子どもの話し声が大きいは要注意! 耳が聞こえていない可能性があるかも【耳鼻咽喉科専門医が解説】
話し声が大きい、話をよく聞き返してくるなど、子どもの日常的な仕草などを癖としてとらえている親御さんは多く、病気と認識する方が少ないのが現状です。耳鼻咽喉科専門医の工藤典代先生が、耳・鼻・のどの病気を見抜くポイントと、日常生活の注意点を紹介します。
【耳鼻咽喉科専門医が解説】➡耳の構造を画像で見る話し声が大きかったり、ことあるごとに耳を触っていたり……。耳・鼻・のどまわりに見られる仕草や様子は、子どもの癖としてとらえている親御さんは多いでしょう。しかし、気を付けていても、注意しても子どもがその癖をやめなかった場合は、病気のサインということもあります。
日常に埋もれている子どもの仕草から、耳・鼻・のどの病気を見抜くポイントを耳鼻咽喉科専門医の工藤典代(くどう ふみよ)先生が解説します(全3回の2回目)。
親が子どものときに耳鼻科通い。体質傾向は我が子に遺伝している可能性が
耳鼻咽喉科専門医として長年、診療にあたっている工藤先生は、子どもを診ていると、付き添っている親御さんから自分も子どものころによく耳鼻科に通っていたという話を聞くそう。
「今のクリニックで中耳炎が治りにくい子を診ていると、付き添いの父親が、かつて私に中耳炎の手術をしてもらった経験があると話してくれたこともあります。
親御さんがもし、子どものころに中耳炎を繰り返していたとか、鼻が悪かったというのであれば、粘膜や細胞の働きの傾向が我が子も似ている可能性があるので、より注意してあげるといいでしょう。
現在は感染状況の変化もあるので、必ず体質傾向が原因だ、とまでは断言できませんが、家系を踏まえることも子どもをよく観察する、あるいは病気に気づくきっかけになります」(工藤先生)
【こんな耳の症状に注意 ①】プールも原因!? 耳がくさい場合に考えられる病気
耳がくさいという症状は、割合的には幼い子に多く見られます。
急ににおいが気になった場合は、耳漏(じろう/耳だれのこと)や耳の炎症を考えましょう。
また、溜まっていた耳垢(じこう/耳あかのこと)が、プールの水でふやけてくさい場合や、耳の周辺を洗っていないためににおうこともあります。
耳がくさい以外に見られる、子どもの様子
耳漏が出ている、耳を手で押さえる、機嫌が悪いなど。
疑われる主な病気
中耳炎(急性・慢性など)、外耳炎など
対処法
耳漏が出ていたり、耳を手で押さえる仕草が見られた場合は、耳の聞こえにも影響する急性や慢性の中耳炎、外耳炎が考えられます。耳痛を子どもが訴えているなら、耳の周囲を冷やしてあげましょう。どの症状も、耳鼻咽喉科の受診が必要です。
耳垢が溜まっている場合も、耳鼻咽喉科で耳掃除をしてもらうといいでしょう。耳の周辺が汚れている場合は、入浴の際に清潔にしてあげてください。
中耳炎は夏よりも風邪がはやる冬の病気
水泳の授業が行われる季節になると、気になる耳の病気として急性中耳炎を挙げる方がいますが、プールの水が耳に入ることで中耳炎になることはほとんどありません。
急性中耳炎は、鼻から耳にバイ菌が入るというのが感染経路なので、バイ菌に侵された鼻水をすするなどが原因です。主にインフルエンザや風邪がきっかけになるので、急性中耳炎は冬の病気と認識しておくといいでしょう。
とはいえ、夏に急性中耳炎にかかった場合は、耳鼻咽喉科を受診し、水泳は控えてください。入浴も軽く済ませることが肝心です。
耳の聞こえが悪い子は、自分の声を聞くために話し声が大きくなるだけでなく、小さな声で話されると聞こえにくいため、相手の口元をじっと見ることがあります。 写真:Paylessimages/イメージマート
【こんな耳の症状に注意 ②】話し声が大きい場合に考えられる病気
声の大きさは、自分が聞いて心地よい(聞こえる)大きさです。シニアで耳が遠くなった方をイメージするとわかるように、人は聞こえが悪くなると声が大きくなりますが、その傾向は子どもも一緒です。
話し声が大きく、何度注意しても声の音量調節ができない、忘れ物が多い、行動がワンテンポ遅れる、聞き返しや聞き間違いが多いといった場合は、主に滲出性(しんしゅつせい)中耳炎を疑ってもいいでしょう。
話し声が大きい以外に見られる、子どもの様子
授業中にボーッとしていることが多い、忘れ物が多い、行動がワンテンポ遅れる、聞き返しや聞き間違いが多い、うしろから呼びかけても気づかない、テレビの音が大きい、小さな声で話すと相手の口元を見ているなど。
疑われる主な病気
滲出性中耳炎
対処法
滲出性中耳炎は、中耳(主に鼓室)に細胞から滲み出た液体が溜まることで起こり、聴力が低下する病気です。中耳炎の種類には急性や慢性もありますが、これらと滲出性中耳炎の違いは、両耳ともに同時に聞こえが悪くなる場合が多いことです。
お子さんは学校でも、家の中でも、日常生活で不自由しています。子どもの様子に違和感を感じたり、聞き返しや聞き間違いなどが多い、学校から学習態度のことでよく連絡がくる場合は、すぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
滲出性中耳炎で聞こえが悪い子は、小学生でも学年で数人はいる
滲出性中耳炎で両耳の聞こえが悪い子どもは学年に1~2人はいると工藤先生は話しますが、片耳だけ聞こえにくい子を合わせるとさらに人数は増えるそう。
「低学年であれば、両耳・片耳問わず耳の聞こえが悪い子は、親御さんが考えているよりもいます。
両耳の聞こえが悪い子は、日常生活のいたるところで子どもがサインを出しているので気づける機会がありますが、片耳の場合は、もう片方の正常の耳で聞いて生活はできるので、気づかない場合もあります。
そのため、学校健診の結果も参考にしましょう。聴力検査は、就学前健診(学校入学前)、学校健診(特定の学年や保護者からの希望)で実施されています。
結果は親御さんに渡されますので、それ次第で耳鼻咽喉科を受診し、根気よく治療を受けることが大切です」(工藤先生)
親御さんが子どもを病院に連れていくのが遅くなれば、我が子はずっと聞こえが悪いまま生活しなければなりません。
それは勉強にも影響を与えるので、普段の子どもの様子だけでなく、学校健診にも注意を払いましょう。
次回は、癖からわかる鼻とのどの病気と対処法などを紹介します。
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◆工藤 典代(くどう ふみよ)
耳鼻咽喉科専門医、気管食道科専門医、医学博士
大阪大学医学部卒業後、千葉大学医学部耳鼻咽喉科に入局。千葉労災病院、国立千葉病院、千葉県がんセンターなどで研修する。その後、国保成東病院耳鼻咽喉科初代医長や千葉県こども病院初代部長、千葉県立衛生短期大学(教授)、千葉県立保健医療大学健康科学部(教授)を経て、現在はアリス耳鼻咽喉科の院長。千葉市立中学校や小学校の学校医も務めている。著書に『子どもがかかる耳・鼻・のどの病気百科』(少年写真新聞社)など。
取材・文/梶原知恵