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散らかった部屋は「一生懸命生きた証」 子育て中の親へ届けたい家事代行の「真実」

コクリコ

散らかった部屋は「一生懸命生きた証」 子育て中の親へ届けたい家事代行の「真実」

本屋大賞で2025年の大賞を受賞した小説『カフネ』。作者の阿部暁子さんが、作中に登場する家事代行サービスのプロを訪問! 株式会社ベアーズの現場スタッフとともに、『カフネ』の創作秘話や、家事代行スタッフのリアルな気持ちを語り合います。

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全国の書店員が「いちばん!売りたい」本を選ぶ本屋大賞で、2025年の大賞を受賞した小説『カフネ』。突然死した男性の「姉」と「元恋人」が、家事代行サービスのスタッフとなり、出会う人々の心を救う物語です。

作者の阿部暁子さんが、家事代行サービスのパイオニア、株式会社ベアーズを訪問! 広報室長の服部さん、現場スタッフの丸子さん、阿久津さんとの座談会がおこなわれました。『カフネ』の創作秘話や、家事代行スタッフのリアルな気持ちを、熱く語り合います。

家事代行の「真髄」が描かれている『カフネ』

株式会社ベアーズ広報室長の服部祥子さん。感想のお手紙を送るほど、阿部暁子さんの描いた『カフネ』に感動したという。

服部:このたびは弊社までお越しいただき、ありがとうございます。じつは私、『カフネ』を読んでから5時間ぐらい涙がとまらなくなってしまいまして……。

阿部:恐縮です! ありがとうございます。

服部:『カフネ』は突然死した男性の「姉」の薫子と、「元恋人」のせつなが、家事代行サービスのパートナーとなってさまざまなお客様のもとを訪ねます。家事代行を通してお客様を癒やす姿、またふたりが少しずつ心を通わせていく姿に胸を打たれました。

丸子:私も『カフネ』を読んで泣きました。サバサバした性格のせつなさんが大好きです。作中では家事代行の仕事が、とってもリアルに描かれていますよね。

阿部:わあ、嬉しい。心からホッとしております。『カフネ』を書いていたのはちょうどコロナ禍で、思うように取材ができない時期でした。本当だったら家事代行をしている方から生の声を聞きたかったのですが、やむを得ず調べただけで書いてしまったところもあります。

服部:それはびっくりです! この物語には家事代行の真髄が描かれていると感じていたので。阿部さんは、どうしてこのお話を書こうと思ったのですか。

阿部:当初『カフネ』は、薫子とせつなが古いワゴン車にフライパンと包丁を積んで旅をするような、もう少し明るい内容にしようと思っていました。ですがコロナ禍が起きて、生きることの大変さをしみじみ感じる日々が続いたんです。

阿久津:新型コロナウイルスが蔓延していた時期は、不要不急の外出も禁止されてましたし、この先どうなるのか誰もわかりませんでしたよね。

阿部:そうでしたよね。もしこのままコロナ禍が続いて、書店さんが閉まってしまい、小説が売れなくなったら、私の生活はどうなるんだろうと思いました。自分のなかに「ちゃんと食べていけるのか」という根源的な不安があると感じたんです。生きていくことの価値を見つめ直す話を書きたい。そう思って、『カフネ』の内容を大きく方向転換すると決めました。

パフェ、おにぎり、唐揚げ…人と人をつなぐ「食」

家事代行サービスで、料理や掃除のお仕事を担当している阿久津美和子さん。

阿久津:小学生と幼稚園児の娘がおりますが、下の子の保護者会で『カフネ』をすすめられたんです。その先生は『カフネ』を読んだことをきっかけに、ご主人と一緒に食べるスイーツの時間を大切にされているとおっしゃっていました。

阿部:保護者会で……! ありがたい限りです。

阿久津:私が『カフネ』で印象に残ったのは、薫子さんがパックを落としてぐちゃぐちゃにしちゃったケーキを、せつなさんがあっという間にパフェにつくり変えちゃったところです。精神的にボロボロだった薫子が、甘いパフェを食べて「体中の細胞が息を吹き返したような感覚」になる。私も料理をつくる仕事をしているので、読んでいて胸が熱くなりました。

服部:あのシーンは、私もグッときました。『カフネ』には、魅力的な料理がたくさん出てきますよね。

丸子:そうそう、私もどんな味か気になって、せつなさんが得意な卵味噌のおにぎりをつくってみましたよ。食べてみたら、せつなさんの「おにぎりは人生の戦闘力になる」って言葉がわかるような気がしました。『カフネ』には大変な生活を送る人がたくさん登場しますが、せつなさんはこの味でお客様の心を救ってきたんだろうなと思いました。

阿部:ありがとうございます。卵味噌は、物語のキーになる料理です。身近な食材だけでつくれて、やさしい味のするものを選びました。おふたりは、仕事をしていてどんな瞬間に喜びを感じますか。

阿久津:とっても嬉しかったのは、唐揚げをつくって差し上げたときに「おいしいからみんな配ったら、すぐになくなっちゃった!」と言われたとき。次に伺ったときも唐揚げをリクエストしていただいて、この仕事をしていてよかったと感じました。

阿部:それは、たまらない褒め言葉ですね。

阿久津:ほかにも、家事をねぎらってハンドクリームを塗ってくださったり、成長したお子様の様子を見守ることができたり。お客様と心が通う瞬間があると、自分の居場所ができている感じがして嬉しいです。

阿部:きっと阿久津さんのお仕事ぶりが、お客様の心を動かすのでしょうね。丸子さんはいかがですか。

「あなたが嬉しいと私も嬉しい」が家事代行の基盤

株式会社ベアーズで働いて7年の丸子美奈子さん。主に料理を担当する。

丸子:以前、食卓のないお家に通っていたことがあります。リビングに小さな机がふたつと、キッチンに椅子がひとつあるだけ。そのご家族は、バラバラに食事をしていたんです。小学生のお子さんがとってもやんちゃで、親御さんがいないところで私によくいたずらをしてきて、困っていました。

阿部:それは仕事がしづらいですね。どうなさったんですか。

丸子:考えに考えて、自分の子どものように接しようと決めました。「今日早かったね」「寒くなかった?」と、何気ない言葉をかけ続けたんです。そのうち、お子さんが少しずつ私に心を開いてくれるようになって、自然と親御さんともコミュニケーションがとれるようになりました。ある日、そのご家庭に伺うと、リビングにちゃぶ台が置かれていました。なんと、家族が一緒に食事をするようになったんです。

阿部:なんて素敵なお話なんでしょう! そのまま小説になりそうです。

丸子:しばらくして、そのご家族は海外に引っ越してしまったけど、後日会社宛てに「家事代行していただいたおかげで、家族がまとまりました」というメッセージをいただきました。

談笑する作家の阿部暁子さん(一番左)と、株式会社ベアーズの方々。座談会は終始温かな雰囲気でおこなわれた。

阿部:ありがとうございます。『カフネ』を書いていて悩んでいたこととも通ずるお話でした。お客様でも身近な人でも、相手の領域に踏み込まないことって大事だと思うのですが、一方で踏み込まないと手遅れになってしまうこともありますよね。いまのお話を聞いて、丸子さんのちょうどいい量の愛情が、お客様の心を動かしたのだと思いました。

服部:家事代行のスタッフがご家庭にお伺いするうちに、家族に近い関係になることがあります。逆に他人だからこそ見せられる部分があったり、話したりできることもあるようです。

阿部:なるほど。長いこと家事代行の仕事をしているせつなも、きっと根底に「あなたが嬉しいと私も嬉しい」気持ちがあるのだと思います。どうしてこの仕事をしているのか正面から聞いたら、スンとした顔で「お金のためだけど」と言いそうですけれど(笑)。

阿久津:せつなさんの気持ちに共感します! お客様の自由な時間が増えることが、私の誇りなんです。育児、仕事、プライベートでも、やりたいことを優先してほしい。お宅が散らかっているのは、お客様が一生懸命生きた証です。

服部:家事は自分でやるべきものと考えている方は、まだまだいらっしゃると思いますが、決して抱える必要はありません。『カフネ』にも描かれているとおり、家事は「希望」です。何をする気力がないときでも、部屋が綺麗になったり、おいしい食事が出てくるだけで、生きる元気が湧いてくる。ぜひ気軽な気持ちで家事代行サービスに頼ってほしいと思います。

阿部:最後にお伺いしたいのですが、家事代行を呼ぶ際に、トイレに本が積み上がっていても大丈夫でしょうか……(笑)。

阿久津:もちろんです! 私は「本当に本がお好きな方なんだな」と思って、お客様への愛着になります。

阿部:心強いお言葉、ありがとうございます。『カフネ』のスピンオフを書いているのですが、今日のお話で物語の解像度がぐっと上がりました。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

服部丸子阿久津:こちらこそ、ありがとうございました!

撮影/日下部真紀(講談社写真映像部)

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