太陽のもとで人々も海も輝くために 進化を止めないアネッサの取り組み
私たちに欠かせない日焼け止めが、海の生態系へ影響を及ぼしている現実
日焼け止めのルーツとなる製品が日本で誕生したとされるのは、いまから100年以上も前の1923年のこと。以来、私たち人間は日焼け止めを日常に取り入れ、現在は当たり前のように使用している。
ところが近年、日焼け止めが海に悪影響をおよぼすのではないかという指摘が注目されている。
例えば、米国科学アカデミーでは2022年、日焼け止め成分の使用と環境への影響に関する研究を発表。日焼け止め成分に含まれるケミカルな成分が、サンゴ礁をはじめ、海洋生物へ有害となる可能性があると指摘した(※2)。米国海洋大気庁のサイトによると、日焼け止めを使用した人が海で泳いだり、シャワーを浴びたりして、日焼け止めが流れ出る可能性を指摘している。
ハワイ州では、世界に先駆けて2018年に日焼け止めを規制する法律を制定。2021年1月からは、問題視されているオキシベンゾンやオクチノキサートを含む日焼け止めの販売を禁止している(※3)。ほか、パラオやメキシコの自然保護区域などでも、各国・地域ごとに日焼け止めの規制を実施。世界では、豊かな海を守るために日焼け止めを制限する動きが出ている現実がある。
海に流れ出にくい アネッサの「オーシャンフレンドリー処方」
日本では日焼け止めに関する規制はとくに設けられていないが、日焼止めによる環境への影響を最小限に抑えようと、メーカーが研究を進めている。そのリーディングブランドのひとつといえるのが、「オーシャンフレンドリー処方」をはじめ、積極的に環境に配慮した日焼け止めの開発を行っている「ANESSA(アネッサ)」だ。
アネッサの取り組みについて、グローバルプレミアムブランド本部 アネッサグローバルブランドユニット DX&ヒーローコミュニケーション グループマネージャーの宮下麻子氏に話を聞いた。
オーシャンフレンドリー処方とは、サンゴの影響に配慮し、日焼け止めに使われている成分が海に流れ出にくい処方のこと。耐水性の高さが特徴だが、UV耐水性を表すいわゆる「ウォータープルーフ」とは、また別物。海への流れ出にくさは、化学物質の生物へのリスクを測るために行政の研究でも使用されている「東京湾リスク評価モデル」を用いて検証した。
自社製品との比較も行い、海へ流れにくいことを確かに証明したうえで、市場に送り出されている。海のことを考え、環境に配慮した日焼け止めであることを表す指標といえる。
「オーシャンフレンドリー処方は、もともと『海に流れにくい処方』と謳っていました。採用した製品の初登場は2020年のことです」と、宮下氏は振り返る。
2020年の発売に先駆けて、開発は2〜3年前からスタートしていた。これは、ハワイ州で日焼け止めを規制する法律が制定されたのと同時期。つまり、日焼け止めの海への悪影響が国際的に指摘され始めた当初から、製品化を念頭に置き、準備を進めていたのだ。琉球大学やスタートアップ企業との共同研究を経て、オーシャンフレンドリー処方が確立した。
現在、9製品あるアネッサのラインアップのうち(2024年11月時点)、主力6製品にオーシャンフレンドリー処方を採用している。
“たった2つの成分”を配合しない難しさ 2022年に金ミルクへの無配合を実現
オーシャンフレンドリー処方に加え、資生堂では2022年に、“金ミルク”として親しまれる主力製品「アネッサ パーフェクトUV スキンケアミルク NA」において、オキシベンゾン・オクチノキサートの2成分の無配合を実現した。
2024年現在、オーシャンフレンドリー処方採用の6製品にこの2つの成分は含まれていない。日本で日焼け止めの成分規制がないなかでの実現には、世界規模で展開する資生堂ブランドとしての強い使命を感じる。
日焼け止めを構成する数十もの成分から「2つの成分を取り除く」とだけ聞くと、一見簡単なことのように思えるが、決してそうではない。
「問題視されている2つの成分は、紫外線吸収剤として非常にベーシックなもの。『抜いて大丈夫』という成分ではありません。日焼け止めはひとつの成分を変更するだけで、全然違うものになるくらい繊細です。だからこそ、効果を担保しながら心地よい使用感をキープできるよう、日々研究を行っています」
アネッサは、今後も地球環境に配慮した製品開発を突き詰めていく。現在注目されている2成分に限らず、さまざまな可能性を考えながら研究を進める方針だ。
効果、使用感、環境配慮……日焼け止めを選ぶポイントは?
日焼け止めは、とにかくラインアップが豊富。アイテムごとに使用感や技術、効果がさまざまで、どれを選べばいいか迷うことも多いだろう。近年は、環境配慮の観点も加わり、ますます選択が難しくなっている印象だ。
日焼け止め選びのポイントを聞いてみると、「まずはどれだけ崩れないかが重要」と、宮下氏。そしてこう続ける。
「肌にUVブロック膜をつくることにより紫外線から肌を守るという特性上、いかに崩れないかが効果の度合いにかかわります。例えば、アネッサの金ミルクでは、本来崩れの原因である汗や熱を逆手にとってUVブロック膜を強くする『オートブースター技術』に加え、表情によってできるヨレを自動で修復する『オートリペア技術』を採用しています。崩れにくい日焼け止めは『日焼け止めを塗ったのに、焼けてしまった』ということを回避できます」
使い心地のよさやテクスチャー、容器の扱いやすさもポイントになるが、好みによるところが大きい。近年は、スキンケア効果を付与したタイプがトレンドだという。「コロナ禍以降、スキンケア意識の高まりもあり、きれいな肌を保つために日焼け止めをご使用いただくことが増えています」。毎日使うものだからこそ肌にとってよいものを、という考え方が広まりつつあるそうだ。
さらに、これからの時代は、環境配慮のことも考えていきたい。「サンゴ礁に影響を与えないと謳っている製品は、万一海に流れ出た場合にも影響を少なくできます」と宮下氏は話す。
「ぜひ、パッケージなどに想いを込めて記載しているメッセージを受け取ってほしい」とのこと。アネッサでいうと、「隙なく守り抜く!」や「2つの技術を搭載」などである。オーシャンフレンドリー処方のロゴマークも、私たち生活者へのメッセージとして考えられたものだ。
アネッサでは、森林保全の観点から製品の容器包装に使用する紙を100%認証紙または再生紙を採用。ボトルには分離可能な単一素材を採用するなど、リサイクル性に配慮している。また、アネッサ製品の全生産を担う福岡・久留米工場では、駐車場に太陽光パネルを設置。100%再生可能エネルギーで電力をまかなっている。そんな取り組みに注目して、日焼け止めを選ぶというのもいいだろう。
人々が地球上で幸せに生きるため これからも、太陽がある限り進化する
1992年のブランド誕生から32年、資生堂としての紫外線研究の歴史は100年以上におよぶ。「日焼けがかっこいい時代」から、「美白を重視する時代」、そして「日焼け止めでスキンケアをする時代」へと、日焼け止めの立ち位置は、幾度となく移り変わってきた。
「時代のニーズに合わせて、成分やテクスチャーの改善は随時行います。ただ、アネッサにとって、技術は根元にあるもの。時代にとらわれず守っていくべきものです」と、アネッサの揺るぎない部分を宮下氏はこう語る。
もうひとつ大事にしているのが、「Free to Shine:太陽のもと、誰もが輝き続けられる世界へ」というブランドパーパスだ。
「ビタミンDの生成や子どもの発達促進など、太陽から得られる恩恵はたくさんあります。しかし、太陽には紫外線というネガティブな側面があるのも事実です。日焼け止めを適切に使うことで、太陽の恩恵をすべての人が余すことなく享受できるようにしたいと、私たちは考えています」
年齢や性別、肌タイプ、障がいの有無にかかわらず、誰もが使いやすいインクルーシブな日焼け止めを目指して、日々試行錯誤しているそうだ。
アジアの子どもたちをサポートする「ANESSA Sunshine Project」が始動
ブランドパーパスを体現させるべく、2024年からスタートしたのが「ANESSA Sunshine Project」。“SUNステイナブル”な世界を実現するための「For the People」の活動の主軸となるものだ。
アネッサでは2018年度から小学生への「日焼け予防教育授業実践」を行い、紫外線がおよぼす影響や日焼け対策の必要性を子どもたちに伝えてきた。2021年度からは早期教育の一環として、幼稚園や保育園への啓発活動を開始。紫外線を浴びると激しい日焼けや神経症状が現れる指定難病「色素性乾皮症(XP)」患者への製品提供も続けてきた。
ANESSA Sunshine Projectは、これらの活動の輪をさらに広げるために展開するグローバルプロジェクト。上述した「教育」「支援」に、「体験」を加え、3つの軸で構成されている。
新たに加わった体験の活動では、日本サッカー協会(JFA)と共同で、日本や東南アジア、中華圏の12の国・地域の子どもたちに身体を動かす場を提供する。ゆくゆくは、それぞれの地域で活動が自走できるように土壌をつくっていきたいという。2030年までに約30万人のアジアの子どもたちを支援するのが目標だ。
「Free to Shineは、アネッサのすべての活動の最終目的」と、宮下氏は話す。大前提として、地球環境が整うからこそ人々が輝ける。だからこそ、アネッサでは地球環境のため、人々の健康のための両方の活動に重きを置いている。
すべての生命の源ともいえる太陽。そんな太陽のもと、アネッサが目指すのは「人も地球も、輝き続ける世界」だ。日々進められている技術の開発と、紫外線や日焼け止めの理解を広める教育活動を行いながら、サンケアにおける資生堂の基幹ブランドのひとつとして、アネッサの取り組みは今後も続いていく。
※1 ユーロモニター調べ;ビューティ&パーソナルケア2024年版;2023年総小売販売額アジアとは同社が定義するアジア太平洋地域を指す
※2 Skincare Chemicals and Coral Reefs|National Ocean Service
※3 【学ぶハワイ】ハワイの海を守ろう!|allhawaii
取材・執筆/吉田友希 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)