置き竿からライトタックルへ…進化する「底物」イシダイ釣りの“今”
周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第24回は磯の「イシダイ釣り」。かつて、釣りの情報を得られるものがほぼ釣り雑誌しかなかった昭和40~50年代、海釣りを始めたばかりの少年たちの憧れは「荒磯の王者」と呼ばれたイシダイだった。イシガキダイ、クエを含めて「磯の底物釣り」とも呼ばれ、噂に聞くその強引をいつかは味わってみたいと思ったものである。
根掛かりとの戦いだった
剛竿使用の置き竿の釣り
昭和50年ごろだったと思う。中学3年生か高校1年生の私が親父にねだって手に入れたイシダイ竿は、オリムピック社製の「スーパー18」という5.4mの剛竿、グラスロッドだった。リールも同社製の「ドルフィン」と呼ばれる、平行巻き機能が付いた両軸受けタイプだった。リールは同じだが「小笠原18」というダイワ社製の竿を購入した父とともに、南紀や紀東の磯に出掛けたものだった。
道糸は20号、イシダイバリ16号、ワイヤーハリス、オモリは舟型20~30号ぐらいだったと記憶している。
この写真の撮影時期は平成だが、いまでも南紀の釣り場では置き竿のイシダイ釣りが主流のはず
エサは渡船店で用意してもらったサザエや冷凍のナガレコ(トコブシ)で、これを入門書で見た通りにハリに刺し、沖に向かってやみくもに投げた仕掛をそのままに、竿を岩肌に打ち込んだピトン(竿受け)にあずけてアタリを待った。しかし、度重なる根掛かりに手を焼き、適当に投げ込んだ仕掛がポイントに入るわけでもなく、何度かの釣行でまったくイシダイは釣れず(というより、まったくアタリを見ないまま)嫌気が差してやめてしまった。
と同時に、同じ磯で入れ食いしている上物釣り師を目の当たりにし、その日から興味はグレ釣りに移ったのであった。
男女群島など九州では手持ちスタイル
足下の壁際をねらう「南方宙釣り」
当時は関東、関西もほぼ同様に、このような置き竿の釣りがメインのイシダイ釣りだったが、その後、釣り雑誌社の編集部に勤務するようになり、まったく別次元のイシダイ釣りに出会った。それが長崎県の男女群島など、九州地方で盛んだった「南方釣り」「南方宙釣り」と呼ばれる、常時竿を手持ちでねらう釣りだった。
東シナ海に浮かぶ男女群島では手持ちスタイルの南方釣りが主流
出典:写真AC
ポイントは磯の足下それも壁際で、前アタリが出たら竿先を下げて送り込み、大きく締め込む本アタリを捕らえ、すかさず掛けアワセるという釣り。仕掛には「真空オモリ」と呼ばれる大きな穴が空いた(中通し)オモリを使用。上部には根掛かりを軽減するためのゴムキャップが付いていた。
エサは赤貝によく似た「サルボウ貝」で、これをムキ身にし、数個ハリに掛けるだけなので、サザエなどに比べるとエサ付けもカンタンだった。なにしろ常時手持ち竿で磯際の壁に這わせて釣っているので、仕掛を投げ込んでアタリを待つスタイルより根掛かりはうんと少なく、ひじょうに楽だった。おかげで私も磯でねらって初めてイシダイを釣ることができた。
男女群島でのエサはサルボウ貝。赤貝に似ているがかなり小ぶり
出典:写真AC
山陰のバフンウニ、宇和海のカラス貝…
エサは違えど同じ手持ち竿スタイル
この「南方釣り」とよく似たスタイルに、島根県隠岐などでバフンウニをエサにする釣りがある。すべての人がそうなのかは分からないが、私が教えてもらって試したのは、やはり手持ち竿スタイルで壁際に仕掛を這わせてアタリを待つものだった。これでも数尾のイシダイを釣り上げることができ、やはり根掛かりが少ないのが何よりだった。
また、バフンウニは太平洋岸のイシダイ釣りでよく使われるガンガゼ(ウニ)のように鋭く長い棘がなく、素手でカンタンにハリをセットできるのが特徴だ。
隠岐など山陰地方の手持ちスタイルのイシダイ釣りは、古くからバフンウニがよく使われていた
手持ち竿でのイシダイ釣りは、実は古くから四国西南部でも行われていて、高知県の栢島や愛媛県の宇和海の磯などでも盛んだった。私が中高生のころ読んでいた釣り雑誌には、そういったイシダイ釣りの連載記事があって、毎月ワクワクしながら読んでいたのを覚えている。
当時にしてはひじょうにライトな釣りで、道糸はナイロン12~14号ぐらい(当時の置き竿のイシダイ釣りの標準は18~20号だったと思う)と細かった。
鵜来島から見た沖ノ島、栢島方面。カラス貝をエサに手持ちスタイルで行われていた釣りは、近年のライトなイシダイ釣りの原型かもしれない
エサはかなり大きいカラス貝(早い話、イタリア料理で有名なムール貝)で、高松や松山の釣り人は釣行前日に瀬戸内の港湾部などで採取し、大量のムキ身を前もって準備。「大変だがこれが楽しい」と、現地釣り人が心境を漏らしていたのを何となく記憶している。
バフンウニをエサに現代版?
沼島で流行!ライトなイシダイ釣り
そして現在、兵庫県淡路島の南部に浮かぶ沼島の磯で、ここ数年流行しているのがひじょうにライトなイシダイ釣り。タックルは磯竿2号などに中型スピニングリール、PEライン4号、ハリスにフロロ10号、オモリなしの2本バリでエサの重みだけで落とし込んでいく釣り方。
沼島の磯。古くからイシダイ釣りは存在したが、ライトタックルでの釣りが始まったのはごく最近
名古屋など東海エリアでは古くからチヌ釣りの延長で、イシダイの落とし込み釣りをする人がいたが、エサは大きめのカニやボケ、カメジャコなどだった。ところが沼島でのエサは、隠岐など山陰エリアと同じバフンウニ(関西の瀬戸内エリアではエサ店でほとんど手に入らない)を使っているのが特徴。
東海地方を中心とした、防波堤からの落とし込み釣りでねらうイシダイのエサはボケやカメジャコ、カニなどがメイン
60cmをオーバーする大判(特大)サイズこそ少ないが、30~50cmの小中型サイズが爆発的に釣れ、沼島ではそれまでになかった釣りだけにひじょうに話題になった。とはいえ、「釣り過ぎる」「釣れ過ぎる」と資源枯渇を危惧する意見がないわけではない。
30cm以下のサンバソウクラスも含めて2ケタ釣果が続出するライトタックルの釣りでは、食べきれない分は海に帰してやろう
かつて“幻の魚”と呼ばれた磯のイシダイだが、近年は昔ほど幻とは思われなくなったように感じる。再び幻にしないためにも、節度を持って荒磯の王者の引きを味わおう。