二宮さんぽのおすすめ5スポット。個性がゆるやかにつながる小さな町はアーティスティック
湘南エリアの西端にある9.08 km²ほどの小さな町。海はもちろん、山もあり、豊かな自然に恵まれている。そんな環境を求めて、ここ数年で移住者が急増。互いにゆるくつながり合い、自分らしく暮らしているとか。
ずっと愛用したくなる美しき日用品を探して『日用美』
吾妻山の懐にある日用品の店。店主の浅川あやさんは「すべて好きなもの」と笑顔をあふれさせ、器や台所用品、衣類、小物など「長く愛用できるもの、味わい深いもの」を並べる。月1~2回、作家が在廊する展示も。卵専門店を営んでいた母から譲り受けた専用窯で焼く日曜販売のカステラは、すぐ売り切れるので「幻のカステラ」と呼ぶ人もいるとか。
11:00〜17:00、水〜土休。☎0463-68-3380
人々の記憶に残るパンを作りたい『Boulangerie Yamashita(ブーランジェリー ヤマシタ)』
「食べたらなくなる、完成したと思ったらすぐ消えてしまうものをせっせと作るのがいいんです」と店主の山下雄作さん。落花生の甘露煮がごろごろ入ったカンパーニュや、一番人気のシナモンロールなど、来るたびお気に入りが増える。「酵母は、開業前にデンマークの友人がくれた有機栽培のリンゴから起こしました」。
10:00〜17:30(カフェは〜15:30)、水〜金休。☎0463-71-0720
土地の恵みを受け取り、心身健やかに『のうてんき』
月・火はランチ無しのヒーリングカフェ、占いカフェなど。水〜金はビリヤーニゆうこさん(写真右)の薬膳カレーが待っている。リースのように盛り付けたのは、ゆうこさんとこの場所を運営する農家、末永郁さんの採れたて野菜。平飼い卵を育てる川尻哲郎さんもオーナーの一人。「黄身がレモンイエローなのは新鮮な証ですよっ」。
11:00〜17:00(ランチは12:00〜)、無休。☎090-5568-9615
山道を進んだ先にあるものは?『食堂ガラパゴス』
案内板を頼りに山道を分け入ること数分。突如視界に、森と一体化したようなカフェが現れる。「最初は床が抜けていたり、周囲が藪化していたり廃墟同然でした」と、店主の斉藤孝之さん。2022年頃から地道にDIYし、1年半後にようやく店を始めたという。自然の音を聞きながら手作りのカレーを食べる、そんなひとときは格別。
11:00〜16:00LO、月・火休(不定休あり)。
お目当てはコーヒー…だけじゃない!『e:n coffee(エン コーヒー)』
「コーヒー屋と名乗っていますがもはや何でもいいんです」と、店主の岩瀬遼平さん。二宮の原木シイタケや江之浦の柑橘も販売しているから八百屋として利用する人も少なくないし、近所の子供たちはドーナツ屋だと思っている(平日は14時30分頃、土・日は11時と14時頃に揚げたて)。「目指すのは、おいしいコーヒーが飲める地域の便利商店!」。
8:00ごろ〜18:00ごろ、火休。
自分らしくおおらかに、 地に足をつけ生きていく
朝の住宅地にパンを焼く香りがふわり。嗅覚を鋭くして周囲を探ると、開店準備中の『Boulangerie Yamashita』にたどり着いた。近頃ぐんと移住者が増えた二宮だが、店主の山下雄作さんは13年前に家族で引っ越してきた先駆け。
「東京で忙しくしていましたが、消費中心の社会ではなく、穏やかな土地で地に足をつけて生きたいと思いました」
店舗にしている建物は、元の持ち主が美容院として建てたもので、山下さんが発見した時にはすでに老朽化し、物置と化していた。外壁以外はほぼDIYで仕上げたが、工事中は「何ができるの?」と近隣住民がたくさんのぞきに来たという。
「二宮の人は新しいものが好き」
そう教えてくれたのは、『のうてんき』のゆうこさん。好奇心旺盛で自分のスタイルを確立している人が多く、それでいてマイペースなので他者に対して寛容だ。大らかで個性的とは、ある意味ダイナミックでアーティスティック! ゆうこさんは言う、「(二宮のイメージは)カドがない、丸い町」。
穏やかな町で、ゆるやかに人がつながっていく
駅の南口に昔からある『そえだ米店』。「添田さんが、年配のお客さんを車で連れてきたことがあったんです」と、『e:n coffee』の岩瀬遼平さん。どうやら、お客さんがこの店の話を聞いて興味を持ったのでそのまま連れてきたらしい。添田さんは去り際「帰る頃にまた車で迎えに来るから」と言ったとか。「うちもいつかそんなふうに、この町の便利商店になれたら」だなんて、みんなあったかいなあ。
国道1号では、ペンギンの行列に遭遇。二宮が拠点のアートチーム・EASTSIDE TRANSITIONによる壁画で、ワイワイしゃべる声が今にも聞こえてきそうだ。彼らの作品は町内には26点あり(2025年6月現在)、駅の北側では『フルサワ印刷』の壁画が圧巻。葛飾北斎が『冨嶽三十六景』の一つとして梅沢海岸を描いた「相州梅澤左」がモチーフだ。
画中の文字「AREA 8.5」とは、東海道五十三次の8番目の宿場・大磯と、9番目・小田原の中間地点、つまり二宮を含めたエリアのこと。闊歩(かっぽ)するペンギンに感化されて、もっと歩きたくなってきた!
取材・文=信藤舞子 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年7月号より