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消費の変化に対応する中国外食産業の動向(後編)

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消費の変化に対応する中国外食産業の動向(後編)

消費者の価格訴求は、カフェ、ファストフードのみならず、カジュアルレストランにも影響している。店舗経営コストの三要素である原材料、家賃、人件費のうち、原材料、人件費が上昇する中、安値で商品を提供したのでは企業採算はおぼつかない。記録的な2024年上半期の閉店数は、価格対応への難しさを物語っていると思われる。

注目されるサイゼリヤ

この環境下、中国で業績が良好に推移しているのがサイゼリヤで、現地メディアにも取り上げられる頻度が増えている。サイゼリヤは2003年に中国に進出し、2012年には広東省広州市にセントラルキッチンを開設したが、2020年に始まったコロナ禍の際は、外部から中国事業を不安視する声もあったという。

2024年8月の同社決算数値(決算期8月)をみると以下の通りで、中国大陸、香港での営業利益貢献率が高い。価格戦略で苦戦している企業が多い中、営業利益率は日本と比較しても高い水準を維持している。

サイゼリヤへの注目点として、以下が挙げられる。

①提供価格:イタリア料理ダイニングレストランとしては安価であり、現在の中国市場で評価される。
②収益率:営業利益率は2023年から上昇しており、店舗数も増加を続けている。
③効率性:セントラルキッチン方式で、半製品や製品を店舗で供給する体制が整っている。

そのため店舗内の厨房比率が小さく、調理省力化とともに、多店舗の品質標準化とコスト安定化を図っている。

【表4:サイゼリヤ2024年8月期決算(抜粋)】

出所:サイゼリヤ 2024年8月期決算説明資料

中国ピザハットの新店舗展開

外食産業は、中国においても多店舗展開に伴い、セントラルキッチンの採用を自社グループまたは相手先ブランドによる調達(Original Equipment Manufacturing:OEM)でのサプライチェーンの構築に取り組んでいる。この点、ファストフードよりStock keeping Unit(SKU)数がダイニング型は多く、材料を提供して消費者が調理する火鍋、焼肉類以外は、多店舗での導入が進めにくい点があった。

ピザハットは1990年に中国進出を果たした。当時はピザチェーンよりも高級イタリア料理店のイメージで消費者に受け入れられ、その後、アニメなど知的財産(IP)とのコラボといったカジュアル化に取り組み、同業と一線を画してきた。店舗は2024年6月時点で3,504 店舗となり、これは前年同期と比べ432店舗増であった。

サイゼリヤの成功を受けてか、ピザハットは新業態の「ピザハットWOW」を2024年5月に開業。その後3カ月で100店舗を突破し、年内には200店舗を開店する計画だという。単品6 元(120円)からのメニュー構成で、都市部で一人の食事ニーズが増えていることから、単独、少人数での食事の場を提供している。安価で提供できるのは、同社が2023年に開業したセントラルキッチンとDX(デジタル技術による業務革新)化iKitchen システムの導入による。これにより、受発注ロス、在庫管理を行うことで安価の実現が可能となっている。

従来、店舗が主体である現状から、今後はピザハットWOWの拡大をどこまで進めるのかが注目される。背景として、2024年に入り、ピザハット自身も安価への取り組みを行っており、1Q(1-3月)の客単価は前年同期比-12%となった。一方、オーダー量は同+8%で、結果、単店売上は同-5%であった。規模の拡大には店舗展開と出店、原材料、人件費を含めたオペレーションコストの低減が必要となる。

ピザハットWOWは、ピザハットとは別業態としての店舗展開であり、かつサイゼリヤが最も多く出店している広州市において開業しているのは、すでにある程度の消費者層がいるからではないだろうか。ピザハットWOWとサイゼリヤの競合だけでなく、同地域での、そして他地域の外食事業への影響が注視される。

「貧乏」レストランの隆盛

2023年から低価格セットのメニューが多くのファストフード店より期間限定を含めて販売され、3元(60円)で食べ放題の朝食メニューなどが話題となった。また、社区(地域社会)と中国語でいう住宅区には、高齢者をターゲットとした政府系の低価格レストランが開業した。高齢者以外の利用者も増え、低価格への要求が定着化している。これらへの対応で「窮鬼」=「困窮、貧しい」メニュー、レストランの呼称が定着した。上述のピザハットも3,000店記念で「貧乏」メニューを提供した。また、開業12年でマクドナルドを超える7,000店舗を展開しているTastien Hamburgerも「貧乏」セットを用意し、中国を意識した商標戦略と現地化した独自ハンバーガーで、中国ブランドを支持する若年層を主体に拡大している。

地方へ拡大を図る外食産業

中国における外食企業は、大都市を中心に発展拡大し、地方での都市化、経済発展に伴い、個人事業から企業化が進んできた。中国では都市階級を経済規模、国際性などで6分類している(一線、新一線、二線、三線、四線、五線)。政府公式発表ではないが、政府、企業はこの分類を地方投資戦略に活用している。一線都市は上海市、北京市、広州市、深圳市の4 都市で、これに準じる新一線都市は天津市、成都市、重慶市など地方主要15都市、二線都市が30都市となる。なお、ティアで分けると下記となる。

・一線から二線都市人口は約5 億人で国内総生産(GDP)全体の約60%(2023年)
・三線都市以下の同上は約9 億人でGDP 全体の約40%(2023年)

この点で1人当たりの購買力は地域の差が大きく、三線・四線都市で外食消費の展開が遅れてきた一因といえる。しかし昨今、「下沈市場」と称されながらも、この市場開発が注目を浴びている。低価格路線から規模による収益拡大を考える大手外食産業も、積極的に三線・四線都市への展開を行っている。理由として下記が挙げられる。

①ポテンシャル:人口、収入、社会消費品小売

・人口:これまで人口は大都市への流出で減少傾向にあったが、コロナ禍によって流出が止まり、安定している。
・収入:2024年の全国可処分所得は5.4%上昇。一線・二線都市では4.75%上昇だったが、三線・四線都市は5.77%と上回っている。
・社会消費品小売:2023年時点で売上高の比率は、一線・二線都市:三線都市以下=38:62 であった。2024年上半期ベースでは、全体は前年比3.7%となるが、一線・二線都市で同1.98%、三線都市以下で同4.76%との分析がある(数値の出所は華創証券研究所)。
・SNS などで得た情報を実体験したい層にとっては、価格の低減もあり、手の届く範囲に近づいていると考える。

②観光業の拡大:経済環境もあり、非日常を体験できる国内地方への旅行消費が増えている。中国文化観光部によると、2024年上半期の国内旅行者は27億2500万人と前年比+14.3%で、総消費金額は約2兆7300億元(約57兆8700億円)で同+12.5%であり、これら人の移動が三線都市以下の地方における収入の拡大、外食消費につながるとみられる。

出店する側には、低コストでビジネス展開できるという魅力が挙げられる。一線都市に比べて不動産コストが安く、店舗を開業しやすい。実際、ラッキンコーヒーの出店地域は、2023年に三線・四線都市99%、五線都市は70%にまで広げている。

スターバックスも三線・四線都市への進出を進めようとしている。ただし、これまでの出店同様、商品の販売だけでなく、空間提供も行うとしており、ラッキンコーヒー及び迪咖啡(Cotti Coffee)など追随する同業との価格競争はしない方針としている。

さらに、外食産業は地方から海外へ進出するという取り組みも活発化しつつある。

消費者の選択は

消費者は、SNSなどを通じ、購買、消費判断をしていく。提供する企業は低価格に重点をおいているが、「理性的消費」態度の消費者は、より良い、また新しい製品、サービスを求めていく。コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどの量販店も「中食」販売を強化品目の1つとし始め、かつ電子商取引(EC)デリバリーへの対応も進めている。外食チェーン拡大には、半加工品、加工品製造及び商品開発の拠点を確保することが必要となり、量販店の動きとあわせ、加工食品メーカーとの取り組み、また資本系列の検討が必要となる。中国では半加工、加工食品といった中食を「預制菜」と呼び、この数年、関連産業が拡大している。

その一方で、世界消費者権利デーである3月15日に毎年、製品安全、消費者詐欺撲滅などを追求する国営中国中央テレビ(CCTV)の番組「315晩会」が放送される。2024年は預制菜のメーカーが法定処理要求を満たさない製造を行っていたことから、預制菜に対する安全性の疑問が起こり、消費にも影響がみられた。コスト管理とともに、「健康」と「安心」を求める中国消費者への対応を意識した経営が求められている。

まとめ

・中国政府はGDP目標を達成するため個人消費の拡大を促進している。
・中国外食産業の伸び、鈍化及び利益率低下の要因に低価格競争がある。
・外食産業は規模拡大とコスト低減に、加工品「預制菜」とDXへの取り組みの強化が必要である。
・大都市での競合激化とポテンシャルから、大手は三線都市以下での展開を進めている。
・より厳格化する消費者の「安全」「健康」「品質」「新商品」への要求と、対応スピードアップのため、外資との取り組みの機会が予想される。

「中国月報」2025年1月号(MUFG BK)寄稿記事を転載

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 中村 達

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