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高齢者がものを飲み込みにくくなるのはなぜ?原因と対策方法を知ろう

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

高齢者が食べ物や飲み物を「飲み込みにくい」という症状は、加齢に伴い多くの方が経験する問題です。

特に介護が必要な高齢者では、この症状がしばしば深刻な健康問題につながることがあります。

高齢者がものを飲み込みにくい原因

まずは、なぜ高齢者がものを飲み込みにくくなるのか、その原因について理解を深めましょう。

飲み込みにくい高齢者にみられる主な原因

高齢者がものを飲み込みにくくなる主要な原因は、大きく分けて4つに分類できます。

1つ目は加齢による生理的変化です。年齢を重ねると、喉(咽頭)や食道の筋肉が衰え、食べ物や飲み物を食道へと送り込む力が弱くなります。また、唾液の分泌量も減少するため、食べ物を湿らせて飲み込みやすくする機能も低下します。

2つ目は神経疾患によるものです。脳卒中(脳梗塞・脳出血)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの疾患は、飲み込みにかかわる神経機能に影響を与え、嚥下(えんげ)障害を引き起こすことがあります。特に脳卒中は、発症直後から飲み込み機能に障害が生じることが多く、注意が必要です。

3つ目は口腔内の問題です。歯の喪失や不適合な入れ歯、口腔内の乾燥(ドライマウス)、口内炎などがあると、食べ物を適切に噛み砕いたり唾液と混ぜたりする準備段階から問題が生じます。これにより、喉へ送り込む過程がスムーズに行えなくなります。

4つ目は認知機能の低下です。認知症などにより、食べ物を認識する能力や、食べ物を口に入れた後に意識して飲み込む動作の判断力が低下することがあります。このため、口の中に食べ物をためこんでしまったり、逆に十分に噛まずに飲み込もうとしたりすることで、嚥下障害のリスクが高まります。

これらの原因が単独で、あるいは複合的に作用することで、高齢者は「飲み込みにくい」という症状に悩まされるようになります。


飲み込みにくいときの症状と注意すべきポイント

高齢者が飲み込みづらさを訴えるとき、周囲の家族や介護者が気づく症状にはいくつかの特徴があります。これらの症状に早期に気づくことが、重篤な合併症を防ぐ鍵となります。

まず注意すべき症状として、食事中や食後のむせこみがあります。水分を飲んだときや、汁物を摂取したときに特にむせやすい傾向があります。これは液体が気管に入りやすいためで、嚥下機能の低下を示す重要なサインです。

次に、食事に時間がかかるようになる点が挙げられます。これは口の中での食べ物の処理や、飲み込む動作自体に時間がかかっていることを示しています。

また、食事中や食後の咳も重要な症状です。特に、食事から時間が経ってから咳が出る「遅発性誤嚥」は見逃されやすいため注意が必要です。食後30分以上経ってから突然咳き込むような場合は、一度喉の状態を確認すべきでしょう。

他にも、以下のような症状も嚥下障害の可能性を示唆しています。

口の中に食べ物を長時間ためている
食欲の低下
食べ物の好みが変わる

それだけはなく、入れ歯があっていない場合も咀嚼がしづらいことがあるため、食べにくそうな様子がみられた場合は歯科医やかかりつけ医などに相談しましょう。

これらの症状がみられる場合は、単なる老化現象として見過ごさず、医療機関での専門的な評価を受けることが重要です。嚥下障害は適切な対応により改善する可能性があるため、早期発見・早期対応が大切です。

誤嚥性肺炎のリスクと予防

高齢者の嚥下機能低下が特に懸念されるのは、誤嚥性肺炎のリスクが高まるからです。誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入り(誤嚥)、そこに含まれる細菌が肺で増殖することで発症します。

日本では高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎であるとされ、死亡原因の上位に位置する重大な疾患です。

厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の日本人の死因の第5位が肺炎であり、特に高齢者の肺炎の原因として多くあげられるのが誤嚥性肺炎です。

特に90歳以上の超高齢者では、誤嚥性肺炎のリスクがさらに高まります。

誤嚥性肺炎の主な症状には、以下のようなものがあります。

38℃以上の発熱
咳や痰の増加
呼吸困難
意識レベルの低下

これらの症状がみられる場合、特に食事との関連が疑われる場合は、早急に医療機関を受診しましょう。

ただし、中には肺炎になっても発熱しない無熱性の肺炎が起こる場合もあるため、発熱だけでは判断が難しいことがあります。血中酸素濃度から肺が機能していないことなどを把握したり、レントゲンで肺炎が確認できる場合も多いため、少しでも異変を感じた場合や、判断に迷う場合は早めに医療機関に相談しましょう。

食事介助のコツと適切な食事形態

ここでは、介護者が知っておくべき食事介助のコツと食事形態について解説します。

安全な食事姿勢と介助テクニック

嚥下機能が低下した高齢者の食事介助において、まず最も重要なのが正しい姿勢です。適切な姿勢は誤嚥のリスクを大幅に減少させることができます。基本的な食事姿勢としては、背筋をまっすぐに伸ばし、あごを少し引いた状態で座ることが理想的です。具体的には以下のポイントに注意しましょう。

背もたれのある椅子に深く腰掛け、背中と腰をしっかり背もたれにつける
両足は床にしっかりとつけ、膝は90度に曲げる
上体はやや前傾姿勢(約30度)にする

ベッド上での食事介助が必要な場合は、以下の点に注意します。

ベッドの背を60~90度程度に上げる
枕を使って頭部が後ろに倒れないようにサポートする
必要に応じて、両脇や背中にクッションを入れて姿勢を保持する

次に、実際の食事介助の技術について説明します。まず、食事の前に口腔ケアを行い、口の中を清潔にしておくことが大切です。これにより、唾液の分泌が促進され、食べ物が飲み込みやすくなります。食事介助の際は、介護者は高齢者の斜め前または横に座り、目線を合わせるようにします。

スプーンで食べ物を口に入れる際は、以下のポイントを意識します。

スプーンは下から口に入れ、上唇に軽く当てる
一口量は小さめにし、高齢者のペースに合わせる
飲み込みを確認してから次の一口を提供する

起き上がりが困難な高齢者に、吸い飲みなどで水分補給をした際に誤嚥し、口腔内にたまった雑菌などが肺に入り肺炎を起こすことなどもよく起こるため固形物以外にも注意が必要です。

また、食事中の会話は最小限にとどめ、高齢者が集中して食事ができる環境を整えることも重要です。会話しながらの食事は誤嚥のリスクを高めるため注意が必要です。

もし食事中にむせるようであれば、すぐに食事を中止し、上体を起こして軽く背中をさすります。無理に食べ物を飲み込ませようとすると、誤嚥のリスクが高まるため、一度落ち着いてから再開するようにしましょう。

飲み込みにくい症状に適した食事形態と調理のポイント

嚥下機能が低下した高齢者には、その程度に合わせた食事形態を提供することが重要です。

ここでは一般家庭でも参考になる主な食事形態について解説します。

ソフト食(やわらか食) 通常の食事よりも柔らかく調理し、噛む力が弱くなった方向けに提供される食事です。 ミキサー食 食材をミキサーにかけてなめらかにした食事です。噛む機能がほとんどない方や、舌の動きが制限されている方に適しています。 ゼリー食 ゼラチンや寒天、増粘多糖類などを使用してゼリー状にした食事です。嚥下機能が著しく低下している方に適しています。

加えて、飲み込みにくい食材にも注意が必要です。例えばカステラやパン、餅、こんにゃくなど、飲み込みでのトラブルが起こりがちなものは避けるようにしましょう。自分で食事を準備することに心配がある場合は、市販の嚥下調整食品やとろみ調整食品を活用することも一つの方法です。

介護食の市販品を利用したい方は「介護食が売っている場所は?3つの購入方法と使い分けのコツを解説で、種類別の特徴や購入方法などを詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

認知症がある高齢者への食事介助のポイント

認知症を伴う高齢者の食事介助では、嚥下機能の低下に加えて認知機能の問題にも配慮する必要があります。認知症の症状によっては、食事そのものを認識できない、食べ方を忘れてしまう、集中力が続かないなどの問題が生じることがあります。

まず大切なのは、落ち着いた環境での食事提供です。テレビやラジオなどの音を消し、余計な刺激を減らした環境で食事に集中できるようにしましょう。テーブル上も必要なもの以外は片付け、視覚的な混乱を避けることが重要です。

認知症の方は「いつ」「どこで」「何を」食べるのかを理解するのが難しいことがあります。そのため、毎日同じ時間に同じ場所で食事をとるなど、生活リズムを整えることが有効です。

また、認知症の方は、しばしば食事中に立ち上がったり、食べることを拒否したりすることがあります。このような場合は、無理強いせず、一度中断して落ち着いてから再開するようにしましょう。認知症の方は自分の体調や症状を適切に伝えられないことが多いため、食事中の様子や表情の変化を注意深く観察することが大切です。

むせる、咳き込む、顔色が変わるなどの兆候があれば、すぐに食事を中断し、状態を確認しましょう。

自宅でできる対策と困った時の相談先

嚥下機能の低下は、専門家による治療やリハビリテーションが重要ですが、日常生活の中でご家族が実践できる対策も多くあります。ここでは、自宅で簡単にできる対策や、緊急時の対応、専門家への相談方法について解説します。

自宅でできる嚥下体操と口腔ケア

嚥下機能を維持・改善するためには、日常的な訓練が効果的です。特に、食事の前に行う「嚥下体操」は、嚥下にかかわる筋肉を活性化させ、安全な食事につながります。

以下に、自宅で簡単にできる嚥下体操をいくつか紹介します。

口の体操

口の周りの筋肉を鍛えることで、食べ物を取り込み、送り込む力が向上します。

口を「あ、い、う、え、お」と大きく動かして発声する
頬を膨らませたり、すぼめたりを繰り返す
舌を出して上下左右に動かす
舌で口の中の頬を内側から押す
喉の体操

喉の筋肉を鍛えることで、飲み込む力が強くなります。

息を吸い込んだ状態で、「ん」と発声しながら5秒間保持する
大きく「パ・タ・カ・ラ」と発声する(各音をはっきりと区切って)

これらの体操は、1日2回(朝食前と夕食前)に各5〜10回程度行うと効果的です。痛みを感じない範囲で行い、無理をしないようにしましょう。次に、口腔ケアの重要性と方法について解説します。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に非常に効果的です。

基本的な口腔ケアの手順 やわらかい歯ブラシ、歯磨き粉、コップに水、ガーゼ、口腔ケア用ウェットティッシュを用意します。
普通の歯ブラシで優しく歯を磨きます。
舌ブラシややわらかい歯ブラシで、舌の表面を奥から手前に向かって優しく拭います。
ガーゼを指に巻き、水で湿らせて頬の内側や歯茎を優しく拭います。

口腔ケアは1日2〜3回(朝・昼・晩の食後)に行うのが理想的です。特に就寝前のケアは重要で、夜間の唾液減少による細菌増殖を防ぎます。

また、口腔内の乾燥は嚥下困難や細菌増殖を促進するため、適切な水分補給と保湿も重要です。これらの嚥下体操と口腔ケアを日常的に行うことで、嚥下機能の維持・改善と誤嚥性肺炎の予防につながります。ただし、明らかな嚥下障害がある場合は、自己判断だけで対処せず、専門医や言語聴覚士などの専門家に相談することが重要です。

喉に詰まってしまった場合の緊急対応方法

食事中に食べ物が喉に詰まってしまった場合、素早い対応が必要です。ここでは、緊急時の対応方法について解説します。ただし、これらは応急処置であり、状況が改善しない・判断に迷う場合は迷わず救急車(119番)を呼んでください。食べ物が喉に詰まった場合、その状態は大きく2つに分けられます。

1. 部分的な詰まり(呼吸や発声が可能な場合)

この場合、高齢者自身が咳をして異物を排出できる可能性があります。

落ち着かせ、自力で咳をするよう促す
背中を手のひらで数回叩く(バックブロー法)
水を少し飲ませて流し込むのではなく、本人の咳払いを促す
2. 完全な詰まり(呼吸困難、顔色が青紫色になる場合)

この状態は非常に危険で、緊急の対応が必要です。

すぐに119番通報する
意識がある場合は、ハイムリック法(腹部突き上げ法)を実施する
ハイムリック法の手順 高齢者の背後に立ち、両腕を腰のあたりで回す
一方の手でこぶしを作り、親指側を高齢者のみぞおち(おへその少し上)に当てる
もう一方の手でこぶしを握り、すばやく内側上方へ圧迫する
この動作を異物が出るか、救急隊が到着するまで繰り返す

ただし、高齢者は骨が脆くなっていることが多いため、過度の力で行うと肋骨骨折などの二次的な傷害を引き起こす可能性があります。

可能な限り適切な力加減で行うよう注意しましょう。

また、高齢者が意識を失った場合は、以下の手順で対応します。

気道確保を行う
119番通報し、AED(自動体外式除細動器)があれば準備する
呼吸がなければ、心肺蘇生法(胸骨圧迫と人工呼吸)を開始する
AEDが到着したら、音声ガイダンスに従って使用する
救急隊が到着するまで続ける

これらの緊急対応は、事前に講習などで正しい方法を学んでおくことが重要です。

また、日常生活においては以下の予防策を徹底することも大切です。

食事中は必ず見守りを行う
食事中の会話を控え、食事に集中できる環境を整える
急かさず、焦らせないようにする

これらの予防策と緊急対応の知識を身につけておくことで、万が一の事態にも適切に対処できるようになります。

日頃から家族間で確認し合い、いざというときに慌てないよう準備しておきましょう。

食事介助に困った時の相談先

高齢者の嚥下障害や食事介助に関して困ったことがあれば、さまざまな専門家や機関に相談することができます。適切な相談先を知っておくことで、早期に適切な支援を受けることができます。

1. かかりつけ医・歯科医

嚥下障害の症状が見られたら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。必要に応じて、専門医を紹介してもらえます。特に、摂食嚥下リハビリテーションに詳しい歯科医師がいる歯科医院では、専門的なアドバイスを受けられます。

2. 言語聴覚士(ST)

言語聴覚士は、嚥下障害の評価や訓練を専門とする医療専門職です。嚥下機能の詳細な評価を行い、個別の訓練プログラムを提案してくれます。病院のリハビリテーション科や、訪問リハビリテーションサービスを通じて支援を受けることができます。

3. 地域包括支援センター

市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。介護保険サービスの利用方法や、地域の医療・介護資源について情報提供を受けられます。嚥下障害や食事介助に関する悩みがあれば、まずここに相談するのも良いでしょう。

4. ケアマネージャー(介護支援専門員)

すでに介護保険サービスを利用している場合は、担当のケアマネージャーに相談しましょう。適切なサービス(訪問看護、訪問リハビリなど)の調整や、専門職への橋渡しをしてくれます。

適切な専門家に早めに相談することで、嚥下機能の改善や、安全な食事介助につながります。一人で抱え込まず、積極的に支援を求めることが大切です。

この記事が、飲み込みに困難を抱える高齢者とその介護に携わる方々のお役に立てば幸いです。

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