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玩琴趣談9 日本人好み?冠婚葬祭に欠かせない「あの音」〜嗩吶(チャルメラ)

東京ディープチャイナ

玩琴趣談9 日本人好み?冠婚葬祭に欠かせない「あの音」〜嗩吶(チャルメラ)

東京都内湯島聖堂や福島県いわき市で二胡や広東高胡、中国音楽のレッスンをしている安西創です。そんな私が中国の楽器をちょっとだけディープに紹介する「玩琴趣談」の9回目。過去には第1回「笛子」に始まり、「小三弦」「高胡」「笙」「琵琶」、中国の尺八「洞簫」「古筝」、そして前回は「管子(篳篥)」をご紹介して来ました。各回楽器についてスポットを当てた記事はアーカイブがアップされています。ぜひ合わせてご覧ください。そして記事を読んだ情報の断片が少しでも頭に残って、今まで何気なく聴いていた民族音楽や、そこに使われている楽器の輪郭を以前よりくっきりと浮かび上がらせたり、その背景の文化にも興味を持って頂くきっかけになれば幸いです。

実は日本人好み!?伝わったけど途絶えた「あの音」

さて、今回の主役はいわゆる「チャルメラ」です。日本では夜鳴きそばのラーメン屋台の「チャララーララ」の「あの音」として知られています。明星食品の「チャルメラ」というインスタントラーメンのパッケージには今でも楽器を手にした「チャルメラおじさん」の絵が画いてありますね。中国語では「嗩吶(さとつ・Suona)」と呼ばれる西域起源の管楽器で、全国各地で広く使われています。

「例のヤツ」

https://www.youtube.com/embed/Yp10Lo0WfDs

日本にも清楽(しんがく)※の楽器に「唐人笛(とうじんぶえ)」として伝わりましたが、残念ながら今は廃れてしまいました。同系の楽器は日本では失われてしまいましたが、中国では今でも盛んに演奏されています。今回この楽器を取り上げたのには特筆すべき事情がありまして、実はここ半年ほど私のところへチャルメラについての問い合わせが増えているのです。そして、それを裏付けるかのように私のYouTubeチャンネルの検索ワード第一位は何とチャルメラ。そして動画の再生回数もチャルメラを扱ったものが一番多いのです!「中国語ができなくて教本も読めないし、調べ事にも行き詰まっているので、知っている事だけ良いから教えてください」と私が嗩吶の専門家ではないことを承知で通って来ている熱心な生徒さんまでいます。もしかしたらもっと日本人の目に触れれば案外我々好みの音色なのかも知れません。遥か離れたキューバ音楽の中には、一部中華系移民との接触からチャルメラをTrompeta China(中国のトランペット) と呼んで土着の音楽に取り入れているものもあるので、将来日本でも新しいジャンルが生まれる日が来るかも知れないな…そんな予感も持ちつつの弟9回となっております。最後までお楽しみください。

※清楽
長崎の出島経由で伝わった月琴を主奏楽器とする中国音楽のこと。幕末には大流行をしたものの日清戦争を境に敵性音楽として衰退しました。これらは日本の音楽にも深く多大な影響を与えた重要な曲群で、少数ながら今でも長崎には保存会がありますし、東京には稲見恵七氏が率いる清楽の集まりがあります。時折演奏会なども行われていますので興味のある方は調べてみてください。

民族楽器界の「ごろつき」!?

中国楽器有数の大音量で知られる「嗩吶」。まずはどんな楽器なのか見てみましょう。香港中樂團による楽器のデモンストレーションより

https://youtu.be/m9YMuTH3aJM?si=zx0HciTeR0n8cus8

嗩吶はオーボエやファゴット同様に芦または麦藁の振動体「リード(Reed・中国語では哨片と言います)」が振動して音がする「ダブルリード」の楽器です。

別名「喇叭(らっぱ)」というのも頷ける外観。この金属製の広がったパーツで音を拡大拡散します。前面の穴は7つ

お椀の部分は取り外せます。これには意外と皆さん驚かれます

裏側から。親指で押さえる穴が一つ空いてます

音が大きく通るので、冗談混じりに民族楽器界の「流氓(liuman・ゴロツキの事)」などと言われることもあります。私の笛子の師匠は、音楽学校時代寄宿舎の同部屋が嗩吶の人で「部屋で吹かれたら本当にうるさくてたまらなかった」と耳を塞ぐジェスチャーをして笑っていました。 

「爆音」の元になるリード。左は芦製、右は樹脂製。日本では材料の入手が困難な事もあり既製品を購入しています。樹脂製の物は植物由来のものより耐久性に優れた面もあるように思いますが、やはり音楽上の細かいニュアンスの表現には、アシで作った本来のリードが良さそうです

その明るく大きな音色を生かして道教などの宗教行事で主奏楽器になったりお葬式や花嫁行列など冠婚葬祭に欠かせない音色として広く中国人の脳裏に刻まれています。1987年の映画「ラストエンペラー」の中には婚礼のシーンで嗩吶が賑やかに座を盛り上げる光景が出て来ます。起源については諸説ありますが「スルナイ」あるいは「ズルナ」などと呼ばれるペルシャやアラビアなど西域の楽器が漢化したものと考えられていて、もっとも古いとされる主張は東晋にまで遡ります。但し、当時はまだ「嗩吶」という名前による記述ではありませんので、疑問を呈する研究者もいるようです。時代降って明代には嗩吶の表記も増えて間違いなく全国的にかなり広く普及していたようです。ただし、そこは中国。広大な国土のお陰で同じ漢民族であっても文化は様々です。また純粋な器楽として演奏されるだけでなく、京劇など伝統演劇の楽隊が場面描写(軍営など)の一環として一部に嗩吶を使用することもあり、地方によっては呼び名も「大笛」「喇叭」「曖仔」などバリエーション豊かです。

まずは恐らく一番有名な独奏曲「百鳥朝鳳」から。

https://youtu.be/TDOdMNe2JIM?si=pNotIBhU5BNvCRX2

奏者がテクニックを駆使した様々な鳥の鳴き真似が入って耳に面白く親しみ易い曲です。中国には「百鳥朝鳳」以外に鳥や鳴き声をモチーフにした曲は他にもあり(二胡「空山鳥語」や広東音楽「鳥投林」、口哨独奏「鳥語花香」など」)、中国人が鳥の声を愛する伝統は鳥籠を提げて公園や茶楼に散歩に来る人々の姿にも見る事ができますし、香港出身の友人も日本に住んでから何かが足りないと思っていたら、ある日窓を開けても香港ほど鳥の鳴き声が聞こえない事に気付いたと言っているくらいなので、鳥の声が音楽にも取り入れられているのは極く自然なのだと納得が行きます。因みに嗩吶は口の操作で音程の上げ下げの自由が利くので鳥の声以外にも、効果音的に人の話し声の真似や馬の嘶きなんかも担当します。

「百鳥朝鳳」をオーケストラとチャルメラ独奏で。また違った味わいです

https://youtu.be/XIIzvnFgIYQ?si=5shjNX_De23-7pjB

こちらは安徽省鳳陽県の吹打楽(すいだがく・Chuidayue)、「鳳陽嗩吶」から。この「吹打楽」というのは打楽器と管楽器のアンサンブルの事で、全国各地にローカル色豊かな吹打楽が数多くあります。

https://youtu.be/1GE1xjsmErw?si=JaXs9pJuiwcyPED2

こちら所変わって台湾の「北管」。廟会など道教の祭礼で演奏される事が多いですが、日本との比較としては笛や太鼓の祭り囃子みたいなものだと思えば分かりやすいかも知れません。子どももたくさん参加していて世代を超え伝統を継承している様子はとても素晴らしいですね。

https://youtu.be/wyl-NBs14YA?si=CDam3KxOjM44SKNd

また、香港のアクション映画などにも時々BGMとして登場する、広東音楽の有名曲「得勝令」は嗩吶が主奏の代表曲です。他に「将軍令」という曲にも用いられますが、戦(いくさ)関連の描写に用いられる事が多いようです。

https://youtu.be/ZvK1S-lwE1M?si=DqvdkS0qO7LWree0

南北様々なスタイル、大小の異なった編成の音楽に使われるチャルメラこと「嗩吶」を見て来ました。とても全ては紹介し切れませんが、興味がある方はぜひ色々と調べてみてください。まだまだ色々な様式がたくさんあります!

私が主宰する音楽教室は「中国音楽の小学校」と銘打っていて幅広い分野についてレッスンしています。新規生随時募集中ですので二胡を始めとする中国音楽に興味のある方はぜひご連絡ください。現在受け持っている稽古場は、東京都内自宅防音室(個人レッスン)、国史蹟「湯島聖堂」芸術講座「二胡入門」(グループレッスン)、いわき二胡教室(個人、グループ)です。お問い合わせお待ちしています。

二胡・高胡、中国音楽教室「創樂社」
https://r.goope.jp/sougakusha/

中国音楽の小学校「創樂社」 主宰
安西創(あんざいはじめ)

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