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焼肉店を展開しながら長浜屋台に進出した「屋台のたまちゃん」の夢とは。

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「大衆焼肉たまや」からスタート

僕が今回の主人公である鳥巣さんと出会ったのは7年前、高砂にあった「オニクダイスキうっちゃり食堂」。近くにあったカフェ「Pin」によく通っていた頃に勧められて行ったのが最初。
肉料理が人気の定食店だったが、ボリューム満点で美味しい料理に感動して、厨房で調理している人に聞いてみると「ここは『大衆焼肉たまや』という焼肉屋がやってるんです」と答えてくれたのが社長の鳥巣さんだった。

当時の「オニクダイスキうっちゃり食堂」の定食

社長の鳥巣大介さんは1978年長崎県壱岐市に漁師の長男として生まれた。公務員を目指して福岡の大学に進学したものの、アルバイトしていた居酒屋で飲食店の楽しさに触れ、飲食店の経営や飲食業向けのコンサルティングの会社であるアトモスダイニング(株)へ入社したそうだ。

「アトモスダイニングで10年間、調理はもちろん、店舗管理や新店舗のオープンまで飲食業のことを勉強させてもらいました」と鳥巣さん。

その後、アトモスダイニングの独立支援制度を利用して「大衆焼肉たまや」で独立。現在は、焼肉店や食堂を12店舗展開している。

「今ではうちで育った社員が独立してうちの店を買い取った形で経営している人もいます。以前、僕がアトモスダイニングにしてもらったことを、僕も若い世代にしてあげられているのは嬉しいです」とのこと。

そんな鳥巣さんが次に目指したのが長浜屋台への進出だった。

「屋台のたまちゃん」の開業

福岡市の屋台営業は、9年前から「福岡市屋台営業候補者公募」に応募して、試験、書類審査、面接などに合格した人だけができるようになっている。ちなみに営業許可は10年間の期限付きだ。
鳥巣さんは第4回の公募に応募して5倍の難関を突破し、2023年6月に「屋台のたまちゃん」の営業を開始した。

-10年以上焼肉店を経営されてきて、どうしてこのタイミングで“屋台”だったんですか?

「スタッフも育って営業的にも安定してきたので、そろそろ何か新しいことが出来るなと思っていたんです。それと今の福岡市の状況を見ると“食都”と言われるように食べ物を中心とした観光都市としての存在価値が上がって来てますよね。そこで観光業としての屋台に魅力を感じで取り組んでみたいなと思ったんです」

-なるほど。屋台は観光業なんですね!!

確かに、この取材の日も地元客は僕を含めて3人、その他に遭った客は、北海道、神奈川県、千葉県、そして韓国から合計7人だった。たまたまかもしれないが、意外と九州管内以外からの観光客が多いのにビックリした。ちなみに「屋台のたまちゃん」の場合、国内の観光客が4割、海外からが4割、そして地元客が2割くらいだそうだ。まさに観光業だ。

さらに聞いてみた。

-それでもどうして長浜地区を選んだんですか? 天神地区や中洲地区への応募が人気だと聞いてますが……

「昔は屋台と言えば長浜が全国的にも有名だったんですが、福岡市鮮魚市場西側にあった長浜屋台通りでの屋台営業できなくなって以来、長浜から光が消えたようになっていたんです。僕は近くに『大衆焼肉たまや』を長年営業しているので、以前みたいに元気のある長浜の復活を目指して地域に貢献したいと思って長浜地区に応募したんです」

鳥巣さんは、長浜屋台の名に恥じないように味も質も本格的な料理を追及し、福岡市を代表する屋台になりたいと決意したそうだ。

屋台だからこその苦労

初期投資や毎月の地代家賃、水道光熱費などのランニングコストは安く抑えられる仕組みになっている屋台だが、逆に日々の営業では大変なことも多い。

「とにかく営業前の店舗の組立が大変ですね。営業スタートできるまでに2人で作業しても1~2時間はかかります。毎日大工仕事から始まる感じです。もちろん営業終了後に解体して撤収する作業も大変です。それに営業登録している本人が店に立っていないといけないので体調管理が大切になります」

-スタッフやアルバイトさんだけでの営業は出来ないんですよね

「そうなんです。それに雨や風が強かったりするとその日の営業を諦めることもあるし天候によって商売も左右されます。だから好きじゃないと出来ないと思います」とのこと。

ちなみに、福岡市のホームページに書かれている「福岡市屋台営業候補者公募」に関して注意事項が以下の通り。

一般の飲食店と違い、様々なルールがあり、それらを守っていただかなくてはいけません。
代表的なものは以下のとおりです。
•営業時間及び屋台の搬入・搬出時間中は、常時、営業者本人がいなければなりません。
•営業時間(屋台の搬入・搬出時間を含む)は午後5時から翌日の午前4時までです。
•屋台の規格(間口3メートル以内、奥行2.5メートル以内)からはみ出して飲食を提供してはいけません。
•屋台では、飲食物の提供以外の営業行為(物販など)はできません。
•屋台では、テイクアウトやデリバリーはできません。
•生ものは提供できません。提供直前に十分に加熱をしなければなりません。

(引用元:福岡市屋台営業候補者の公募についてより)

たしかに大変なことも多いがメリットも多い。スタートアップ的に10年間屋台で頑張って、その後は実店舗への移行を推奨しているのが福岡市の基本的考えのようだ。もちろん10年経過後に再度「福岡市屋台営業候補者公募」に応募して試験を受けることは可能なのだが。

-そんな中で開業されて1年半が過ぎましたが、屋台ってやり甲斐はありますか? 特に長浜地区の屋台の組合長をされていることも含めて何か以前とは変わりましたか?

「はい、もちろんです。屋台をしていることで福岡市に貢献してるなぁという実感が生まれました。いろんな人と会ったりする時に街に必要とされていると感じられることが嬉しいです」と、鳥巣さんの長浜屋台への想いはますます盛り上がっているようだ。

「屋台のたまちゃん」の人気メニュー

メニューは、和風あごだしおでん、炭火焼とり、豚骨ラーメンが3本柱だ。他にもたくさんの一品料理が用意されている。そしてどれもお手頃価格で明朗会計なのだ。

「ラーメン一杯だけでもお入りください。とりあえず敷居を低くしてたくさんの人に長浜に足を運んで楽しんでもらいたいという気持ちがあるんです」と鳥巣さん。

食事メニューとドリンクメニュー

まずはすぐに出て来るおでんから注文する。和風あごだしスープが優しく身体に染みる。このスープで日本酒を割った「出汁割り酒(500円)」も人気だ。

あごだしおでん五種盛り(1,000円)

炭火焼とり3種盛り(600円)

炭火焼とり 生ラム(580円)、牛さがり(580円)

他にも一品料理がたくさんある。福岡市らしく明太子を使った「いわし明太(680円)」や「明太チーズオムレツ(880円)」も観光客には人気あり。「山芋鉄板(680円)」も熱々フワフワで寒い季節には最高だった。

明太チーズオムレツ(880円)

いわし明太(680円)

山芋鉄板(680円)

最後のシメは長浜だけにラーメンだろう。特に「長浜純豚骨ラーメン(750円)」は一押しメニューだそうだ。しっかりとコクのある豚骨スープだが重くなくあっさり食べられるので最高。お好みで紅ショウガや高菜炒めもトッピングでどうぞ。

長浜純豚骨ラーメン(750円)

最近では観光客には福岡屋台の名物でもある「焼ラーメン(950円)」も大人気だという。確かに福岡の屋台が発祥と言われる焼きラーメンだが、一般のラーメン店や居酒屋ではまだまだ提供している店が少ないので屋台の思い出としてはインパクト強めかも。豚骨スープをベースにしっかりとパンチのある仕上がりになっている。ちなみに「長浜純豚骨ラーメン」と「焼ラーメン」はハーフサイズの注文も可能だ。

焼ラーメン(950円)

将来の夢

「焼肉店、食堂、屋台とやって来て、次にやりたいことは何ですか?」と鳥巣さんに聞いてみた。

「しばらくは長浜の屋台で頑張りますが、その後は、ラーメン屋になりたいですね」

-え?? ラーメン店ですか?

「はい、昼はラーメン店で、夜はラーメン居酒屋みたいな店をやりたいです。いままでのノウハウを全てつぎ込んで、肉料理、中華料理、そして豚骨ラーメンを楽しめる店を作るのが最近の目標になってます。それが福岡の観光業に貢献することにもつながっていくと思うんです」

-なるほど、福岡の文化である豚骨ラーメンをメインにした居酒屋ですね。

「そのためにも今は長浜屋台に力を注いでいます。利益うんぬんだけでなく、福岡市の屋台文化の維持とイメージアップのため、そして観光都市福岡のために、おもてなしの心をもって楽しく営業していきたいです」

今日も「屋台のたまちゃん」では、全国各地や海外から集まった観光客とたまたま隣に座った地元客、それに鳥巣さんが一緒になって一つの会話で盛り上がっていた。そしてみんながワッハッハと大きな声で笑っている。

この小さな屋台での笑顔、そして長浜屋台9軒、さらに福岡市の屋台約100軒、それがどんどん広がって福岡市へ観光に訪れた人たちの笑顔につながっていくのだろう。そのためにもまずは目の前のお客さんを美味しい料理と楽しい時間で笑顔にするのが福岡を観光業で盛り上げていく第一歩なのかもしれない。それに向かってスタッフ一丸となって今夜も頑張っている鳥巣さんだった。

鳥巣さん(左)とスタッフの中島さん

屋台のたまちゃん
福岡市中央区長浜
18:30頃~24:00

上野万太郎
ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club

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