「コメディ色が強いけど哲学的な側面もある」[Alexandros]川上洋平、実在した“偽殺し屋”をモデルにしたクライム・コメディ『ヒットマン』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、『トップガン マーヴェリック』等で知られるグレン・パウエルが『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督が実在した“偽殺し屋”の記事を持ち込んだことから企画がスタートした『ヒットマン』。大学で哲学と心理学を教える傍ら、おとり捜査官として警察に協力するゲイリー・ジョンソンが主人公のクライム・コメディを語ります。
──『ヒットマン』はどうでした?
おもしろかったです。でもあとからさらにジワジワくるおもしろさがありません? なんとなくの情報しか頭に入れずに観たんですが、予想できない展開に驚いて。最後まで飽きずに観れてしまったけど、終わってから一つひとつのセリフを思い出してしまう。そんな映画でした。
──確かに。グレン・パウエル演じる主人公のゲイリー・ジョンソンは大学で哲学と心理学を教える傍ら、警察で偽の殺し屋としておとり捜査を行う独身貴族で、依頼主によって様々なキャラクターの殺し屋になりきっているうちに、夫殺害の依頼をしてきた女性、マディソンに惹かれてしまうという。
ゲイリーは序盤で既にキャラクターが変わってましたよね。さすがに展開が早過ぎてびっくりしました(笑)。
──ゲイリーがいろいろなキャラクターの殺し屋になりきるところがこの映画の売りのひとつで、序盤でそのなりきりぶりを名優のダニエル・デイ=ルイスみたいって評されてましたよね(笑)。
あと、完全に『アメリカン・サイコ』のオマージュの瞬間もありました。
──そうでした。
ゲイリーが大学で哲学と心理学を教えている設定なので。コメディ色が強いけど哲学的な側面もありますよね。飼ってる猫の名前が心理学用語のイドとエゴだったり(笑)。あと、ドタバタなラブコメの要素もあって、ジャンルのカテゴライズが難しいですよね。
■『ヒットマン』も『ブレイキング・バッド』も副業の自分がどんどん乗り移っていく感じがおもしろい
──ゲイリーはマディソンの前ではセクシーな殺し屋・ロンになりきっているけど、マディソンに惹かれるうちにロンに憧れ始め、ゲイリーの人格にロンが入っていきます。
そう。規格外な設定だけど、なんと実話がベースになっているらしいですね。しかもこのお話を主演のグレン・パウエルがリンクレイター監督に持ち込んだことから映画の企画が始まったという。グレン・パウエルは主演だけじゃなく、脚本とプロデュサーとしてもクレジットされてます。
──殺し屋になりきるうちに取返しがつかなくなっていくところは『ブレイキング・バッド』を思い出しました(笑)。
俺も思いました! 最近ようやく観終わったんです(笑)。『ブレイキング・バッド』も高校の化学教師が麻薬精製に手を出すっていう副業スタイルですね。
──『ブレイキング・バッド』のウォルターもゲイリーも自分の本職が副業の役に立ってるパターンで。
そうそう。ふたりとも副業の自分がどんどん乗り移っていく感じがおもしろいですよね。
──ウォルターが麻薬精製を始めるのは家族のためだけど、ゲイリーはマディソンに惹かれるうちに暴走し始める。
そのマディソンがとんでもない子で(笑)、いよいよ予想がつかなくなったよね。
──マディソンもぶっ飛んでますよね。
普通のヒロインでは全くなくて、その辺も二転三転してて笑えました。「あ、笑っていいのね」って思う瞬間があった。
■これからもますますグレン・パウエルが楽しみ
──リンクレーター作品で好きな作品はありますか?
『6才のボクが、大人になるまで。』は好きでした。あと、『バッド・チューニング』はおもしろかったし、ジャケがダサくていい。リンクレイター作品は全部観てるわけではないですが、インディーと大作感のいいバランス感覚があって好きです。
──確かに。
『ヒットマン』主演のグレン・パウエルは何度かリンクレイター作品に出ていますが、「スターになるぜ」っていうガッツが滲み出てますよね。こんなにギラついたハリウッド若手スターは最近あまりいなかったので、ワクワクさせてくれます。グレン・パウエルは『トップガン マーヴェリック』のオーディションで、マーヴェリックの親友のグースの息子役を受けるんだけど落選するんですよね。その後ハングマン役のオファーを受けるんだけど一旦断るんです。でもトム・クルーズに直接説得されて出演したっていう逸話があって。そこでトム・クルーズに「どんな俳優になりたいの?」って聞かれた時に「僕はあなたみたいになりたいです」って答えたらしいんです。そこでトムに「だったら良い役というより良い映画を選んだ方が良い」っていうようなことを言われたっていう。
──トム・クルーズ的な王道感はありますよね。
ね! でも一癖あるよなあ。それが『ヒットマン』の魅力にも繋がってると思う。『ヒットマン』は普段は退屈な生活を送っている主人公をイケイケな感じのグレン・パウエルが演じてるのが良いですよね。腕の見せ所っていうか。いかに三枚目役をできるかっていうのは器の大きさが問われるけど、ばっちりでしたね。これからもますますグレン・パウエルが楽しみです。
──そうですよね。自分から企画を持ち込んでるし。
『トップガン』でトム・クルーズがプロデューサーを兼ねてるのと通じるものがありますね。最近の俳優さんは制作に関わるケースが増えてますよね。作品の説得力が増すし、観る側の楽しみも増しますよね。演技のみに集中する職人タイプと制作にも携わるクリエイタータイプとどっちのタイプも僕は好きですけどね。
取材・文=小松香里
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