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ACIDMAN「sonet」インタビュー――天邪鬼で飽き性で、刺激がないとつまらないからこその"挑戦"

encore

──先日の『REDLINE ALL THE FINAL』(2024年12月7日 出演)が2024年最後のライブだったそうですね。ライブはいかがでしたか?

「楽しかったです。『REDLINE』というイベントは今年が最後だったみたいです。過去に何度もお誘いいただいていたんですがずっとタイミングが合わず出られなかったので、最後に参加できてよかったです。ラウドロックのバンドが多い中で、僕たちは違和感がないか不安でもあったのですが、一人一人の表情を見ているとみんなちゃんと僕らを見ようと思ってくれている感じがして、楽しかったし、ファンから愛されているイベントなんだと思いました」

──“2024年最後のライブ”ということに対しては、何か意識はありましたか?

「そうですね…多分、あったのかな。と言うのも、1曲目からものすごく疲れたんですよ。たった1曲なのに喉と体力を使った感じがして“2曲目から抑えなきゃ持たないかも…”って。普段はそういうことってあまりないので、無意識のうちに、“声が枯れても、体力が尽き果ててもいいじゃないか”という思いがあったのかもしれないです」

──心のどこかに“今年最後”という意識が?

「あったのかもしれないです。あと、打ち上げでは大きめに声を出して笑いました(笑)。僕、すごいゲラなんですけど、職業柄、笑うときは声が出せないんですよ…喉が枯れちゃうので。でもその日は“明日、声が枯れてもいい”と思って、意識して大きな声を出して笑いました。“すっごく気持ちよく笑えるわ〜”って(笑)」

──すっきりした打ち上げで2024年のライブは締めくくられたということですが(笑)、2024年はACIDMANにとってどんな1年でしたか?

「本当に“ゴールデンカムイ様様”な、『ゴールデンカムイ』一色な1年でした。映画だけではなくて、それに紐づいたツアー(『ACIDMAN LIVE TOUR“ゴールデンセットリスト”』)も、ドラマ版のエンディング主題歌もやらせてもらって。あれだけの一大プロジェクトの一員になれたことがすごく嬉しかったですし、バンドとしてもかなりあやかりました」

──バンドを取り巻く環境も変わりましたか?

「取り巻く環境は別に変わらないですが、やっぱり知ってくださる方や認知してくれる方は増えましたね」

──それは映画『ゴールデンカムイ』の主題歌を担当すると決まったときから想定していたことですか?

「うーん…していたと思います。何せ“すごいプロジェクトから話が来たな”と思いましたから。でもそれによって何か僕らの世界がガラッと変わるとか、そんなマジックはこの世界に起きないということはわかっているつもりなので。だから、“こうなるだろうな”という偉そうなことではなくて、“チャンスだな”と思いました」

──バンドとしては十分実力も人気もある今もなお、チャンスを探しているんですか?

「探していたということはないですけど…“バンドとして人気があって知名度があって成功している”と思ったことが1度もないんです。ただ、振り返れば思いますよ。例えばWikipediaで自分たちの経歴を見ると、ものすごく華やかなことをしていて、“羨ましいな“と思うくらい、”こうありたいな“と思うようなバンド像をやっているんですけど、自分がやっているという認識がないから自分ごとじゃないんですよ。だからインディーズの頃からずっと変わらずにいつも不安ですし、いつも満たされていないんです。つまり、それは欲深いということなんでしょうけど…。結果的にはありがたいことに、ある程度高いところにいさせてもらっているのかなとは思いますけど、上を見たらキリがなくて。僕らよりも素晴らしいバンドたちが山ほどいて、そういう人たちのライブを見るたびに打ちのめされますし、”まだまだだな“とも思いますし、でも音楽としては負けていないっていう自負もあるし…みたいなことを繰り返しています。だから常にチャンスは求めています。と言うか、チャンスがあったら必ず取れる準備はしておくという感じかな? ボールがいつ来るかわからないから、常にバッターボックスに立って、全力で振るようにしています」

──そうなんですね。てっきり、どっしりと構えて、かなり選球しているのかと。

「いやいや。この音楽業界はとんでもない荒波ですから、たまたま生き残れていますけど、これからどうなるかなんてわかりませんよ。緊張感はいつも持っています。多分、死ぬまでこうなんだと思います。ただ、その怖さに揺さぶられすぎてもいけないから、そこは気をつけています」

──自分たちがやりたいものがブレてはいけないですもんね。

「そう。そこだけは明確です。『ゴールデンカムイ』も、きっと“今までとは全然違うことをやってくれ”と言われていたなら、秒で断っていました。どんなにおいしい話でも、自分たちのやりたいことと違うものだったら1秒も悩まずに断ります。だけど、やりたいこととリンクしていたり、相手からの愛があったりすると、やりたくなってくるんです」

──『ゴールデンカムイ』は、自分たちのやりたいことができるという意味でのチャンスだったんですね。

「そうです。何より『ゴールデンカムイ』がもともと好きだったんです。原作の漫画が。だからすごくワクワクしたし、すぐに“やります”と言いました」

──実際に「輝けるもの」が映画『ゴールデンカムイ』で流れているところをご覧になったときはどう感じましたか?

「すごく嬉しかったです。純粋にファンとして実写化したことも嬉しかったですし、試写で劇場公開よりも先に見られる喜びもありましたし(笑)。音響チェックで、東宝のスタジオに入らせてもらったんですが、俳優業をやっているわけではないので、そういうところに入れるのもすごく貴重な経験でした。僕は映画が大好きで、必ずエンドロールまで見るタイプなのですが、そのエンドロールに自分たちの名前が出たときの喜びは特別でした。そこで、“『ゴールデンカムイ』の一部になれたんだ!”という実感が湧きました」

──そうですよね。好きな漫画の実写映画のエンドロールに自分の名前が出るなんて…。

「信じられないです。数年後、僕はそれをWikipediaで見て“羨ましいな”と思うんでしょうね」

──そして「sonet」で再び『ゴールデンカムイ』とタッグを組みました。WOWOW『連続ドラマW ゴールデンカムイー北海道刺青囚人争奪編ー』最終話エンディングテーマですが、『ゴールデンカムイー北海道刺青囚人争奪編ー』の主題歌という話はいつ頃、聞いたのでしょうか?

「映画の主題歌のお話をいただいていたときは“もしかしたらドラマ版でもそういう話になるかも?”くらいはありましたけど、まだ何も決まっていなくて。映画が公開してしばらくしてから正式にお話をいただきました。週替わりでアーティストが異なる中で、最初と最後を担当させてもらえることになったのはすごく嬉しかったです。僕の中で、“やるなら両方担当したいな”と思っていたので、願ったり叶ったりというか…。ハマってよかったです。しかも映画のときにプロデューサーの松橋真三さんや監督の久保茂昭さん、WOWOWさんや山﨑賢人さんをはじめとするキャストの皆さんが「輝けるもの」をすごく評価してくださっているのを感じていたので、その評価がドラマにもつながっているのかな?と思いました。それもすごく嬉しかったですね。「sonet」はもともとこの作品のために作った曲ではなかったんですが、 “合いそうだな”と思ったので提案してみたら一発オッケーで。「輝けるもの」の信頼もあったからこそ、こんなにスムーズにいったんだと思いました」

──「sonet」は書き下ろしではないんですね!?

「はい、歌詞の半分くらいは書き下ろしですけど、メロディともう半分の歌詞は、まだメンバーにも聴かせていない状態で引き出しに入っているものでした」

──この曲が『ゴールデンカムイ』に…と、思ったのはどういったところからですか?

「次に携わらせてもらうなら壮大なロックバラードにしたいと勝手に思っていました。ドラマがどんな内容になるかわからなかったんですけど、壮大に終わるだろうなと想像していましたし、「輝けるもの」で僕らのことを知ってくれた人に違う一面を見せたいとも思っていたので。そういう気持ちで引き出しを開けたら、ロックバラードで壮大な世界観をたたえたこの曲があって。さらに『ゴールデンカムイ』で描かれている群像劇と、この曲で歌っているバタフライエフェクトみたいなものの相性もいい気がして提案させてもらいました」

──バタフライエフェクトというテーマもすでにあったんですね。そもそもこの曲はどのような思いで作ったものだったのでしょうか?

「それが全然覚えていなくて…。コロナ禍だったか、コロナ前だったかもわからないんです。だけど、もともと僕はこういう世界観が好きなんです。バタフライエフェクトって、すべてが繋がり合っているということで、それは僕のアイデンティティでもあって。“蝶々が羽ばたけば地球の裏側で台風が起きる”くらいのことは知っている人も多いと思うんですけど、科学的にはカオス理論という理論の一つで。あらゆる物質の粒子の流れとか波動とかって、追いかけて追いかけて最終的にわかるようになれば、この世界が全部わかるようになるらしいんですよ。まだ明確にはなっていないんですけど、このカオス理論が明確になると、あらゆるものが、ぞっとするくらいつながり合っていることに気付くっていう…。あなたのたった一言が戦争を起こしているかもしれないですし、あなたの一言が戦争を終わらせているかもしれない。この形で宇宙で生まれたことだって、確率とか計算で考えると気が遠くなるレベルの奇跡の繰り返しで起きているということを僕たちは感じなきゃいけない。となると、自分がやるべきことは自ずとわかってくるんですよ。せっかく大きな声で歌える立場にいる以上、何かを伝えて、人の心を動かして戦争を終わらせる。生きている素晴らしさを実感してもらう。それが僕の究極のテーマです。だから、そういうことを、僕は昔からずっと歌詞に散りばめているんですけど、この曲はそれをどっぷりと、かつ、わかりやすく歌っています」

──この楽曲が『ゴールデンカムイ』に合うなと具体的に思ったところがあれば教えてください。

「一つは“涙”ですね。アシㇼパさんの涙とか梅ちゃんの涙とか。『ゴールデンカムイ』って所謂泣かせる作品ではないですけど、“涙が深い”と思っていたので。あとは壮大な群像劇で、点と点がつながってさまざまな結末を迎えるというのが、まさにバタフライエフェクトの世界線だなと。」

──先ほど、歌詞の半分はもともあったものだとおっしゃっていましたが『ゴールデンカムイー北海道刺青囚人争奪編ー』最終話エンディングテーマとして楽曲を詰めていく作業では、作品にさらに近づけたのか、それとも別の視点で広げていったのか、どちらでしょうか?

「2番の歌詞はほとんど、話をもらってから『ゴールデンカムイ』に寄せて書きました。<真っ直ぐな眼>はアシㇼパさんの目だし、<真っ白に降り積もる雪の中>なんて『ゴールデンカムイ』の世界そのものです。だけどこれが僕の凡ミスで…実際のドラマでは1番しか使われなかったんです。事前にそう言われていたのに、恥ずかしいことを世にさらしました(笑)。でも逆に、全体を通して『ゴールデンカムイ』の楽曲みたいになってくれればいいなと…」

──サウンド面で『ゴールデンカムイー北海道刺青囚人争奪編ー』最終話エンディングテーマとして詰めていく中でこだわったところはありますか?

「まず、すごくシンプルにしたいと思いました。ロックバンドっぽいサウンドにもしたかったんですけど、一番大事なのはストーリーとメッセージなので、まずはそこを邪魔しないようにと。ギタリストとしても派手なギターフレーズを添えるのではなく、ストーリーとメッセージを下支えすることを徹底して、佐藤(雅俊/ Ba)くんにも(浦山)一悟(Dr)くんにも徹底してもらいました」

──ストーリーとメッセージを大事にしたということですが、それを歌うボーカル面で意識したことは何かありますか?

「いつもそうですけど、丁寧に歌うということはすごく大事にしました。聴いたときに、言葉が脳の中に文字としてちゃんと浮かぶように、しかもそれが描写として浮かぶように、理解できるようにということはすごく意識しました」

──ロックバラードはお手のものだと思いますが、ロックバラードを歌う上で意識していることはありますか?

「こういう歌って、説得力がないとダメだと思うんです。本当に深い経験をしないとこういう曲は歌っちゃいけないと思いますし、もし経験のないまま歌ったとしてもチープなものになってしまうので。だからそこはすごく意識して、自分の今までの経験と、自分が持っている思いを、素直に、何の打算もなく乗せて歌うようにしました」

──そうして完成した「sonet」、ACIDMANにとってどんな1曲になりそうですか?

「まだライブでやっていないので、僕らのファンの方がどう受け止めるかはわからないですけど、先行配信の反響を見る限りでは“作ってよかったな”と思いますし、今、僕の中では“こういう歌を歌い続けていきたい”と思っているので、ちゃんと届けられるように努力します、という感じですね」

──ファンの方にどう届くか?という話で言うと、1月11日には『「sonet」発売記念ワンマンライブ&壇上交流会』が行われます。これはどういったものなのでしょうか?

「ステージの上って、誰も入っちゃいけない聖域だと思うんです。でも、その場所をファンには共有したいと思ったのがきっかけです。ステージの周りにロープのようなものを張って、博物館のようにみんなにただそのステージを見てもらおうと思っています。少なくとも僕だったら見たいので。足元のエフェクターとか、マイクとか。僕もシガー・ロスのライブに行ったときは終演後、ステージの近くまで見にいきますし。だからまずはそれをやろうと思って。で、“せっかくなら握手しませんか?”と。握手会は最初で最後になるかもしれないですが(笑)」

──壇上交流会はバンドにとって初の試みでもありますが、どうして開催しようと?

「これは僕の発案で。コロナ禍を経て、“今だからできることって何かないかな?”と考えたときに、もっとファンの皆さんと距離の近いイベントをやった方がいい気がしました。コロナ禍に、“いつ終わっちゃうかわからない”と思ったんです。またいつ、コロナ禍のような、距離がぐんと遠くなるときが来るかわからない。だったら今のうちに、やってみたいけどやらなかったということは全部やってみようと思いました。ちなみに「輝けるもの」のときにはサイン会をやりました。サイン会も握手会も、やってみて、“イマイチだな”と思ったらもうやらないですけど(笑)、ただ経験値としてやってみたかったんです。それで最高だったらまたやる。とにかく、誰もやっていなかったことをやりたいという欲望は子供の頃からずっとあって。“ACIDMANってクールでとっつきにくいよね”というイメージがつけばつくほど、とっつきやすくしたくなりますし、逆に“大木さんって実はフランクでポップで握手もしてくれて”っていうのが一般的になっちゃったら、たぶん殻に閉じこもっちゃうと思います。僕は天邪鬼で飽き性で、刺激がないとつまらなくなっちゃうので」

──だから最初で最後になるかもしれないと。

「そうです。ライブ後だから、どうなるか本当にわからないですけど楽しみです」

──さらに3月からはツアー『ACIDMAN LIVE TOUR “This is ACIDMAN 2025”』が開催されます。7年ぶり7度目の日本武道館公演も含まれていますが、ACIDMANにとって日本武道館とはどういう場所なのでしょうか?

「今まで6回やってきたのに、実はどれもあまり覚えていないんです。非日常すぎてアドレナリンが出ているから、武道館に限らず、ライブの記憶ってほとんどなくて…。だから次こそは冷静に、自分の楽しみのためだけにやりたいです。『This is ACIDMAN』は当初メモリアルなライブとして始めたんですが、今はシリーズ化しているライブです。我ながら、こういうイベントって各バンドに必要だなって思うくらいすごくいい企画なので、それが日本武道館でできることに今からワクワクしています」

──それこそ『This is ACIDMAN』はシリーズ化していますが、2025年に見せる『This is ACIDMAN』はどのようなものになりそうですか?

「これは、常に言っているんですけど、いつもと変わらないです。僕はずっと昔から宇宙が好きで、圧倒的な星空を見たときの感動を音楽に集約しているのがACIDMANです。そういう世界観を表現する音楽と、自分が好きな映像という、いつもと同じようなことをこれからもずっとやり続けます。ミュージカルとか舞台みたいなものですよね、『レ・ミゼラブル』みたいなものです。同じ演目でも何度でも見に来て欲しいです。そう思って始めた企画なので、それは何年にやろうが変わらないと思います」

(おわり)

取材・文/小林千絵
ライブ写真:Victor Nomoto - Metacraft

RELEASE INFORMATION

2025年1月8日(水)発売
初回限定盤(CD+Blu-ray)/TYCT-39265/6,600円(税込)
通常盤(CD only)/TYCT-30152/1,500円(税込)
配信>>> https://acidman.lnk.to/sonet_digitalWE

ACIDMAN「sonet」

LIVE INFORMATION

2025年1月11日(土) 東京 Zepp Haneda
【時間】※予定
開場16:00 /開演17:00
ライブ終了18:30
壇上交流会スタート19:00

「sonet」発売記念ワンマンライブ&壇上交流会

2025年3月20日(木・祝) 愛知 Zepp Nagoya
2025年4月13日(日) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2025年4月26日(土) 大阪 Zepp Osaka Bayside
2025年5月4日(日・祝) 福岡 Zepp Fukuoka
2025年5月25日(日) 宮城 SENDAI GIGS
2025年6月13日(金) 神奈川 KT Zepp Yokohama
2025年6月21日(土) 新潟 NIIGATA LOTS
2025年7月12日(土) 北海道 Zepp Sapporo
2025年7月18日(金) 埼玉 ウェスタ川越
2025年10月26日(日) 東京 日本武道館

ACIDMAN LIVE TOUR "This is ACIDMAN 2025“

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