人形浄瑠璃とは? 日本美術にも描かれた江戸時代の流行を知る!
日本で古くから上演されてきた人形浄瑠璃。物語、人形の動き、そして語り手の声が一体となり、見る者の心を揺さぶる魅力的な芸能です。
Bunraku puppets at National Bunraku Theatre, Osaka, Japan
江戸時代には、その面白さが日本美術にも描かれるほどでした。そんな人形浄瑠璃の魅力を簡単にわかりやすく解説し、古典芸能の世界への入り口をご案内します。
そもそも浄瑠璃とは?
二月一日(初月)語物
人形浄瑠璃を学ぶにあたって、まずは基礎知識として浄瑠璃を知っておきましょう。
浄瑠璃(じょうるり)とは、語りと三味線の演奏による音楽のことです。物語を語る人を太夫(たゆう)といい、節をつけた独特な語りを三味線の音色にのせます。
その始まりは、牛若丸と浄瑠璃姫の恋物語を脚色した『十二段草子』だといわれています。『浄瑠璃御前物語』や『浄瑠璃姫物語』とも呼ばれ、絵本や絵巻として後世に残り、美術館に所蔵されている作品も豊富です。
参照:歌舞伎用語案内「浄瑠璃」
参照:五島美術館《十二段草子》、サントリー美術館《浄瑠璃物語絵巻》
江戸時代には庶民に広く流行し、娯楽として愛されました。当時の有名な人物には、NHK大河ドラマ「べらぼう」にも登場した富本豊志太夫(午之助)などがいます。同時期、浄瑠璃のいわゆる詞書の部分を記した正本や、練習用に節付をした稽古本などが出版され、江戸市中に流通しました。
人形浄瑠璃とは何か
Bunraku (puppet play) performance at Gion Corner
この浄瑠璃に、人形劇が加わったものが人形浄瑠璃です。三味線音楽の義太夫節(ぎだゆうぶし)に合わせて人形を操る総合芸術で、文楽(ぶんらく)とも呼ばれます。この太夫・三味線・人形遣いを三業(さんぎょう)と表します。
1体の人形を3人の人形遣いが操るのが基本です。3人で操作することで、人形の動きが写実的なものとなり、浄瑠璃と一体となって舞台上で高い芸術性を示します。また、人形に衣裳を着付けることを人形拵えといい、人形遣いが行います。
江戸時代に歌舞伎とともに大衆芸能として発展し、武士や庶民に広く親しまれました。悲劇や歴史上の物語、当時の庶民の生活を描いた世話物(せわもの)など、多彩なジャンルの演目があります。
2008年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されました。また、国の重要無形文化財としても大切にされています。
参照:文化遺産オンライン「人形浄瑠璃文楽」、文化デジタルライブラリー「人形浄瑠璃 文楽」
人形浄瑠璃の歴史
人形浄瑠璃の発祥の地には諸説ありますが、兵庫の西宮や淡路、京都、大阪など関西圏で上演されるようになったといわれています。
江戸時代初期に、『曽根崎心中』で有名な近松門左衛門や、現在の大阪市で活躍した竹本義太夫(たけもとぎだゆう)によって人気が上昇し、やがて元禄文化の代表的な芸能となりました。そして、大坂道頓堀で人形浄瑠璃の劇場「竹本座」が立ち上がったのです。
時代は下り、幕末に植村文楽軒(うえむらぶんらくけん)という人物が大阪で始めた一座が「文楽座」の名で中心的な存在となり、その後も継承され、今の人形浄瑠璃文楽として存在することとなります。人形浄瑠璃を文楽(ぶんらく)と呼ぶのは、これが理由です。
参照:文楽協会「文楽とは」
人形浄瑠璃と日本美術
江戸の文化であった人形浄瑠璃は、日本美術の中でもよく表現されました。例えば、浮世絵師の菱川師宣は浄瑠璃とともに舞う人の姿を描いています。
Brooklyn Museum - Performing a Joruri Dance - Hishikawa Moronobu
演者だけではなく、それを見に行く人の姿も描かれています。同じく江戸時代に活躍した鳥居清長は、3人の女性と2人の子どもが浄瑠璃の一流派である富本節を聞きに行く道中を浮世絵で表しました。
Tomimoto bushi
後の時代でも、20世紀初頭の日本画に女流義太夫が描かれるなど、人形浄瑠璃を画題として取り上げたものがあります。
娘義太夫
人形浄瑠璃を鑑賞するには
現代でも、大阪の国立文楽劇場などでは人形浄瑠璃の公演が定期的に行われており、日本の伝統芸能として大切に受け継がれています。未来の世代にも守り伝えていくために、キッズ向けの鑑賞プログラムや小学生向けの体験講座なども、子どもを対象にしたコンテンツも豊富です。
また、現代で活躍するアーティストとのコラボレーションもこれまでに行われました。2011年には現代美術作家の杉本博司が、近松門左衛門の人形浄瑠璃を元に構成・演出・舞台美術を手掛けた「杉本文楽 曾根崎心中」をKAAT神奈川芸術劇場で初演。2023年にはクリエイティブカンパニーのNAKEDが、文楽の魅力を解説するデジタルアート作品の演出・制作を手がけ、公演期間中に展示しました。
人形浄瑠璃を学んで日本美術をさらに楽しく
人形浄瑠璃は、物語、人形の繊細な動き、そして語り手の豊かな表現が融合した、日本の伝統的な舞台芸術です。江戸時代には庶民の間で爆発的な人気を博し、その様子は浮世絵などの日本美術にも描かれるほどでした。
三味線の伴奏に乗せて繰り広げられる人形たちのドラマは、現代においても観客の心を捉えて離しません。古典芸能への入門として、または日本美術の理解を深めるための教養として、その奥深い魅力を体験してみませんか。