成功者は全体の4割。転職面接で年収アップを叶えるには? 交渉の専門家に聞いた攻略テク
転職は年収を上げる大きなチャンスです。一方で、転職活動で年収についてどこまで交渉していいのか、そもそも交渉すべきなのかは悩ましいところです。あまりお金の話をすると印象が良くなさそうだけど、まったくしないと企業の言い値になってしまうかも⋯⋯。そんなジレンマに陥る人も少なくありません。実際、マイナビ転職のアンケート調査でも、転職時の年収交渉について転職者の不安がうかがえる回答が寄せられています。
そこで今回はアンケートデータと専門家のアドバイスをもとに、転職時の年収交渉について、具体的な手法や気を付けるべき点を解説します。
監修者
田村 次朗
慶應義塾大学名誉教授(特任教授)、大学院大学至善館教授、弁護士。ダボス会議(世界経済フォーラム)の「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める等、最前線での国際交渉経験も有する。ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー、交渉学協会理事長、日本説得交渉学会会長なども務める。リーダーシップ基礎力の普及に向け、教育機関や企業における人材育成等、幅広く取り組んでいる。
年収アップを目指した転職活動でも、年収交渉できない人が「2割」もいる
転職を通じて、少なくない人が「年収アップ」を目指しているのではないでしょうか。マイナビ転職のアンケートによると、転職で年収アップを成功させた人は転職者全体の4割に過ぎません。
さらに、「年収アップに成功したものの、理想の年収には届かない」と回答した人は全体の約6割にも上ります。
理想の年収と現実の年収のギャップは全世代平均で100万円以上にも上っており、このことから「転職で年収が上がった人は多いものの、思ったほど増額できていない」という現実が見えてきます。
なぜ転職しても思うように年収が上がらないのでしょうか。理由の一つとして考えられるのが、転職時の年収交渉がうまくいっていない、またはできていないことです。アンケートによると、転職時に年収交渉を行った人は約半数に過ぎず、年収アップを目的として転職した人でも77.4%に留まることが分かっています。
つまり、年収アップを目指して転職活動をしたのに、年収交渉をできていない人が2割強もいるのです。
なぜ年収交渉をしないのか。アンケートでは「交渉することで印象が悪くなることを懸念した」「交渉すること自体に抵抗があった」などの理由が挙がりました。ほかに「交渉するタイミングがなかった」や「交渉の方法が分からなかった」といった回答も見られ、そもそも交渉という行為に慣れていない人が多いとも言えそうです。
たしかに、面接でお金の話をし過ぎると、良くない印象を面接官に与えてしまいそうなイメージもあります。でも、そのせいで年収が上がらなければ本末転倒ではないでしょうか。この点は、転職活動のジレンマと言えるでしょう。
年収交渉のタイミングは「面接の最後の最後」
年収交渉はやるべきなのでしょうか。交渉学の専門家である田村さんは「交渉はすべき。でも、その“ポイント”を事前に知っておくべき」と言います。
「年収交渉のポイントは二つあります。一つは面接の最後の最後にすること。もう一つは具体的な金額を相手(面接官/企業)に提示させることです。
そもそも交渉においてもっとも重要なのは、駆け引きでなく、交渉相手と信頼関係を構築することです。強い信頼関係が下地にあるからこそ、自分と相手の利益が最大化できるわけです。
お金の話を面接の最後に持ってくるのは、まずは面接官と信頼関係を築きたいからです。信頼関係を築くうえでは、相手に自分の価値を納得してもらわなければなりません。それができていない段階で数字を出しても、合意できる可能性は低いでしょう。それどころか、『お金の話しかしない』『できるだけ安い金額におさえよう』と思われてしまうリスクすらあります。
まずは自分がどんなスキルや経験を持っているのかをプレゼンテーションし、面接官を納得させることが、年収交渉の前準備として必要不可欠です。
そして、面接官と十分な信頼関係を築き、年収交渉ができる段階に入ったとしても具体的な金額は自分から言わないようにします。なぜなら、面接官が面接前にオファーの内容を固めているとは限らないからです。候補者の話を聞きながら『この人ならこれくらい出してもいいな……』と考えている可能性もあるでしょう。
どういうことか。例えば、あなたが『年収700万円を希望します』と伝えたとします。この時、もし面接官が『年収800万円までなら出せる』と考えていたらどうでしょう。『800万円まで出せますよ』と親切に案内してくれることはほぼなく、希望額の700万円で落ち着くでしょう。面接官に提示させていれば年収800万円になったかもしれないのに、そのチャンスをみすみす逃してしまっているわけです。
大前提として、企業は安く雇いたいし、転職者は高く雇われたい。だから、どちらが最初に数字を提示するかが重要になります。なぜなら、交渉においては、最初に提示された数字が基準となるからで、これを『アンカリング』と呼びます。
逆に、転職者側が高過ぎる金額を提示してしまうことも考えられます。その場合、面接官からの印象が悪くなり、やはり交渉がうまくいかない可能性が高まります。このように、転職者から希望年収を提示するのはデメリットが大きいので避けたほうがいいでしょう」
《画像:アンケートでは、年収交渉のタイミングを「一次面接」と答えた人が最も多かった》
面接準備で意識したい5つのステップ「SMART」
年収交渉のタイミングやスタイルを理解したところで、面接前に何を準備すべきでしょうか。参考にしたいのが、田村さんが提唱する交渉の事前準備のフレームワーク「SMART」です。
「まず基本となるのが『S(Situation)』、状況の把握です。状況とは面接を受ける会社の状況もそうですが、より重要なのは「自分自身の状況」。つまり『M(Mission)』です。自分はどんなミッションを持って仕事をしているか、何を目標に生きているか、中長期的なキャリアをどう描いているか。自分自身を的確に言語化することで、プレゼンテーションもスムーズになり、企業のミッションと自分のミッションを重ね合わせるなどしながら、信頼関係を構築していけるはずです。
『A(Alternative)』は代替案です。年収交渉が難航したら『ほかにこんな会社とも交渉し、良い返事をもらっています』と、業界で名の知れた他社の存在をちらつかせて交渉を有利に運ぶ手段です。ただ、これは基本的に最後の手段として考えるべきでしょう。複数の会社を天秤にかける行為は面接官にあまり良い印象を与えません。使う場合はあくまで、御社が絶対に第一志望であり、“たまたま”他社の面接にも受かってしまったことを強調すべきでしょう。
『R(Realistic Option)』は創造的選択肢で、要は自分の能力です。「どのポジションに配置すべきか」など、相手に具体的な選択肢を検討させるためには必要です。状況やミッションをアピールして相手の共感を得たら、今度は能力をアピールして相手に検討材料を与えます。
最後の『T(Target)』は合意可能幅です。年収をはじめとした具体的な条件で、交渉の余地が生まれるよう、幅をもたせておきます。ただ、ここまでの流れをしっかり踏めていれば、自ずと面接官から年収額が提示されるはずです。
A(他社の存在をちらつかせること)は最終手段に取っておき、基本はSとMとR(自身のスキルやミッション、中長期的なキャリアの展望)を少しずつ伝えながら、T(幅を持たせた希望年収)を提案するイメージで面接を進めてみましょう」
面接においても重要なのは「傾聴力」
もちろん、SMARTのステップが常にスムーズに進むとは限りません。だからこそ、面接全体を通して「傾聴力」が大切になる、と田村さんは強調します。
「外国だと自分の価値はこうだからこれくらいほしい、というようにドライな交渉もありえます。しかし、謙虚さを重んじる日本のカルチャーにはあまりフィットしないでしょう。できるだけ謙虚に『前の会社ではこんな経験を積ませていただきこんなスキルを身に付けました』と丁寧なコミュニケーションを心掛けましょう。
面接は何かを主張するだけの場ではありません。相手と自分のニーズをすり合わせ、信頼関係を築くための場です。そのためには時折質問を挟みながらでも、“主張”するのではなく、“傾聴”することが大事です。『返報性の原理』とも言いますが、人間は相手から何かを受け取ると『お返ししよう』という気持ちが働き、このやり取りを繰り返すことで信頼関係が強まります。これは問いと答えの関係にも当てはまりますよね。『私はこういう人物ですが、御社は今どんな方を求めていますか?』とカジュアルに聞いて、面接官との目線を合わせていく。すると面接官も、闇雲に主張するだけでなく自分たちのニーズとマッチするか確かめてくれているんだな、とあなたを高く評価するはずです。
ピンポイントに自分の強みを主張して、企業のニーズにぴったり当てはまることは稀です。自分の価値をさまざまな視点から整理したうえで面接に臨み、年収アップを勝ち取ってください」
まずは自分の価値を整理し、傾聴力を鍛える。その段階から企業との年収交渉は始まっているのです。
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( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )
取材・文:MEETS CAREER編集部・山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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