子どもが不登校に…勉強は大丈夫?義務教育は取り戻せる? 専門家が教える「やる気のスイッチ」が入る時期
子どもが学校に行けなくなった。勉強は?進路はどうなる?「やる気」のスイッチはどうしたら入るのか…不登校を経て社会へ出た実例を紹介しつつ、専門家が不登校との向き合い方を解説します。
【画像】不登校ジャーナリスト・石井しこうさん「登校がゴールではないと頭では分かっていても、勉強や将来が心配」──子どもが不登校になると、そんな悩みが出てきます。私たちは、そうした不安とどう向き合えばよいのでしょうか?
不登校ジャーナリストの石井しこうさん(以下、石井さん)にお話を伺いました。不登校で実際にあったケースと、親のかかわり方のポイントをお伝えします。
〔この記事は、不登校について取材した記事(前編)に続く、後編です〕
学校に行けなくなった子どもは、さまざまなストレスから勉強が手につかないことがあります。将来のためには、少々無理強いしてでも机に向かわせたほうがよいのでしょうか。
石井さんは、「勉強再開は子どもの準備が整ってからでも遅くない」と断言します。教育関係者の中には、「9年間の義務教育、ポイントだけを1年でやり切ることも十分可能」という意見もあるのだとか。
▲自身もフリースクールで学んだ経験をもつ、不登校ジャーナリスト・石井しこうさん。
「やる気」のスイッチが入る時期
石井さんの友人には、20代後半になってからやる気スイッチが入った人もいます。中学校で不登校になり、フリースクールへ。保育士の学校に通い始めて保育士になったものの、生活上のトラブルもあって仕事を辞め、引きこもりになりました。
何年か家庭で過ごしていたある日のこと。「気晴らしに勉強でもしてみたら?」という親の一言でなにげなく勉強を開始しました。すると俄然楽しくなり、国立大学に合格。大学でも優秀な成績を収め、現在は研究者として活躍しているのだといいます。
自由度の高い環境でも成長するためのポイントは「やる気スイッチが入るタイミングを見極めること」と石井さんは断言します。子どもの心が学びに向いてないときは、どんな学び方だろうが頭には入ってきません。
「小中学校は、出席さえすれば寝ていても卒業できてしまう。登校すれば学力がつく、ということはないのです」と石井さん。
反対に、やる気になれば短期間でも取り返せるもの。親が「勉強しなさい」と言うのをこらえて見守っていると、ある日突然勉強に気持ちが向くケースが多いのだとか。そうなればしめたものです。
不登校を経て専門職へ ある女性のケース
では、子どもが休んでいる間、親はどのようにかかわればよいのでしょうか。石井さんが勧めるのは「雑談」です。
子どもは、「不登校=失敗してしまった」と捉えがち。でも、安心できる環境で何気ない会話を重ねることで、見違えるように元気になると石井さんは言います。雑談が脳のエクササイズになる、と主張する脳科学者も。一見ただのおしゃべりでも、実は大きな意味をもつのです。
小・中学校と不登校だったある女性は、家庭での昼食のあと母親とおしゃべりを楽しむのが習慣でした。30歳近くになったとき、「作業療法士になりたい」という気持ちが湧いてきたといいます。
「病気や怪我でリハビリをしている人は、不安の中を生きている。自分もずっと不安の中を生きてきたから、きっと助けになるのではないか」──そう考えるようになったというのです。
彼女はアルバイトをしながら作業療法士の資格を取得。現在は現場で活躍しています。母親との会話を重ねる中で、彼女の心の中にあった不安が救われていったのだろうと、石井さんはいいます。
1回30秒でもいい「雑談のススメ」
とはいえ、仕事や家事で忙しく、じっくり子どもと話す時間が取れない、という親もいるでしょう。そんな悩みに対しては、「雑談は1回30秒だけでも構わない」と石井さんはアドバイス。
「『今から、本人のことを否定しないで話を聞こう』。そう決めて、短時間でも聞いてみましょう。向き合い過ぎはかえって子どもの負担になるだけ。料理など家事をしながら聞いてあげるのもおすすめです」。
子どもの年齢によっては、寝かしつけのタイミングもぴったり。親が話を聞くのに疲れてきたら眠ったふりをしてしまうという手もあります。何事も力を入れすぎず、無理なく続けられる方法を探していきたいですね。
AI教材で学力が伸びたケース
学びの場は、外だけではありません。家庭で学ぶ「ホームスクーリング」も進化しています。
石井さんのおすすめはAI教材。不登校の学び直しに有効だといいます。学年に関係なく、個々の学力や学習ペースに合わせて進められる無学年式の教材なら、コンプレックスを感じずに取り組めるのです。
石井さんが取材した中にも、AI教材で驚異的な成長を見せた例があります。
ある子どもは、「読み書きができない」という悩みを抱えていました。要因は不安の強さ。
精神的に不安定でいろいろなことを考えて過ぎてしまい、集中できなかったのだといいます。
その状態は高校進学直前まで続いたのですが、高校進学のタイミングで大きな転機が訪れます。
高校に進学するのだから「すこしは勉強しよう」と自らAI教材で勉強を始め、半年ほどで中学校3年生までのおもな学習内容は学び終えてしまいました。
高校進学後も、ほとんど勉強でつまずくことはなかったのだそうです。
▲AI教材は、自分の学力やペースに合わせて進めやすく、コンプレックスを感じずに取り組めるなどのメリットがある(写真はイメージです:アフロ)
石井さんは、こう分析します。「もちろん、読み書きの困難さにはいろいろな要因が考えられます。この子の場合は、やる気になったときは爆発的に学力が伸びる子だったのでしょう。そして、そこに至るまでにきちんと休む期間をもっていたことも、とても大事です」
学力を上げるためには積み重ねが大事なのはいうまでもありません。AI教材はビッグデータを活用しているため、その積み重ねを阻む「できていない箇所」を見つけ出してくれます。
AI教材を使い始める際、子どもによってはログインや設定の面で親のサポートが必要ですが、慣れれば自分でできるようになります。
気をつけたいのは、どんな教材も「本人の意欲が出てきてから」が鉄則ということ。「やる気がないのに親が付きっきりで追い詰めても意味がありません」と石井さんは釘を刺します。
親が一人で抱え込まないことが大事
保護者が一緒に登校する「同伴登校」を学校から提案される場合もあります。
「好きな場所なら親の同伴など必要ないはず。一人では登校できなくなっている時点でギブアップと同じことなので、おすすめしません」と石井さん。
「無理すればなんとか登校できる」状態は、すでに赤信号だと受け止めるべきなのでしょう。
また、親自身が不安をつのらせ、子どもにその感情をぶつけてしまうことにも要注意です。
石井さん自身も、中学生のときに学校に行くことができなくなりました。当時をこう振り返ります。
「母親も不安だったに違いありませんが、休むことを受け入れてくれて嬉しかった」
▲我が子が不登校になれば、不安になるのは当たり前。親だけで全てを背負おうとしないことが大事(写真はイメージです:アフロ)
石井さんによれば、不登校の子どもに向き合う際に大切なのは、「不安になったり、苦しくなったりするのは当たり前」と考えること。そして、親だけで全てを背負おうとしないことです。
「親だけでなく、複数の大人が関われるといいですね。親自身も、どんどん同じ立場の親とつながって情報交換をしましょう」と石井さん。
不登校だからといって家に閉じこもる必要はありません。さまざまな人の話を聞くことで、親子ともに視野が広がることもあるでしょう。
「親同様、不登校の子どもも、内面では将来のことなどをすごく考えています。その思いや葛藤を表現し、同じ状況で苦しんでいる子のために活用できる場所がもっと増えたら」
そこで石井さんが2年前からTikTokと一緒に始めたのが「不登校生動画甲子園」です。
子どもたちが自らの不登校経験を1分間の動画にし、サイトに投稿。各界の著名人が審査と表彰を行いました。
「学校でしかできない経験もありますが、不登校だからこそできる経験もあります」。子ども自身が制作し、そんなメッセージを伝える動画は、不登校のイメージを大きく変えてくれます。
「大人になると、意外と成功体験より失敗経験のほうが生きたりするもの。それは子どもも同じです。自分の経験を社会に活かせる場があるんだと思えるようになると、不登校の子もガラッと変わるのです」(石井さん)。
不登校が親子共にハードな経験であることは間違いありません。でも、笑顔と安心をパートナーにその経験をくぐり抜けたとき、私たちは親子ともに大きな変化を遂げるのではないでしょうか。
【「不登校の子どもの居場所」をテーマに、さまざまなケースを取材する連載(前後編)。フリースクールの運営者、通信制高校生に取材した前編に続き、今回の後編では、不登校ジャーナリストの石井しこうさんに「我が子への向き合い方」をお聞きしました】
(取材・文/中村 藍)