第27回【キジュを超えて】あゝ忘却の彼方よ─萩原 朔美の日々
—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—
萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!
連載 第27回 キジュを超えて
人の名前とか地名とか、映画のタイトルなど、まず出てこない。今に始まった事じゃないけれど。
だけど、それは、加齢が原因じゃない。忘れたんじゃなくて、覚えなかっただけだ。ボケた訳などあり得ない。単に必死になって覚える努力をしなかった。それだけの事だ。
名前が出なくてすみません。覚える努力全くしなかったんです。本のタイトル忘れてすみません。覚える気がなかったんです。
何故なら、芝居のセリフは覚えているからだ。50年前のセリフもまだ言える。昨年出た芝居も、皆んなに心配されたけれど、覚えられた。必死で覚えようと一人部屋を歩き回って暗記したからだ。
結論が出た。物忘れは始まるものじやない。初めから忘れても構わないと思っていたのだから、すでに若い時に終わっていた現象である。(笑)
すでに終わった事は、何歳になっても始まらないのである。以上です。
▲左から串田和美、大久保鷹、竹中直人、筆者、2024年1月の舞台『共感は全世界の人間を親族にする by シェイクスピア ここは静かな最前線』ザムザ阿佐谷にて
▲昨年11月、演劇創作ユニット【百花繚乱】旗揚げ公演『スイング』で、不動産屋の会長を演じる筆者(左端)
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ
第20回 記録はアートになりたがる
第19回 老いが追いかけてくる
第18回 気がつけばおばんさん気分
第17回 新しい朝が来た、希望の朝だ♪
第16回 年齢とは一筋の暗闇の道
第15回 今こそ<肉体の理性>よ!
第14回 背中トントンが懐かしい
第13回 自分の街、がなくなった
第12回 渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる
第11回 77年余、最大の激痛に耐えながら
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。