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【倉敷市】『アムステルダム ボトムアップの実験都市』刊行記念講演会(2025年07月23日開催 )~ オランダのまちづくりの事例から、倉敷のまちづくりに新たな気づきを

倉敷とことこ

『アムステルダム ボトムアップの実験都市』刊行記念講演会(2025年07月23日開催 )~ オランダのまちづくりの事例から、倉敷のまちづくりに新たな気づきを

2025年7月23日、倉敷美観地区にある新渓園で「空き家を活用して商店街かいわいをおもしろくするには?|『アムステルダム ボトムアップの実験都市』刊行記念」と題した講演会が開催されました。

オランダ・アムステルダムでのまちづくりに関するさまざまな取り組みが、倉敷市中心市街地の活性化に何らかのヒントになるのではないか、という内容の講演と講演後のクロストークのようすをレポートします。

講師紹介 〜 オランダ在住建築家・根津幸子さん

オランダ・アムステルダム在住の建築家、根津幸子さん

今回講師をつとめたのはオランダ・アムステルダム在住の建築家、根津幸子(ねづ ゆきこ)さんです。

根津さんは大学卒業後オランダへ渡り、ベルラーヘ・インスティテュートにて建築を学んだのち、2008年に自らの建築事務所である「Urbanberry Design(アーバンベリーデザイン)」を設立しました。以来、さまざまな建築プロジェクトを手がけています。

Urbanberry Designの手がけた建築プロジェクトの紹介

直近では、EXPO 2025 大阪・関西万博におけるオランダパビリオンの入札にも参加し、惜しくも2位となり落選したものの、日本とオランダをつなぐ独自性のあるコンセプトには多くの反響が寄せられたそうです。

また、2024年11月に倉敷にて開催された「Reuse, Redevelop and Design 倉敷美観地区および周辺エリアのこれからのまちの姿を考えるワークショップ+シンポジウム」でも講師をつとめました。

そのときの縁と、著書「アムステルダム ボトムアップの実験都市」の刊行がきっかけとなり、今回のイベント開催に至りました。

根津さんの著書「アムステルダム ボトムアップの実験都市」

講演会のようす

講演会のようす

著書の内容をもとに、建築のみならず「ボトムアップとは何か」についても現地での実例を交えながら多様なお話を聞かせてくれました。

1時間30分におよぶ講演のなかから、筆者の気になった話題をピックアップして紹介します。

オランダってどのような国?

オランダという国名はおそらく多くのかたが知っていると思います。しかし、ヨーロッパのどこにあるかはっきりわかる人は少ないのではないでしょうか。

ヨーロッパにおけるオランダの位置を説明する根津さん

上の地図のとおり、南にベルギー、フランス、東にドイツ、西に海を隔ててイギリスと、大国に囲まれたところに位置する国で、国土は九州と同じくらいの面積です。

小さな国で小回りが利くこともあり、先進的な施策にも果敢(かかん)にチャレンジし、国際社会で独自の存在感を出しています。

また、「世界は神が作った、オランダはオランダ人が作った」と言われるとおり、干拓地を拡げることによって国土を広げていった歴史があります。

現在の国土の25%が海抜ゼロメートル以下の地帯かつ、昨今の地球温暖化による海水面上昇の影響も懸念されることもあり、環境問題に対する意識が高い国民性です。

サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の実践

根津さんは、オランダの首都アムステルダムでの先進的な実例として「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の実践」を挙げていました。

サーキュラー・エコノミーの指針について紹介する根津さん

「サーキュラー・エコノミー」とは、使い終わったものを捨てるのではなく資源として再生・流通させるといった考えで、廃棄物を再生するリサイクルよりもさらに進んだ取り組みです。

オランダでは、このような取り組みも行政主導の「トップダウン」ではなく、市民主体の「ボトムアップ」で実践されているそうです。

ガス工場跡地の再生

サーキュラー・エコノミーの実例として、1980年代に閉鎖されたガス工場跡地を公園に再生した事例が紹介されていました。

ウェスター公園として再生された旧ガス工場

工場跡地の利用方法について市民にヒアリングをおこない、市民が主体となってボトムアップでさまざまなイベントを実施しながら、今後の利用方法を検討しました。

まさに、それは跡地の利用方法を考えつつ、実際にさまざまな試みをおこなう実験だったといえるでしょう。

これら一連の実験による市民の声を踏まえたうえで、ガス工場の跡地は遺構を生かした公園として再生され、市民の憩いの場として生かされることになりました。

クロストーク 〜 倉敷におけるボトムアップまちづくり

後半では、今回の講演会のタイトルにある「空き家を活用して商店街かいわいをおもしろくするには?」について、ノートルダム清心女子大学准教授 成清仁士(なりきよ ひとし)先生、イベントを主催した図書館CAFEひとひの澤江亜玖里(さわえ あぐり)さん、講師の根津さんによるクロストーク(対談)がありました。

成清先生(左)と澤江さん(右)

澤江さんは倉敷中心市街地の空き家を改装し、2025年4月に「図書館CAFEひとひ」を開業しました。

澤江さんが空き家を改装して開業した「図書館CAFEひとひ」

お店のコンセプトは、一箱貸しのシェア型図書館カフェで、利用者が本棚オーナー(月額制)となり自分の本棚を持つことができます。

それぞれの本棚にオーナーの個性が出ている

オーナーの個性が光る本棚は、それぞれの自己表現の場であり間接的なコミュニティとしても機能しています。本棚に並べられた多種多様な本たちを通じて、お店に集まる人同士がつながる架け橋になればと澤江さんは話していました。

本題のクロストーク(対談)では、根津さんから澤江さんに対して「倉敷市立図書館など、公共の図書館とのつながりはありますか?」との質問も。

倉敷市立中央図書館 近い将来移転の計画がある

現在は公共の図書館とのつながりは無いものの、今後何かしらの形で連携できればおもしろいのではないかという話も出てきました。

くらし・き・になる未来ビジョン

また、成清先生からは自らが委員として活動している「くらし・き・になるエリアプラットフォーム」にて2025年3月に策定した「くらし・き・になる未来ビジョン」についての説明もありました。

おわりに

オランダの国土の25%は干拓によって造られたという部分に、筆者は江戸時代以降干拓によって広大な農地を造成していった岡山との共通点を感じました。

しかし、日本と異なるのは自然環境です。
山河に囲まれ、古くから豊かな自然に囲まれていた日本と異なり、オランダは元々の土地が少なく、山もなければ住むところも農地も満足にありません

そのため、自ら干拓によって広げてきた土地の使い方への関心や、地球温暖化によって干拓地が水没する懸念から、一人ひとりの環境問題への「ボトムアップ」の意識の高さにつながっていったのではないかと感じました。

オランダ・アムステルダムの実例より、倉敷の商店街かいわいについても、空き家などをうまく活用しながら実験的なまちづくりを進めていく余地がまだまだあるようにも感じました。

最近では「阿知フェス」のように町内会にて個性的なイベントを催す事例も出てきています。

市民主体のボトムアップによる多様な視点や切り口から、倉敷の未来がさらにおもしろくなっていくことを期待しています。

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