学習のフォローや友だち関係…支援や配慮を相談したいとき、学校へのアプローチや連携のコツは?【公認心理師・井上雅彦先生にきく】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
学校に何をどこまでお願いできるの?
学校生活や授業でわが子が困っていて学校にお願いしたいことがあるけれど、忙しい先生にどこまでお願いできるのか、どうやって伝えたらよいか悩むこともあるかもしれません。
発達ナビのQ&Aコーナーでも、学校での支援や合理的配慮についての質問が複数寄せられています。
小学校へ合理的配慮をされた方の学校・担任・校長へのアプローチの仕方等経験談を聞かせていただきたく投稿させて頂きました。
うちの息子は、小4男子で、授業中机の上に教科書・ノートは出さない、成績は低い、九九は言えない、テストは受けない、割り算のやり方が時々わからなくなり、勉強の遅れが心配です。https://h-navi.jp/qa/questions/55743
公立中学での合理的配慮、どんなことをしてもらっていますか?
(略)
これから話し合いが行われますが、学校には「前例がない」と何度も言われており、
前例がないなら作りましょう、と言っても呆れられている状況です。https://h-navi.jp/qa/questions/48276
小学校の先生に、席変えについて配慮をお願いすることは非常識でしょうか?
正直、あまり期待できそうにもなくて、、、辛い気持ちです。
2年生の男の子で、高機能自閉症の診断済みです。https://h-navi.jp/qa/questions/72502
※以前は、自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などいろいろな名称で呼ばれていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名になりました。
小学校に入学すると、これまでの園生活に比べて担任の先生と直接お話しする機会がぐんと減ったという方も多いのではないでしょうか。小学校、中学校、高等学校と学年が上がるにつれて、保護者と学校との直接の接点は少なくなりやすいものです。そんな中で、学校へ支援や配慮のお願いをするというのは、保護者にとっても勇気が要ることかもしれません。
今回は、学校との連携がうまくいくコツについて、鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生にお伺いしました。
学校へお願いしたいことがあるとき、どうしたらいい?
A:学校との連携は、保護者から先生に相談するところから始まることが多いと思います。最初に相談する相手は、基本的には担任の先生になるでしょう。
ただ担任の先生だけでなく、各学校に配置されている特別支援教育コーディネーターという役割の先生に相談してもよいかもしれません。
特別支援教育コーディネーターは、校内の特別支援教育の推進のため、主に以下の役割を担っています。
・校内委員会の企画・運営
・関係諸機関・学校内関係者との連絡・調整
・保護者からの相談窓口
学校へ相談をする際には、初めにどんなことに困っているのかをお伝えしつつ「どうすればいいか悩んでいる」旨を率直にお話するとよいかもしれません。そこから話し合いがスタートして、お子さん本人や保護者の願いと、その学校での人的・物的環境において実行可能なこととをすり合わせていく作業になると思います。
例えば「国語のノートをとることが難しい」という場合、ユニバーサルな支援として、クラス全体に
・穴埋め式プリントを配る
・黒板を書き写す量を減らす
などの対応がとられることもあります。
また合理的配慮として、「ノートテイカーを置くことは難しいけれど、タブレットで写真を撮るのはどうか」などのように、いくつかの案から学校としても持続可能でお子さんにとってもよい対応に調整していきます。
学校での支援や配慮を検討していく際に、最も大切なポイントは、お子さん本人の意志を尊重し、取り入れていくことです。
例えば、「国語のノートは、タブレット端末を使う」と学校と保護者の間で合意していても、お子さん本人が「クラスの中で、自分だけタブレットで写真を撮りに行くのは嫌だな」と思うかもしれません。そういった場合には、まずは他の目立ちにくい場面で使ってみて、お子さん自身が良さを体感し「国語のときも使いたい!」と感じてから、国語の場面でも使ってみる、というプロセスもあるかもしれませんね。
支援や配慮は「一度決めたらOK」ではなく、[Plan-Do-See(計画、実行、見直し)]の観点で調整していくことも大切です。まず試してみて、あまりうまく行かなかったら次の手を考えていきます。お子さんも成長しますし、周囲も変化する中で、困りごとの内容や深刻度も変わってくるかと思います。その意味でも、定期的に見直し、お互いにより良い形になるよう調整していけるとよいでしょう。
学校との話し合いの際に、次回の話し合いをいつにするかを決めておけると、定期的な見直しの機会を持ちやすくなります。
なかなか支援の話が進まないときには?
A:支援や配慮の内容によっては、担任の先生だけでは判断しにくいこともあります。他の先生にも知っておいてもらうほうがよかったり、学年や学校全体で取り組んだりすることもあるでしょう。
そのような場合は担任の先生だけでなく、特別支援教育コーディネーターや、学年主任、管理職の先生などと共に話し合いをすることもあります。教室外でのサポートがあるとよい場合には、養護教諭や特別支援学級の先生などと連携していくこともいいと思います。学校外での支援機関を利用している場合には、そのような支援機関のスタッフに入ってもらってもいいかもしれません。
保護者側も一人ではなく複数人で出席する場合もあります。保護者と学校側で「一対複数」となると、やはり保護者側の負担が大きく感じられることもあるので、可能であればご両親やご家族で参加されるとよいかと思います。お子さまの祖父母の方が一緒に来られる場合もあります。
ほかにも各校を巡回しているスクールカウンセラーや、自治体によっては学校内での支援体制について独自の制度を設けている場合もあります。例えば横浜市では、「児童支援専任」「生徒指導専任」という役割の先生を全校に配置しています。
お子さんが学校で困ったときに、安心して話せる先生が複数いると心強いと思います。お子さん・保護者共に、学校で頼れる相手を見つけていけるとよいでしょう。
まとめ
学校へ支援や配慮のお願いをするというのは、保護者にとっても心理的負担があるかもしれません。しかし「お子さんがより学びやすく・過ごしやすくなるように」という願いは、きっと保護者と学校で共通の部分だと思います。
「保護者が要求する→学校がYES/NOを判断する」というものではなく、あくまで「すりあわせる作業」になるので、保護者からは「何をやってほしいか」だけでなく「何に困っているか」を具体的にお話していくことがポイントです。
また個人に対する合理的配慮というよりは、クラス全体へのユニバーサルな支援で解決する場合もあります。
お子さん本人の気持ちや意志を大事にしながら、お互いに無理なく継続可能な方法を見つけていけるとよいでしょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。