卓越した画力で、絵の本質を問いかける 藍嘉比沙耶 Aokabi Saya『ミル・クレープ2』Mille crepe2 レポート
藍嘉比沙耶 Aokabi Saya『ミル・クレープ2』Mille crepe2 が、2025年6月13日(金)から6月30日(月)まで、渋谷PARCO 4FのPARCO MUSEUM TOKYOにて開催されている。
1990年代のセル画技法を用いた日本のアニメーションのキャラクター造形に着目し、独自の解釈で制作する藍嘉比沙耶(あおかびさや)は、絵の本質を問うような作品を発表している気鋭のアーティスト。本展は、2020年にアートギャラリーの「HENKYO」で披露された、異なる技法やコンセプトで描かれた4つの作品シリーズからなる『ミル・クレープ』の2回目の開催で、16点全てが新作という贅沢な内容である。
懐かしいイメージがアートとして集結
今回披露されるのは、滲みの技法を使う “アウトライン”、描いては写す作業を繰り返して制作する “ぺったん”、作品の制作過程を表現する “process”、形にフォーカスを当てた “form” の4シリーズで、それぞれ4点ずつの出展となる。
画題となっているのは、過去のアニメーションのヒロインたちを連想させる、カラフルで可愛らしい女性像だ。懐かしいタッチのイメージが、アニメとは異なる手法を経てアートとして表現されているさまは、新鮮な驚きを与えるだろう。
制御できない絵の魅力
入場してすぐの空間に展示されているのは “アウトライン” だ。作家が制御できない滲みやぼかしが生じており、まるで絵が独自の色や形を獲得し、作家の手を離れて自立しているような印象を受ける。作家の画力と共に、画材の美しさや面白さをたっぷり堪能できる作品だ。
次に登場する “ぺったん” は2枚1組の作品で、絵を描いたキャンバスと制作前のキャンバスを重ねることで、描いていないほうのキャンバスに絵が生じるというもの。絵が意図しない形で生まれ、予想できない形で変化している様子にひきこまれる。絵を描いたキャンバスには輪郭線が残っているが、もともと絵がなく転写されたキャンバスのほうが、ときに色鮮やかであることにもハッとさせられた。
描かれた過程を示し、問いかけを生む作品
“process” には一枚の絵にさまざまな制作過程が示されており、最終段階の箇所と、下書きや未着色のままになっている箇所が同居している。プロセスを一目で伝えられるのは、アニメーションと異なり静止している絵画表現ならではといえよう。
本展のキービジュアルが含まれる “form” は、1990年代のアニメーションの造形を意識した作品で、当時のキャラクターの特徴である線の太さや陰影のつけかた、余白の取りかたなどが投影されている。アニメーションとして今にも動き出しそうなイメージが、絵として描かれて静止していることで、「今見ている作品は、一体何なのだろう」と考えさせられた。
作品は展示と同時に販売も行われ、物販コーナーには展覧会開催を記念したポスターやTシャツ、ステッカーセットといった魅力的なグッズも。商品の詳細情報は随時更新されるので、公式サイトで確認しよう。
懐かしさを感じるイメージに絵として向き合い、じっくり考察することができる『ミル・クレープ2』は、渋谷PARCO 4FのPARCO MUSEUM TOKYOにて6月30日(月)まで開催中。
文・撮影=中野昭子