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過剰在庫の解決へ 脱脂粉乳がサワーや服に!?

TBSラジオ

今日は「脱脂粉乳」の話題です。
1960年ごろまでは学校給食でも提供されていたので、馴染みがある方もいるかもしれませんが、生乳からバターを作ったときにできるもので、脂肪分や水分を除いた粉末状の乳製品です。

脱脂粉乳の過剰在庫 経緯や現状は

主にヨーグルトなどに使われていますが、この脱脂粉乳が数年前からたくさん余っている、脱脂粉乳の過剰在庫が問題になっています。経緯や現状を、北海道東部、中標津町で酪農をしている株式会社ファームノートデーリィプラットフォーム 社長の平 勇人さんに伺いました。

株式会社ファームノートデーリィプラットフォーム 社長平 勇人さん


生乳は、牛乳を飲む以外の加工をすると加工品が出てくる。バターは需要がしっかりしていて、不足気味なんですけれども、バターを作ったときに同時に出てくる「脱脂粉乳」は、需要よりも供給が多い状態で、脱脂粉乳が余ってしまう。大量に積み重なっていく脱脂粉乳の在庫、それを調整するために、酪農生産の現場では「それ以上、生乳を生産してはダメですよ」というのが起きたのが、2022年ごろの脱脂粉乳問題の、本質的な部分なのかなと。特に北海道で生乳生産の制限がされていたんですけれども、北海道における生乳生産の制限は、今は解除されています。ただ、その中でも「生産拡大していきましょう」という状況では今もないので、われわれ生産者としては、売り上げをいっぱい作っていける状況では今もないというのが現状です。 


脱脂粉乳の過剰在庫、コロナ禍に学校が休校になり給食で牛乳が出せないなど、行き場をなくした生乳を、長期保存の効く脱脂粉乳という形にして、在庫として積み上がっていきました。牛も生き物で、急に生乳を出すのを止めることもできないので、脱脂粉乳にして保存するしかなかったという経緯もあるんです。

その結果、平さんのお話のように酪農家が生乳の「生産抑制」を強いられて収入が減り、また、在庫を減らすためのコストを生産者が一定割合、負担するなど酪農家には厳しい状況が続いてきました。

脱脂粉乳の在庫は2022年の10万トンをピークに、だいぶ落ち着いてきたそうですが「バターの需要は多い一方、脱脂粉乳の需要は少ない構造は今もあり、今後も脱脂粉乳が余りやすいというのは続いていくと思う」と話していました。

脱脂粉乳を使ったミルクサワー

そんな脱脂粉乳の在庫問題を受けて、企業も取り組みを進めています。食品大手の明治は、廃棄食材を活用する企業「Beer the First」と脱脂粉乳を使ったミルクサワーを共同開発しました。株式会社明治 イノベーション事業戦略部 松浦枝里子さんのお話です。

株式会社明治 イノベーション事業戦略部 松浦枝里子さん

商品名は「MILK MOON(ミルクムーン)」というミルクサワーで、蜂蜜を使用していて、乳原料を10%使用した350ミリリットルの缶入りのサワーになります。「脱脂粉乳」が在庫が増えているというのが乳業界全体の課題になっていまして、明治としてもヨーグルトやアイスクリームといった乳製品に使用はしているんですけれども、使用用途を増やすことで、脱脂粉乳の価値を高めていくために、新しい用途としてミルクサワーにチャレンジしました。主な原料のリキュールと、脱脂粉乳を混ぜて、おいしく整えるために蜂蜜を使用して、商品を作っています。乳製品を扱う会社として、乳原料の過剰在庫というのは、解決すべき取り組みだと思っています。これを継続的に販売していくこと、新しい商品を作っていくことで、継続的にこの課題に取り組むことが大事だと思っています。

脱脂粉乳を使ったサワー、飲んでみるとミルク感の強い、まろやかなサワーでした。去年10月から本格的に取り組みをスタートして、今年3月に発売。紀ノ国屋や成城石井、全国のスーパーなどで販売しています。

明治は、これまでにも、脱脂粉乳を使った「あられ」を販売したこともあって「今後も継続して色々な商品に取り組んでいきたい」と話していました。

脱脂粉乳が服に!?

脱脂粉乳の使い道は他にも色々あって、脱脂粉乳を使って「服」を作っているユニークな企業もあります。株式会社Blueprint one 社長 鈴木大樹さんに伺いました。

株式会社Blueprint one 社長 鈴木大樹さん

なんとかこの脱脂粉乳の新しい活用方法、消費のルートを生み出せないかなと思って、ちょっと突飛な話なんですけども、アパレルの繊維に脱脂粉乳を使うというものを、去年の11月にリリースしました。結構シルクっぽい、保湿感があるような素材になっているので、肌に優しいとか、静電気も抑えるような形、そういった特性を持っている繊維になっています。このアパレル繊維は木材パルプから生成しているレーヨンと、脱脂粉乳からカゼインというタンパク質を抽出するんですけれども、それを練り込むような形で、半合成繊維として、アパレルの原料、繊維として使っています。今、展開をしているのは主にTシャツになっています。半袖と長袖で、こちらは脱脂粉乳を1着あたり約150グラム使用しています。


脱脂粉乳を使った服、触ってみると、やわらかくて触り心地がいいんです。
3年ほどかけて完成し、去年11月から予約のオーダーを始めたところ、300、400着ほど予約が入っているそう。鈴木さんは、「こういった取り組みを通じて、酪農が抱える社会課題を知ってほしい」と話していました。


今後も脱脂粉乳の活用は、様々なジャンルに広がっていきそうです。


(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:西村志野)

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