けられた

――印象に残ったシーンだと、第1話、泣いている祥子とMyGO!!!!!色の傘が逆方向に進んでいく描写がありましたが、あれも『Ave Mujica』は『It’s MyGO!!!!!』と正反対の物語をやる、という脚本チームの意思だったのでしょうか?
柿本 いえ、あれは絵コンテ・演出さんのアイデアです。『バンドリ!』シリーズのアニメはずっとサンジゲンで制作しているので、スタッフもみんなこの作品を熟知しています。出来上がった脚本からコンテ、カットに至るまで、どこでもすぐに見られるようになっていますし、脚本会議に参加していないスタッフでも、録画された脚本会議の様子をいつでも見られるようになっているんですね。なので、脚本やストーリー全体の意図をくみ取ったうえで、そうやって物語をさらに補強してくれることも珍しくないです。演出からアニメーターまで、自分のカットに責任を持ちつつアドリブも入れてくれています。もしかしたら僕が気づけていないような細かな伏線もまだあるかもしれません。

――そういった「現場のアドリブ」で印象深かった描写はどこですか?
柿本 『It’s MyGO!!!!!』だと第10話の愛音(あのん)がそよの手を引いてステージに上げるシーンで、演奏前に髪の毛を直すところですね。その前の第8話の絵コンテに、そよが自分で髪の毛を直す芝居を入れていたんですが、それを踏まえてコンテさんが仕込んでくださって。そういった細かな掘り下げが『Ave Mujica』でも非常に多かったです。最たるものは最終話のライブでの「天球(そら)のMúsica」のラスト、キラキラとしたエフェクトが落ちてくる中で初華を映すカットですかね。あの、舞台を完全に支配していないとできない初華(ういか)の微笑は、完全にコンテさん、演出さん、そしてアニメーターさんたち皆の頑張りによるものです。それまでのドラマを知っているのに、その上で初華にあの表情をさせることができる表現力。三角初華(初音)という複雑な人物を、スタッフ皆が理解して作っているということの美しい証左に思えました。『Ave Mujica』はそんな瞬間の連続だった気がします。

柿本広大かきもとこうだい 1981年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後、制作進行としてProduction I.Gに入社し、2007年に『精霊の守り人』で演出家としてデビュー。『バンドリ!』シリーズ以外の監督作に『刀使ノ巫女』『菜なれ花なれ』がある他、『神椿市建設中。』が2025年に放送予定。第3回に続く作品情報

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7.天球(そら)のMúsica

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・2025年開催予定 Ave Mujica単独ライブイベント 最速先行抽選申込券
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©BanG Dream! Project

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