尾形春水、私の新章のタイトルは「尾形春水11年目の挑戦! ここからとっておきのエピソード」
表現者として新たな活動に臨んでいる人物の現在地に迫るインタビュー連載「new chapter -私の新章-」。
第7回目に登場したのは、尾形春水。モーニング娘。、Youplusでのグループ活動などを経て、現在は新アイドルグループ『タイムラプス』のプロデューサーを務めている彼女は、これからどのようなエンタテインメントを届けていこうと考えているのか。
尾形が、表現者としてのこれまでの歩みと新章への想いを語る。
今を必死に生きてきました
ーー尾形さん自身は、これまでの人生の中での大きなポイントはどこだと考えていますか?
尾形:
今年で芸能生活10年なんですけど、いろんな環境の変化がありました。やりたいことは全部やらないと気が済まないという生き方で生きてきたから、その時々一生懸命で、特にどれが大きかったというのはないですね(笑)。
――気持ち的には、どの時期も同じだったと。
尾形:
2014年にモーニング娘。に入ったことは、まず自分の環境がガラッと変わった1歩ではあったものの、そこから大学に行ったり、YouTubeをやったり、またグループをやったり、アイドルプロデュースを始めたり、その時々でいろんな自分がいて、基本的に全部自分って感じです(笑)。
ーーやりたいことは絶対やるという性格は、幼少期からだったんですか?
尾形:
小っちゃい頃から母親が“やりたいことはやりなさい”と言ってくれて、習い事をいっぱいやらせてくれました。
ーーどんな習い事をしていたのですか?
尾形:
フィギュアスケートと、それと並行してバレエも習って。あと塾に行ったり、習字も習ったり、いろんなことをやっていました。スケートが1番長くて10年間なんですが、その間に中学受験もして。私が本当にやりたいことは応援してくれる家族だったから、今思えばありがたい環境でした。
ーー習い事は、親に勧められて始めたわけではなかったんですね。
尾形:
やれって言われたことはやりたくない性格なので(笑)。自分がやりたいことは頑張るけど、それ以外はこなすだけみたいになっちゃうんです。
ーーモーニング娘。加入に関して、当初お母さんは反対だったものの、尾形さんは自分が決めたことを貫き通す性格なので、説得できないと思って認めたそうですね。
尾形:
関西にある中学〜大学までの一貫校に通っていたから、まずその学校を辞めなきゃいけないとか、今後決まっていた人生の真反対のような方向に行くので、親は心配だったようで。でも、いろんな話し合いをして、“結局ここで諦めたら一生引きずるし、後悔が残るから行ってきなさい”って、東京に送り出してくれました。
ーーそして、高校1年生の時に単身で東京に来たわけですね。
尾形:
最初はなんも考えてなくて、“楽しみ! 毎日竹下通りに行けるやん”みたいな旅行感覚で出てきちゃったから、不安よりも楽しみの方が大きかったんです。でも、生活していくとめっちゃ大変で、ホームシックになったりしました。
ーーその時、どうやって気持ちを切り替えていたんですか?
尾形:
母親が東京に遊びに来てくれたり、お休みの日の大阪に日帰りしてました。ホームシックにはなってたけど、毎日が忙しすぎてくよくよしてられない感じでした。
ーー普通の高校生が、いきなりトップアイドルのモーニング娘。のメンバーになったわけですから、パフォーマンス面でも壁に当たったのではないですか。
尾形:
それまでダンスと歌をやったことがなかったから、そこの壁はもちろん大きくて。入る前からわかっていたところもあったけど、メンバーが裏でしているすごい努力があのキラキラなステージを作ってるっていうことまではわかってなかったから、入ってみて現役メンバーのことをより尊敬したし、さらにモーニング娘。のことが好きになりました。あと、モーニング娘。って、すごい歴史が長いじゃないですか。楽曲数もめちゃくちゃあるから、知らなかった曲とかもあって、そこで歴史の重みを感じて。曲を覚える時に過去の先輩方のリハ映像を観ることもあって、こうやってみんなが頑張ってきたから今があるんだということを知りました。
ーー歴史のあるグループだからこその難しさはありますよね。アイドルグループの中では、いちメンバーとして調和を取りながら、自分の個性も出さないといけないと思いますが、尾形さんは、そのバランスについてどう考えていましたか?
尾形:
それをめっちゃ悩みました。自分はけっこう後輩の期間が長かったのですが、その後輩キャラだけじゃ太刀打ちできないことがあって。ほかのメンバーは先輩ではあるけどライバルでもあったから、一生懸命食らいついていかないといけなかったです。ファンの方にも、いろいろなアイドルさんがいる中で、どうやったら自分を選んでもらえるのかということで悩みました。
ーーその悩みはどうやって解消したのですか?
尾形:
アイドルって、ダンス、歌、ビジュアル、キャラクターなど、いろんな要素が重なり合って、その子の魅力が出来上がるじゃないですか。でも、私はダンスに苦手意識があって……もちろんついていく努力はしたけど、誰かに勝てるとか思えなくなった時期があったんです。その時、ファンの方に“ビジュアルメン”だって、ビジュアルを褒められたことがあって。それで、“ダンスと歌ができなくても、ビジュアルを磨けば個性になるんだ”って思ったんです。そこから私も初めてダイエットをして、めちゃくちゃやりすぎて大変だったんですが(笑)。でも、ファンの方が痩せて可愛くなったって言ってくれたことがあって、“痩せているのが可愛いんだ。痩せれば、個性になるんだ”みたいな感じで、スタイルで1番になろうみたいな不思議な方向に行っちゃったんです。その後は痩せたり、ちょっと拒食症っぽくなったり、リバウンドで太ってしまったりということをくり返してしまいました。
ーー体型に意識が向きすぎて、大変な経験をしたんですね。
尾形:
人が思っている以上に自分が肯定されたい、認められたいみたいな感覚でそうなってしまったのは失敗談でもあります。でも、そういうアイドルさんって少なくないじゃないですか。グループを卒業したあと、“見た目にとらわれずに、そのほかにももっといいところがあるし、ファンの方ももっといいところを肯定してあげてください”ということをYouTubeで発信したら、全然知らないアイドルの子から、“それに悩んでて、救われました”ってDMをいただいたんです。自分の経験談を語って本当によかったなって思っています。
ーー中西香菜さん(元アンジュルム)、川後陽菜さん(元乃木坂46)、林田真尋さん(元フェアリーズ)とともに結成したYouplusも、アイドルのセカンドキャリアの道を作りたいという想いのもと結成したんですよね?
尾形:
そうですね。Youplusは2年で解散しちゃったんですが、Youplus以降、元アイドルの子が集まったグループが増えていったような感覚があるので、“こういう形もあるんだよ”ということを少しは示せたのかなと思います。
大学でも視野が広がって、また違う世界が見られると思っていました
ーー過去のアイドル活動の中で楽しかった想い出は何ですか?
尾形:
私、握手会がめっちゃ好きだったんです。中学校の時とかは、仲がいい友達数人としかしゃべらないぐらい、人とコミュニケーションを取るのが苦手だったんですが、アイドルになって、握手会でいろんなファンの方としゃべるようになって、内気だった性格が明るくなりました(笑)。コンプレックスもめちゃくちゃいっぱいあったんですけど、ファンの人がそういうコンプレックスも“めっちゃいいね”みたいに言ってくれたりしたので、自分のことが好きになれましたね。歌やダンスには苦手意識があったけど、ファンの方が“握手会では神対応”とか言ってくれたり、“握手会といえば(尾形春水)”みたいなメンバーにしてくれて、自分の中で握手会は輝ける場所というイメージがあります。
――握手会でファンに喜んでもらうために気を配っていたことはどういうことだったんですか?
尾形:
握手会って、数秒の間で会話をして気持ちを通じ合わせないといけないじゃないですか。しかも、しゃべりたいタイプと、あまりしゃべりたくないというか言葉が出てこない人もいて。出会った一瞬でそれを見極めて、この人は多分話したいことがあるなって思ったら、黙ってお話しを聞く。でも、言葉がなかなか出てこないタイプの方の時には、自分から話を振るようにしていました。あと、当時ファンの方が握手会のレポをツイートしていたので、その感想や話した内容を携帯にメモしていました。
ーーそんな握手会でも手応えを感じていたモーニング娘。を、大学進学を理由に卒業するというのは大きな決断だったんじゃないですか?
尾形:
地元に居続けていたら行くはずだった大学があって、当時、同級生もみんな大学生になっていたので、選ばなかった道での自分の姿がリアルに見えていたんです。“今は大変だけど充実感もあって楽しい。でも、アイドルと学業の両方をやりたい”って思っちゃったんです。それで大学受験をして短大に受かったんですけど、めっちゃカリキュラムが忙しくて。その後の(4年制大学への)編入まで見越していたから、取る単位数も多くて、アイドルとの両立はできないって思いました。私の学業を理由に十数人いるグループの仕事をズラしてもらうのも、めちゃくちゃ申し訳ないですし。そこでどちらかを選ばなければとなって、私は大学を選びました。
ーーそこで大学を選んだのは、すごいですよね。
尾形:
モーニング娘。の活動期間はそれほど長くなかったけど、充実してたし、成長もできたので、やりきった感覚がありました。あと、基本的に表に出るのが好きではない性格なんです。現役時代から、動画編集や企画など裏方のお仕事にもけっこう興味がありましたし。でも、当時はそんなことをする余裕もなくて。モーニング娘。でもすごい世界が見られるけど、大学でも視野が広がって、また違う世界が見られると思っていました。
ーー裏方の仕事が好きだから、アイドルプロデューサーになろうと思ったのですか?
尾形:
その気持ちもあります。でも、1番大きかったのは、Youplusが2年間で解散してしまったことです。大学を卒業して就職をする道とYouplusで頑張る道があって、当時はメンバー4人で頑張ろうという感じで活動していたので、“じゃあ就職じゃなくて、Youplusで活動していこう”と決めていたんです。でも、解散になってしまい、ずっとあると思っていたステージがなくなってしまったんです。
ーー青天の霹靂だったんですね。
尾形:
突然ステージがなくなった時に、ファンの人と会える場所やライブに出られることがすごくありがたいことだったとか、メンバーが一緒にいてくれることがかけがえのないことというのを改めて感じて。それで、アイドルが安心できる環境や、ステージを守れるようなグループを作りたいと思って、プロデュースをするという決断をしたんです。Youplusのあとは表に出るのはやめようって思っていたから、世代交代じゃないけど、新しい子たちに自分が見てきた景色を見せたいという気持ちがありました。
ここを選んでくれたから、一緒に頑張りたい
ーーアイドルプロデューサーになると決めてから、どのような行動をしたのですか?
尾形:
Youplusが2023年9月3日に解散になって、10月1日からオーディションの応募を開始していました。今年9月3日にデビューライブなので、生まれ変わるじゃないけど、そういうスケジュール感で進めていましたね。アイドルプロデュースは、全部自分でやりたいっていうのがあって。今までは事務所に入るとか、誰かにプロデュースしてもらうことが多かったから、決定権を全部自分で持って進めたことは今回が初めてなんです。だから、9月3日をデビューライブにしたのも、私がそうしたいと決めました。
ーーオーディションは、順調に進みましたか?
尾形:
想像以上に大変でした。オーディションあるあるらしいのですが、突然連絡が来なくなってしまう子や、親の理解が得られずに辞退する子、ほかのオーデションに受かった子などが現れて。この期間中に、すごい数の人に振られたみたいな感じがあって、ショックでした(苦笑)。でも、いろんな人の想いを乗せて走ってきたオーディションだからこそ、メンバーになった5人にはめっちゃ感謝してるし、信頼してついてきてくれたから、私が責任を持って一緒に頑張ろうっていう想いは強まりました。オーディションに残ってくれることは当たり前じゃないし、みんな若いし可愛いし、いろんな選択肢がある中で、ここを選んでくれているから、一緒に頑張りたいなと思っています。
ーー尾形さん自身もオーディション期間で成長できたのではないですか?
尾形:
めっちゃ成長した気がします。私、1人っ子なので、年下が苦手っていうか、どう接すればいいのかわからない状態から始まってて。友達も年上か同い年しかいなかったから、年下で、しかも10代の子もいて、最初はどう会話したらいいのかわからなくて逃げてました(笑)。でも、メンバーたちが明るくて盛り上げてくれるじゃないけど、めっちゃ話しかけてくれたんです。“尾形さん、尾形さん”って来てくれるようになって、自分も心を開けるようになりました(笑)。
ーー元アイドルのプロデューサーということで、自分の経験をメンバーに伝えていくことができますが、時代の変化によって、自分が現役時代に教わったアプローチを、そのまま今のアイドルたちに使うことができないこともあるのではないですか?
尾形:
それはすごく思います。だから、私の常識が通じないっていうか、そうじゃないみたいな場面がめっちゃあります。
ーー自分の常識が使えない中、どうやってメンバーを引っ張っているのですか?
尾形:
それは現在進行形で悩んでいることではあるんですけど、メンバーがわからないことがあった時に、1回目はきっちりと教える。で、“2回目からは当たり前にできるようになろうね。これは言われなくてもできるのが、この世界のルールですよ”って、優しく伝えるようにしています。これは今も難しいなって思ってることですね(笑)。初期メンバーでできているグループだから、先輩の真似もできないじゃないですか。先輩という立場は私しかいないから、私が背中で見せるのですが、それをどこまで見てくれているのかわからなくて。だから、伝えたいことは丁寧に話すように心がけています。
ーー尾形さんの中での理想のプロデューサー像とは、どういうものですか?
尾形:
女性のプロデューサーだから、アイドルのこと関係なく、メンバーのメンタルケアができるような人になれたらって思っています。自分はアイドル活動の中で悩みとかめちゃくちゃあって、我慢したり、ご飯をたくさん食べて発散したりみたいなことをしてきたから、タイムラプスのメンバーにはそういうことをしてほしくないなっていう想いがあります。“悩みがあったら、すぐ相談してね”とか、意識的にコミュニケーションを取るように心がけています。
ーー尾形さんの人生って面白いですね。歌とダンスに苦手意識がありながらアイドルになり、年下とのコミュニケーションが得意ではなかったのに現在はアイドルプロデュースをしています。
尾形:
そうなんです(笑)。しかも、自分からそこに飛び込んでいっちゃっていて。周りにも助けられていることもあって克服できていますし、めちゃくちゃ成長もできているので、いいことではあるのかなって思います。
ーーアイドルプロデューサーといったらクリエイティブな仕事じゃないんですか。尾形さんの中で、アイディアが生まれやすい環境はありますか?
尾形:
私、サウナ遠征とご飯を食べることが好きなんですが、サウナとグルメっていう何も考えずに無になれる瞬間に、アイディアが自然と浮かんでくることがあります。タイムラプスっていうグループ名も、1人で焼肉屋で冷麺を食べている時に、銀の器を見てて思いついたんです(笑)。“明日までにこれ考えなきゃ”みたいに考えすぎている時って何も生まれなくて、普通に生きている時の方が浮かぶ気がします。
タイムラプスと尾形春水に出会って、人生楽しくなった人が増えればいいな
ーータイムラプスは、どういうグループにしていきたいと考えていますか?
尾形:
私が見た景色にメンバーを連れて行きたいっていうのがあって。でも、メンバーは目標が東京ドームとかすごいでっかいことを言ってくれるんです。私が当初思っていたよりも大きい目標を持ってグループに入ってきてくれたから、“じゃあ一緒に叶えよう”って思っていて。メンバーに引っ張ってもらって、より大きな目標が達成できたらなと。あと、私はアイドルになって人生も性格もめっちゃ変わったから、そういう子を1人でも増やせたらと思っています。それこそメンバーの加藤みゆちゃんはとてももの静かで、オーディションの時は全然しゃべらなくて、泣き出しちゃうみたいな感じの子だったんですけど、グループに入って上京してからどんどん明るくなって、ファンの方とのコミュニケーションもすごい楽しそうにしています。ファンの方に対しても、タイムラプスに出会って、尾形春水に出会って、人生楽しくなったみたいな人が1人でも増えればいいなって思っています。
ーー現在アイドルにはさまざまな形がありますが、尾形さんの中での理想のアイドル像はどういうものですか?
尾形:
私が心がけているのは、例えば尾形春水だったら、尾形春水というキャラクターで完璧に居続けること。ちょっとポンコツとか、ちょっと歌ができないとか、そういうことも含めて、尾形春水というキャラクターがあって、それを完璧にファンの方に見せ続けることが大事かなと。歌やダンスが上手にできることが完璧じゃなくて、みんなの前でキャラクターをずっと見せ続けられることが大切だと思っています。
ーーそれは、ファンに対する誠意がないとできないことですよね。
尾形:
ファンの方に出会って自分が変わったという体験があるから、ファンの方はかけがえのない存在ですね。逆にアイドルになってなかったら、今何してるんだろう?みたいに不安になります。
――人生を変えた職業ですね。
尾形:
そうですね。ホントに感謝してるし、よかったですし、生まれ変わっても同じ道を歩みたいと思っています。
ーー今後の人生については、どういうイメージを持っていますか?
尾形:
タイムラプスを大きくして、私を知らない人がタイムラプスから入ってきてくれるようにしたいです。私を知ってる人も“これ、尾形春水がプロデュースしているグループなの?”っていうような広がり方が目標。私が追いつけなくなっちゃうぐらいのグループになってほしいですね。
ーーありがとうございます。それでは、それでは、最後に現在活動中の尾形さんの新章のタイトルを教えてもらえますか?
尾形:
「尾形春水11年目の挑戦! ここからとっておきのエピソード」です。私が新章で一緒に頑張っていく『タイムラプス』の無限シグナルという楽曲(尾形が初作詞に挑戦)では、オーディションでメンバーに出会った時にときめいた気持ちを歌詞にこめています。これからタイムラプスに出会うみなさんもきっと同じ気持ちになるはず!(笑) その歌詞の中にある《ここからとっておきのエピソード》を、私もメンバーもファンのみなさんにも見せられるようにと願いを込めて新章のタイトルにします!
<タイムラプス デビューライブ 〜G!VE ME FIVE〜>
日時:2024年9月3日(火)OPEN 18:15/START 19:00
会場:恵比寿CreAto