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JR函館線「函館~長万部間」どうなる? 北海道新幹線の札幌延伸開業時も貨物鉄道の機能を維持 国と道の有識者検討会議「中間とりまとめ」【コラム】

鉄道チャンネル

北の大地を走るコンテナ列車。JR貨物の北海道内の主力機関車は「レッドベア」ことDF200形です(写真:PIXTA)

北海道新幹線で建設中の新函館北斗~札幌間(約212キロ)は、当初2030年度末としていた開業時期の遅れや事業費(建設工事費)高騰といった課題が明らかになっていますが、もう一つ考えなければならないのが並行在来線の問題です。

新幹線の札幌延伸開業時、JR北海道から経営分離されるJR函館線の通称山線区間(※)、長万部~小樽(140.2キロ)は本サイトで紹介の通り、北海道と沿線市町が2022年3月末、バス転換する方針を確認しています。

【参考】
JR函館線の山線(長万部―小樽間)バス転換へ 新幹線の札幌延伸開業で並行在来線の三セク鉄道転換ならず【コラム】
https://tetsudo-ch.com/12335453.html

そして今回、取り上げるのは長万部以南の海線。新幹線開業後の函館~長万部(112.3キロ)の貨物列車運行について検討していた、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」は2025年9月3日、「新幹線の開業時点では海線を存続させて鉄道貨物輸送を維持する(大意)」の方針を中間とりまとめの形で公表しました。

「新幹線の札幌延伸時、JR北海道から経営分離される海線をバス転換して、鉄道貨物を海上輸送などに全面シフトする」の見方も一部あった中、検討会議は高品質な物流機能や地球環境にやさしいカーボンニュートラル、輸送コスト適正化といった観点で、鉄道輸送の必要性を認めました。

※本稿では有識者検討会議の報告書にならい、「海線」をJR函館線の函館~長万部間、「山線」を同長万部~小樽間を意味する呼称として使用します。

北の大地のポテチが食べられない!?

北海道発の鉄道貨物輸送の実際……。本コラムのためネット検索していたら、こんなニュースがヒットしました。

「JR貨物は2025年9月12日から、北海道産ジャガイモを本州方面に輸送する毎秋恒例の『ジャガイモ列車』の運転を始めた。運転区間は帯広貨物~熊谷貨物ターミナル(JR高崎線)。10月9日までの期間中、5トンコンテナ2700個の輸送を予定する(大意)」

北海道新幹線の札幌延伸時、もしも函館~長万部の海線が廃止されれば、鉄道で運ばれるジャガイモでつくるポテトチップやポテサラが、東京や大阪では食べられなくなるかも。鉄道維持が決まって一安心なのは、鉄道ファンよりグルメ党かもしれません!?

山線はバス転換、では海線は?

まずは基本をおさらい。整備新幹線の開業時、並行在来線がJRから経営分離されるのは法令で定められた既定路線です。北海道新幹線新函館北斗~札幌の場合、JR函館線函館~小樽です(利用の多い小樽~札幌はJR北海道が引き続き運行します)。

北海道新幹線と並行在来線の関係。新幹線が開業済みの木古内~五稜郭は道南いさりび鉄道に移管されましたが、函館線の海線区間は未定です(資料:国交省)

函館~小樽のうち山線の長万部~小樽は2022年3月、北海道(庁)と沿線市町で構成する北海道新幹線並行在来線対策協議会が、「バス転換もやむを得ない」の方針を確認しています。

残る長万部以南の取り扱いに関しては国交省と北海道が2023年11月、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会」(座長・二村真理子東京女子大学現代教養学部教授)を設置。JR北海道、JR貨物のほか、北海道経済連合会、ホクレン農業協同組合連合会などをメンバーに、道内経済界や荷主企業にヒアリングして、鉄道として存続させる必要性を検討してきました。

JR函館線で山線と海線の最大の違い、あらためて申し上げるまでもなく、山線は旅客列車だけ、海線は旅客と貨物列車が走ります。

情報連絡会のネーミングが「鉄道物流」なのは、海線が北海道と本州を結ぶ貨物列車の運行ルートというのが理由です。仮に海線が山線のようにバス転換されれば、帯広貨物発熊谷貨物ターミナル行き「ジャガイモ列車」は運転できなくなります。

(海線区間の旅客列車の取り扱いは今後検討します。貨物オンリーの並行在来線は前例がありません)

鉄道貨物は長距離輸送で真価

情報連絡会の資料から、北海道の物流界でのJR貨物の存在価値を考えます。札幌発稚内行きのような道内貨物、輸送機関別シェアは、トラック97.1%、海運2.8%で、鉄道はわずか0.1%。道内貨物に関する限り、鉄道の存在価値はほぼありません。

ところが道外貨物をみれば、鉄道のシェアは7.9%に跳ね上がります(海運91.9%。残りは航空貨物です)。とにかく、トラックでは津軽海峡は渡れません。

北海道~道外と道内相互の貨物輸送機関別シェア。道外輸送を鉄道、海運の2系統化してリスク分散する荷主企業や物流事業者も数多く存在します(資料:北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議)

北海道~道外相互間の貨物輸送量は年間4900万トン(2021年度)。JR貨物は約390万トンを受け持ちます。最初に紹介したジャガイモ列車のほか、宅配便や食料品、雑誌、引っ越し荷物などの多くは鉄道で運ばれます。大量輸送や定時性に優れた鉄道貨物は、「札幌貨物ターミナル発東京貨物ターミナル行き」のような長距離輸送で真価を発揮します。

北海道総貨物輸送量の推移。理由は不明ですが2021年度に輸送量が大きく減少しています。道内総人口が減少の一途をたどるのも気になるところです(資料:北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議)

「海運一択は不安」

情報連絡会で意見を述べた荷主や経済界も、「北海道に鉄道輸送がなくなったら困る」の見解で一致しました。

以下は連絡会ホームページで公表された主なヒアリング結果。

日本通運は、「いわゆる2024年問題でトラックドライバー確保が難しくなっており、鉄道輸送の必要性が増している。北海道発貨物は、ジャガイモ列車に代表されるように季節波動が大きく、船舶輸送で十分に対応できるか不安(大意)」と鉄道輸送の必要性を訴えました。

道内農協などで構成するホクレンは、「道内の農産物生産者は、本州方面への遠距離輸送で鉄道を利用する。仮に輸送手段が海運一択になれば、万一の事態に出荷できない可能性がある。貨物運賃の面でも複数輸送手段が望ましい(同)」の見解を示しました。

こうしたヒアリング結果や委員間議論の結果、情報連絡会は「新幹線の札幌開業時点では海線維持による貨物鉄道の機能確保が必要」と結論付けました。

これにて一件落着にはあらず

ただ、「鉄道存続が決まってめでたしめでたしではない」のを、本サイトをご覧の多くの皆さまはご存じでしょう。
例えば北陸新幹線、しなの鉄道(長野県)、えちごトキめき鉄道(新潟県)、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道、ハピラインふくいと県別に並行在来線が三セク化されましたが、各県ともに目立った鉄道存廃の議論は起きませんでした。

連絡会の議論は、北海道の鉄道を取り巻く経営環境の厳しさを物語ります。中間とりまとめは、鉄道施設の保有主体や年間数十億円と目される維持管理費を誰が負担するかといった課題を指摘。国や道に、検討作業の一層の深度化を促しています。

記事:上里夏生

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