NFTはアニメのビジネススキームを変える可能性がある - 「Azuki」アニメ3部作のクリエイティブプロデューサー・谷口悟朗さんインタビュー
NFTプロジェクト「Azuki」から生まれたアニメ『Enter The Garden』のエピソード2『Fractured Reflections -楕円曲線上のセカイ-』が、2025年2月28日、アニメプラットフォーム「Anime.com」で公開されました。
「Azuki」は、米ロサンゼルスを拠点とするスタートアップ企業「Chiru Labs」から生まれたプロジェクト。アニメは全3部作で構成され、2024年4月に公開されたアニメのエピソード1『The Waiting Man -待つ男-』はSNSで累計700万回以上の視聴回数を記録しました。今回は、アニメ3部作のクリエイティブプロデューサー・谷口悟朗さんにインタビュー。『ONE PIECE FILM RED』『コードギアス シリーズ』などを手がけた谷口さんが思うNFTプロジェクトの可能性とは。
【写真】谷口悟朗が感じたNFTプロジェクトの可能性と日本で作る最大の問題
NFTはビジネススキームを変える可能性がある
──最初にNFTプロジェクト「Azuki」について知ったときはどのように感じましたか? クリエイティブ面、ビジネス面それぞれで感じた可能性や感想についてお聞かせください。
クリエイティブプロデューサー・谷口悟朗さん(以下、谷口):プロジェクトについては、仕事の依頼があったときに知ったんです。NFTに関する知識も何もなかったときでしたが、今後のアニメ業界のビジネススキームを変える可能性があるということ、それによってファンとスタッフの距離を縮め、力があるスタッフに対して何らかの還元ができるかもしれないということを感じました。そうなれば、クリエイティブなところに関しても、より多くの人たちが参加できる未来を見ることができるだろうと。
現在、日本のアニメ業界でそういったものに自由に……というか身軽に関われるのは、大きな企業の縛りがない人です。そして、幸いなことに私もその一人です。今回の挑戦に関わらねば、アニメ業界がそういったものを学ぶ機会を失ったり、何年も遅れてしまう可能性がある。なら、笑われようと胡散臭く観られようと、まずは参加することから始まると考えました。
──「Azuki」をアニメ化するうえで、難しかった点を教えてください。
谷口:Azukiに関わってきた人たちはアニメの専門家ではありません。当然、そこには彼らの夢や希望と、制作現場での現実というズレが生じます。そこをどのようにバランスを取り埋めていくかが大きな課題でした。会議をしようにも時差や言葉の問題もありますしね。しかし、それらよりも大きな問題がありました。それは関わる人が多すぎる、ということです。
通常、原作物の場合は、原作者は多くて一人か二人、そこに版権管理をしている会社の思惑などが絡むのですが、そんな規模ではないわけです。しかも世界設定や各キャラの背景に関する考えも統一されていない場合が多かったですから。
──三本構成はそれぞれが独立したエピソードで展開されるとお聞きしました。3つの独立したエピソードで展開しようと思った理由を教えてください。
谷口:言葉は悪いですが、多くの関係者を抑えつけやすく、「Azuki」といったものが持つ可能性、そのストーリーとクリエイティビティの枠を最大限広げていくためには、これが良いと思いました。
一話は、Azukiの世界はこういうことだよね、という考えで作る。そのため、主人公をAzukiの公式設定にない新規のキャラクターにすることで視聴者が入りこみやすくすることを考えました。二話は、Azukiの公式キャラを使うことで世界ではなく、人物主体として表現してみる。三話は挑戦です。どこまで表現を広げられるか。何を守っておけばAzukiたりえるのかを探る、という方針です。
誤解しないように伝えると、Azukiは、わざと縛りを強くしていないんですね。多くの人が入ってきやすくするために。しかし、その緩さは映像としてまとめることには向きません。そこをどうするか。
例えば、Azukiのキャラクターは、横顔でしかデザインされていません。正面から見たらどうなるのか? 背面は? このレベルから各人の考えが違うわけです。そこを乗り越えるために三本構成というアイデアがでてきました。
日本で作る最大の問題があぶりだされたわけです
──2024年5月にエピソード1が公開された後、手ごたえなどは感じましたか? 公開後の反響をみての率直な感想を教えてください。
谷口:これが、国内では反響がなくて。しかし、それによって日本で作る最大の問題があぶりだされたわけです。NFTというものに日本人の関心が薄いせいなんですかね? 私、経済がらみで取材とか来るかな、と思っていたんですよ。ものの見事に何も来ない。海外からは聞かれるのに国内では完全にスルーされました。
あ、取材じゃないけど聞かれたことはありました! 実写の監督さんたちです。制作費の捻出に役立つのではないかと考えておられるようで、私の思惑と方向は一緒でしたね。国内企業などによる資金調達が難しいのなら、海外や個人レベルでの資金調達につなげて作品を作っていけないか、ということです。
本当は初期からアニメ誌などに協力してほしかったんですが、そちらは業界全体のための総合雑誌的な側面は失われてしまい、一部の人向けの娯楽雑誌として特化しつつありますから、本作のような作品は扱っていられない。まぁ、それはこちらの告知に関する努力不足ということもあるので、誰が悪いということではなく、情報に対して発信ではなく待ちの姿勢の人たちが多くなってしまったな、ということになっていってしまうんですけどね。
──海外の方にも受け入れられるような作品にするために意識した点はありましたか? エピソード1で海外の方からの反響を受けて気づいたことなどがあれば併せて教えていただければと思います。
谷口:海外の方にも、ということはありません。プロジェクトに対して向き合ったら、まず海外の人が分かるようにしないといけないということは外せないよね、ということです。具体的には、日本だけで通じる表現はやめよう、ということになりますね。日本語を使った遊びや、漫画的な表現などは日本の文化に慣れ親しんでいる人じゃないとわからないですから。
一話目は、山元(隼一)監督を中心とするスタッフのみなさんに、Azukiといったものの共通記号やイメージをできるだけ救い上げてもらっています。もし、これが根本的に違っていたら、その瞬間に私は降ろされていたはずですから、まあよかったんじゃないでしょうか。
──エピソード2はどのようなストーリーになりますか? また、制作するうえでこだわった点を教えてください。
谷口:シャオとライザン、という姉妹の話になりますAzukiプロジェクトの中でもこだわりがあるキャラクターたちなので、そこのすり合わせが必要でした。映像としては高津(幸央)監督が色による表現にこだわる人なので、一話とはまた違ったテイストになっていて楽しめると思います。声優のキャスティングの考えも一話とは変えていますしね。
──Azukiプロジェクトは今後、どのように展開していくと思いますか?
谷口:プロジェクトが目指す方向性は私が決めることではないのでわかりません。ただ、もし発展の道を選ばれるのなら、そしてそこに映像的な物が必要なら、呼ばれ続けるように努力したいと思います。
構成:M.TOKU
Enter The Garden エピソード1「The Waiting Man -待つ男-」
キャスト
TK:杉田智和
福山ハルジュン:鬼頭明里
Enter The Garden エピソード2「Fractured Reflections - 楕円曲線上のセカイ-」
あらすじ
高層ビル群と街の屋台が雑多に共存する賑やかな世界、アレー。
アレーの喧騒と混沌の中で生きるシャオとライザンは、姉妹2人支え合って暮らしていた。
しかしある日姉のライザンが姿を消してしまう。
シャオは残された姉の刀を手にライザンを探し続けるが、足取りが掴めないまま数年が経とうとしていた。姉を探してアレーの街を当所なく彷徨うシャオは、謎の鳥居へと辿り着く。
――それはガーデンという未知の世界への入り口だった…。
キャスト
シャオ:園崎未恵
ライザン:本田貴子
『Azuki』公式サイト
『Azuki』公式X(Twitter)