紫 今、ego apartment、離婚伝説、DURDNが大阪で共演ーー新たな出会いに満ち溢れた『OSAKA NIGHT PARADE ~vol.8~』振り返りレポート
『OSAKA NIGHT PARADE ~vol.8~』2024.3.29(FRI)大阪・心斎橋JANUS
2024年3月29日(金)、大阪・心斎橋JANUSにて『OSAKA NIGHT PARADE ~vol.8~』が開催された。『OSAKA NIGHT PARADE』は、“音楽・芸術の力で大阪のネオンサインのように世界をちょっと明るく!”をテーマに掲げ、2021年にスタート。注目のニューカマーを数多く招き、次世代シーンの台風の目となってきた。2024年度初開催となった今回は、紫 今とego apartment、離婚伝説、DURDNの4組が出演。昨年12月に開催された第7回のレポートでは、「2024年の音楽シーンをザワつかせるであろう4組の競演をお見逃しなく」と予期されていた(https://spice.eplus.jp/articles/325098)が、まさしく音楽シーンをどよめかせることとなった一夜の様子を振り返る。
紫 今
トップバッターを託されたのは、紫 今。ヘルマン・ヘッセの短編小説『少年の日の思い出』から着想を得たであろう「エーミール」で1日の幕を上げる。およそ3分の中でHIP HOP的なアプローチからボーカロイドを想起させるメロディまで幅の広さを見せつけ、早速ライブの世界へと引き込んでいく。
「大切な人や学生時代を思い浮かべながら聴いてください」と話して披露されたのは「学級日誌」。ストリングスやピアノを駆使し厳かな雰囲気を醸し出す同曲が、シャンデリアや赤いカーテンをあしらった、JANUSの大人な雰囲気と混ざり合っていく。どこか祈るように手を合わせる人や頷きながら耳を傾ける人も多く見られ、深層の鬱屈とした部分に光を当てる楽曲であることを実感する。チャイムの音と共にゆっくりと照明が落ちていくと、過ぎ去った青春の日々を走馬灯のように思い出した。
「ここからが紫 今の本当のライブです」と告げると、今宵が輝かしいものになることを確約するように「ゴールデンタイム」を投下。ステージを左右目一杯に動き回るアグレッシブなライブを展開しながら「フラットライン」を畳みかける。曲の中盤、ドラムの2ビートが爆発すると、堪えきれないとばかりに歓声が湧きあがった。
ラストナンバー「凡人様」では曲が進むのに比例し、オーディエンスのジャンプも高くなっていくのが印象的だった。<天才>や<凡人?>、<冗談じゃない>といったフレーズでコール&レスポンスを巻き起こすと、観客の声を受け取った紫 今のハイトーンボイスが響き渡る。手を掲げながら歌う紫 今のシルエットは、“降臨”と言いたくなる存在感を放っていた。
ライブを終えて何よりも感じたのは、底が見えないなということ。目まぐるしく変化していく楽曲も、ラップやゴスペルに合わせた声色の使い分けもまだまだ引き出しがあるのだろうと思わされる。その一端を垣間見てしまったからこそ、もっと見たいと思わせる引力があった。
ego apartment
静と動、柔と剛。世の中には無数の二項対立があるが、ego apartmentのステージは対比と融合の連続だった。「大阪、盛り上がっていきましょう」、Dyna(Ba)がにこやかな表情で語りかけると「NEXT 2 U」でフロアを踊らせていく。Zen(Gt.Vo)が歌っている時にはShu(Gt.Vo)と、Peggy Dollが主導権を握っている時にはZenと向き合いながら演奏しているDynaの姿を見ていると、彼がブリッジの役割を担っているのだと思う。このことはギター2本とベース1本という編成からも、ステージ中央でプレイするのがDynaであることからも明白である。
続けてドロップされた「Weigh me down」では、Zenのカッティングに揺られていると、Shuが繰り出すフレーズに思わずニヤリとしてしまう。セッションを繰り広げるように3人が楽曲を作り上げていく時でさえ恍惚としてしまうのに、いわんや両者が合わさった際の爆発力たるや。フロアの前方と後方、サビとサビではないメロディといった全ての境界線が薄れ、ego apartmentという一つの音楽へ昇華していく感動があった。
「ゆっくりと踊りながら聴いてください」と紹介された新曲「mad cooking machine」に続いて披露された「Sensation」では、イントロのビートに呼応して黄色と青のライトが点滅する。一緒に来ていた友達と手を繋ぎながら音楽に身を委ねている人の姿も見かけたが、好きなタイミングで好きなように反応できる心地良さが終止流れていたように思う。
Dynaが「大阪好きだなぁ。あったかいですね」と愛を口にすると、Zenの色気漂う声にファンからうめくような声が漏れた「SUN DOWN」へ。<From sun down Till the sun rise>という歌詞がまさしく『OSAKA NIGHT PARADE』の空気とマッチし、幻想的な雰囲気を作りあげる。かと思えば「REACH!」では、Dynaの合図でShuがギターソロを見せつけ、再び会場のボルテージを最高潮に。これにはDynaも「大阪、調子いいね」と満足そうな表情を浮かべる。
最後の曲にセレクトされた「huu」では、Dynaが観客を指差す場面やZenと共に寝そべりながら演奏するシーンも。後方からは2人の姿が見えなかったラストシーンは、彼らが最後の最後まで駆け抜けたことの証にほかならない。
離婚伝説
今の離婚伝説には破竹の勢いという言葉が良く似合う。1stアルバム『離婚伝説』のリリースや超満員のZepp Shinjuku(TOKYO)での初ワンマンライブ、メジャーデビューの発表と、事実を書き連ねただけでレポートが終わってしまいそうな勢いである。
さて、そんな離婚伝説のライブは「あらわれないで」でスタート。別府純(Gt)のカッティングに合わせてジャケットに身を包んだ松田歩(Vo)が体を揺らすと、観客も呼応してのっけからうねりが生まれる。
キーボードのソロから始まった「萌」では、松田がマイクスタンドを握りしめ、過去を思い返すように目を瞑りながら歌い上げる。曲のクライマックスでは、青に包まれていた会場にオレンジの光が差し込んでくる。それは夜明けのようであり、大切な人の存在を思い返す夢が終わる合図にも見えた。
「歌える人は歌ってね」と口にすると、「愛が一層メロウ」をプレイ。ファンから待ってましたとばかりに大合唱が巻き起こると、松田は「みんな最高だよ」と満面の笑みを見せる。先刻の「スパンコールの女」でも感じたことであるが、離婚伝説のラインは一度聴いたら耳にこべりつくものばかりだ。この人懐っこさは歌謡曲を想起させるワードセンスやリフレインに由来するものであり、それ故にどこか懐かしさを感じてしまうのであろう。
エンディングを彩ったのは、「メルヘンを捨てないで」。歌い終えた松田がステージから去ると、セッションへと流れ込む。別府がチョーキングを駆使して高音を響かせれば歓声が上がり、口を使って演奏すれば視線は釘付けに。心地よい残響を残してライブを終えると、フロアからは「もう終わり?」という声も聞こえてきた。それは彼らのライブを待ち望んでいた人が多くいたこと、そして濃密すぎる30分であったことを証明していた。
DURDN
楽しい夜の終わりはあっという間に近づいてくる。嫌というほど分かっている事実なのに、1日が終わってしまう現実に胸が締め付けられる。大トリのDURDNのライブは、そんな悲しみを吹き飛ばしてくれる時間だった。この日はBaku(Vo)とSHINTA(Gt)、サポートメンバーに友田ジュン(Key)、臼井岳(Ba)、井上瑠哉(Dr)を迎えた5人でオンステージ。SHINTAの爽やかなギターが特徴的な「Runner's High」でショータイムが始まった。<夜が終わって朝が来て 僕らそれの繰り返し>という歌詞からは、退廃的な日常を変えようとする決意も何気ない日々の大切さも伝わってくる。ハッとさせられるようなラインでありながらも、素直に受け取ることができるのは、客席から手を振られて手を振り返す温かさを持ったBakuの人柄も大きいだろう。
「疲れも見せずノってくれて嬉しいです」と感謝を述べて繰り出されたのは、4月24日(水)にリリースされたEP「Komorebi」から楽曲「Palm」。同EPは1日の流れをテーマにしたコンセプチュアルな1枚だが、<ドレスコードのない店で>と歌っているこの楽曲は夜をテーマにした1曲だ。ミラーボールに反射した紫の光が泳ぐ中、じっくりと耳を澄ませた時間は幸福感に満ちていた。
同じく「Komorebi」に収録された夕方の曲「Pretense feat. 李浩瑋 Howard Lee」を終えると、「この曲はみんなで踊りましょう」とBakuの言葉から「All of you(Remix)」へと接続する。井上の跳ねるようなドラムでフロアが揺れた光景は、<君の全てを 僕に委ねて>というラインにここまで踊り続けてきたオーディエンスが休むことなく応えたからこそ完成したものであった。
心のトキメキのままに明日へと歩んでいくことを歌った「Fizz!(Remix)」で1日に終止符が打たれると、5人へと鳴り止むことのない拍手が送られる。感想を話しながら会場を立ち去る人を見ていると、新たな出会いが詰まった一夜であったことを確信した。
こうして大団円を迎えた、2024年度一発目の『OSAKA NIGHT PARADE ~vol.8~』。まだまだ『OSAKA NIGHT PARADE』は続いていく。次回は、7月11日(木)に大阪・Yogibo META VALLEYで開催が決定しており、小林私、joOjiほかが出演する。さらにその先は、どんなアーティストとの出会いが待ち受け、どんな良い夜を過ごせるのだろう。そんな期待に胸を膨らませながら、心斎橋の街を歩いた。
取材・文=横堀つばさ 撮影=ハヤシマコ