【パリ五輪開催記念】フランスと昭和とエロティシズム!セクシー系フレンチ歌謡ベスト5
リレー連載【パリ五輪開催記念】フランス関連音楽特集 vol.1
セクシー系のフレンチ歌謡といえば辺見マリ
日本において、フランスとエロティシズムを直結させた最も大きな存在はなんといっても映画『エマニエル夫人』だろう。1974年に製作されたフランス映画は我が国でもその年の暮れに公開され、翌1975年にかけてちょっとしたブームになった。ザ・ドリフターズがコントで “イモニエル(芋煮える)" などとギャグにしていたのが思い出される。音楽を担当したピエール・バシュレの歌によるサントラは日本でも大ヒットして、様々な関連盤が出される中、杉本エマが日本語でカバーしたシングルもリリースされた。これはさすがにストレート過ぎて今回の5曲には入れなかったが、前置きとして記しておかねば。
さて、セクシー系のフレンチ歌謡といえば、まず筆頭に挙げられるのは辺見マリだろう。安井かずみ × 村井邦彦によるデビュー曲「ダニエル・モナムール」は1969年11月リリース。次のシングル「経験」が大ヒットに至るのだが、個人的にはより小粋で洒落たこのデビュー曲の方が好ましい。村井のメロディも川口真のアレンジも極めて洗練されている。
この時代の歌謡曲特有のパヤパヤコーラスに、フランス語の台詞。艶かしい “ジュテーム" に一撃でノックダウンさせられてしまう。この序章がありつつ “やめて~" の強烈なフレーズで振り切った「経験」が広く大衆に受け入れられたのは必然だったと思われる。同じ作家陣では一時引退前のラストシングルとなった「サンドラの恋」もソフトロック歌謡の傑作だが、このタイトルからどうしても連想されるのがフランスのセクシー女優、サンドラ・ジュリアン。彼女が歌った映画主題歌「サンドラの森」も村井が作曲(作詞は山上路夫)しているのだ。
和製シルヴィ・ヴァルタン、奥村チヨ
「私を愛して」のカバーでデビューし、和製シルヴィ・ヴァルタンとして売り出された奥村チヨは、コケティッシュな魅力で、小悪魔という形容が相応しい存在であった。そもそもは東芝レコードで弘田三枝子の後釜として、パンチの効いたCMソングから見いだされた彼女だったが、ストリングスの美しい音色に乗せた穏やかなメロディの楽曲にも伸びやかな歌声が映える。そこで初のヒットとなったのが「ごめんネ…ジロー」だった。
作詞:多木比佐夫、作・編曲:津野陽二によるオリジナルながら妙に洗練されていて、シルヴィ・ヴァルタンやフランス・ギャルのカヴァーと並べても遜色ない感じ。可愛らしいお色気が炸裂した和製ポップスの傑作だ。エロの伝道師、みうらじゅん氏がかつて心酔していたのも納得である。リリースは1965年10月。東京オリンピック後の一時的な不況もなんのその、高度経済成長時代下の太平ムードに満ちている。
不思議と清潔感が漂う由紀さおりのフェロモン歌謡
こういったジャンルで忘れてならないのが由紀さおりの存在だ。彼女とフレンチポップスの絆も深く、映画音楽の巨匠の書き下ろしによる「男のこころ」「恋におちないように」を含むカバーアルバム『由紀さおり フランシス・レイを歌う』などもあるが、ここは岩谷時子 × いずみたくコンビのオリジナルを渋谷毅がアレンジしたシングル曲「好きよ」を挙げたい。
囁くような "好きよ" の連発でお色気過多のフェロモン歌謡であるが、不思議と清潔感が漂うところが歌手・由紀さおりの品の良さを象徴している。大ヒットした「夜明けのスキャット」から数えて4枚目、名曲「手紙」のひとつ前のシングルで1970年2月のリリースだった。ほかに渋谷が "S.リタルド" の変名で作曲を手がけた「陶酔のワルツ」も聴き逃せない1曲。
1973年にスマッシュヒットとなった「あまい囁き」
少々変わり種と言えそうなのが、中村晃子と細川俊之の「あまい囁き」だ。オリジナルは1972年に発売されたミーナとアルベルト・ルーポによる歌唱。翌年のダリダとアラン・ドロンによるフランス語カバー版が世界的なヒットを記録する。これはその日本語カバー版で、1973年8月にリリースされてスマッシュヒットとなった。オリジナル同様、女性が歌い、男性が台詞で掛け合うパターンは一緒である。中村は艶やかに熱唱し、細川も真摯に語っているのだが、作り手側が意図しなかったであろう巧まざる面白さが醸し出されて、後世に珍曲として語り継がれている。もしかすると制作時から確信犯であったのかもしれないが…。
後に細川とドラマで共演したとんねるずが、ラジオで盛んに弄っていたことが思い出される。連発される “パローレ" が、パロディを想起させるのもコミカル化してしまった原因かもしれない。ちなみに中村晃子は、映画デビューが富永一朗の漫画を原案としたエロティック・コメディー『ちんころ海女っこ』だったり、お色気アクションドラマ『プレイガールQ』に出演したりと、セクシー度数が高い女優兼歌手であった。それを極めた大人の歌謡曲が、1980年にヒットした「恋の綱わたり」であったろう。
ジャケット写真の表情もセクシーな木之内みどり
アイドル界隈では、木之内みどりの「ジュ・テーム」。大学生を中心に人気があったキャンディーズ同様、少し上の世代に支持された木之内は、本人の容姿や声質に合わせてか、楽曲もちょっとアンニュイで大人っぽいものが多かった。「ジュ・テーム」は彼女の8枚目のシングルにあたり、1977年4月リリース。
初登板だった佐藤健の曲も松本隆の詞も非常にアダルティ。ジャケット写真の表情もセクシーで、この後出されたアルバム『ジュ・テーム』のジャケ写はさらに攻めていた。アルバム曲は、ジャック・ドゥマルニーやフィリップ・サルドといった、フランスの作詞家や作曲家による作品で構成されており、そこに収録された「ジュ・テーム」は唯一の日本オリジナル曲であった。
アダルト歌謡の集大成、ジュディ・オング「魅せられて」
そうしたアダルト歌謡の集大成ともいえそうなのが、1979年のジュディ・オング「魅せられて」であるが、舞台はギリシャのエーゲ海だった。1980年代になるとフランスの匂いのするセクシー系の曲が見られなくなっていくのは、アイドル・ポップスが主流となりファンも低年齢化していったことに加え、少なくとも歌謡曲においてはセクシーの要素をヨーロッパ方面に求めなくなったからだろうと推察される。
松田聖子の初期のアルバム曲に「Je t'aime」(1981年)という曲があり、どんな曲だったかと久しぶりに聴いてみたら、躍動感たっぷりのナンバーでセクシー度はゼロだった。ほかに丹念に見てゆけばいくつかは拾い上げられるかもしれないが、このジャンルに該当するような曲はやはり1960〜70年代に集中していた気がする。当時小中学生だった世代にとって、今でも『エマニエル夫人』がエロの共通言語として廃れていないのは紛れもない事実なのだ。