【保護司制度の見直し検討】実は本県が発祥地!罪を犯した人の更生を支える大切な制度、維持していくためには…?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「保護司制度の見直し検討」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年10月8日放送)
(橋本)刑務所出所者らの社会復帰を支える保護司のなり手不足を解消し、持続可能な制度の確立を目指して法務省が設置した有識者検討会が、最終報告書を法相に提出しました。大津市の保護司殺害事件を受け、保護観察対象者との面接時の安全対策強化を提言。法務省は早ければ来年の通常国会に保護司法などの改正案を提出します。
(山田)橋本さん、「保護司」の方はどんなことをされてるんですか。
(橋本)刑務所や少年院などを出て保護観察中の方の更生を支える非常勤の国家公務員です。
(山田)罪を犯した人たちの立ち直りを支援する…?
(橋本)そうですね。交通費などの実費は支払われることになっていますが、報酬は基本的にありません。
(山田)ボランティアってことですか?
(橋本)ボランティアです。主に、月に数回保護観察の対象者と面会して、生活や仕事上の悩みを聞いて助言するのが役割です。対象者が円滑に社会復帰できるように地域との調整などもしています。
(山田)保護司さんは全国にたくさんいるんですか?
(橋本)法務省の資料だと2024年1月現在で4万6000人余り。たくさんいるように思えますが、定員は5万2500人と決まっているので、だいぶ割り込んでいます。この20年間に2000人余りも減少していて、平均年齢が65歳を超えて、60歳以上が8割を占めるということで、全体的に高齢化が進んでいるということです。
保護司さんっていうと、年配の方というイメージがあるかもしれません。今後もこの制度を維持して対象者を支え続けるためには、何らかの対策を講じなければいけないということですね。
(山田)確かに、年配の方の方がこういう仕事は合うのかなとは思うんですが、8割以上が60歳以上となると、もうちょっと若い人はいないのかなという感じはします。
(橋本)あまり若い人だと躊躇されるかもしれませんが、40、50代で保護司になって長くやってくださるという方もいらっしゃると思います。
(山田)確かに経験値も必要ですね。
なり手を維持するため、制度見直し
(山田)この制度の見直しを今議論しているということですか。
(橋本)保護司の高齢化も進んでいるため、持続可能な制度にすることが今の大きな課題だということで、保護司になる方を増やす、それから今、保護司をされてる方たちも安心して活動できる環境を整える必要があるということで議論されてきました。
有識者検討会では、報酬制の導入も検討したようなんですが、「保護司の活動は自発的な善意を象徴するもので、報酬制はなじまない」という結論に達して今回の検討では見送られました。その代わりに実費弁償を充実させることが最終報告には盛り込まれたということでした。その他に、年齢制限の撤廃や任期の延長などにも言及しているということです。
(山田)「自発的な善意を」っていうところは分かるんですけども、メリットというかそういうものがないと、なかなか担い手は難しいんじゃないですかね。
(橋本)自発的な善意なので、「社会のために貢献したい」とか、「罪を犯して社会に戻りたいけれど戻れずに困っている方たちを助けたい」とか、そういう思いでやってくださってる方たちが今活動しているということですね。
大津市の事件を受け、安全対策を議論
(山田)担い手の確保策ということですが、冒頭に出てきた大津市の事件では、どういうことがあったんですか。
(橋本)今年5月に、大津市で60歳の保護司の方が殺害され、保護観察中の35歳の男が殺人容疑で逮捕されたという事件がありました。その男は亡くなった保護司さんから立ち直りの支援を受けていたため、全国的に波紋が広がりました。
(山田)そういうことか…。
(橋本)事件直後、男のものとみられるSNSに、保護観察に対する不満のような投稿があったということが判明しています。ただ、逮捕後の調べに対して容疑を否認していて、今月までの予定で鑑定留置となったというところまで報道されていました。事件の真相はまだ分からないということです。
ただ、罪を犯した人の立ち直りにボランティアで貢献していた方がこういう形で亡くなったのは本当に残念でなりません。
有識者検討会は当初、保護司の担い手確保策を中心に1年くらいかけて検討していたんですが、この事件があったため、「保護司の安全対策」が重要な検討課題として浮上したということです。
(山田)事件の真相はまだ分かりませんが、安全対策は取らなければまずいですよね。でも、どうやって?
(橋本)最終報告では新たな対策として、複数人の保護司による面接の活用や、緊急時の保護観察所との連絡体制の強化、保護観察対象者が犯した罪のその事件を分析し、対象者の暴力性などを判定する仕組みの充実などを求めました。
複数人での面接というのは、一対一だとやっぱり閉ざされた関係になるので、何かトラブルがあった時も間に人が入る方がいいということがあると思います。ただ保護司が、保護対象の方と信頼関係を作ったり、生活上の様々な相談に乗ったりするためには、ある程度距離が近くないとできないということもあると思うんですよ。
(山田)何でも打ち明けるっていう相手じゃないですか。
(橋本)そうですね。そういう関係を築くためには、一律に「安全対策はこういうふうにしなさい」、「複数じゃないと会ってはいけませんよ」みたいに決めてしまうと、本来の役割を果たしにくくなります。だから、そこは現場で判断できる余地を、ある程度残して柔軟に対策を講じられるようにした方がいい、対策の選択肢を増やすことにとどめることが必要だということが指摘されたようです。
安心して働ける環境へ
(山田)安全対策をいろいろ柔軟にやっていこうということですが、うまくいけば保護司の担い手は増えていくんですかね?
(橋本)5月の事件に関して言うと、保護観察の対象だった人物に保護司さんが殺害された事件は、1964年に北海道で起きて以来ずっとなかったんです。それぐらい今回の事件は特殊で、だからこそ衝撃も大きかったんです。
ただ一方、ずっとそうした事件もなく保護司さんたちの努力で制度が回ってきたので、今回の事件をもって「保護司は危険な業務だ」みたいな印象が広がるのは、制度にとっても社会にとっても損失になるのではと思います。
(山田)怖いと思われたら担い手が減っていっちゃいますよね。
静岡が保護司制度の発祥地!?
(橋本)ところで、この保護司制度は静岡が発祥だと言われています。明治大正期の実業家で、天竜川の治水などに尽力した金原明善さんが明治21年、日本初の更生保護施設「県出獄人保護会社」を立ち上げました。それが始まりだと言われています。
(山田)ほぅ。
(橋本)民間が先駆けて、後に国の制度に発展したということです。金原さんが会社を設立
するきっかけになった話というのが伝わっています。
10年以上監獄に入っていた男が、現在でいう刑務官に諭されて更生したんですね。出所して家に戻ったそうなんですが、元の奥さんは新たな家庭を築いていて、親類を頼ろうとしても、当時は偏見もあって拒否されたと。
最後は本当に窮して池に身を投じてしまったそうです。その話を聞いた金原さんが、改心し監獄を出た人を社会でしっかり保護しないといけないということで、仲間とともに会社設立に至ったということです。
(山田)それが保護司制度の始まりですか。
(橋本)はい。そういう静岡にルーツのある制度なので、今後も、改善をして持続可能な制度にしていって、社会のために役立てていってほしいなと思います。
(山田)そうですね。今お話していただいたのは明治の話かもしれませんが、一度刑務所に入ったというレッテルみたいなものは、今はどうなんですかね。
(橋本)昔よりはずいぶん理解が進んだと思いますが、やっぱりそういう偏見もまだ残っている部分があると思います。
今の保護司さんたちはすごく努力されて社会に貢献されていると思います。それをフォローアップしていくのは一義的には国かもしれませんが、一般の方たちもちょっと意識を向けていただけたらなと思います。
(山田)我々も理解を深めていくことは大事になってくるでしょう。保護司制度、静岡とゆかりがあるということで、意識していきましょう。今日の勉強はこれでおしまい!