〈対談〉横浜流星(蔦屋重三郎役)× 渡辺 謙(田沼意次役)【NHK大河ドラマ・ガイドべらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 後編】
蔦重と田沼意次
ふたりの生き方は相似形
吉原(よしわら)育ちの〝蔦重(つたじゅう)〞こと蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)と、江戸幕府の老中・田沼意次(たぬまおきつぐ)。
全く別の世界に生きる両者の人生は、いつしか不思議な縁(えにし)で絡み合っていく――。
今回は、5月22日発売の『NHK大河ドラマ・ガイドべらぼう~蔦重栄華乃夢噺~後編』より、主演・蔦屋重三郎役の横浜流星さんと、田沼意次役の渡辺 謙さんによる対談を一部掲載。共演シーンなどについて存分に語っていただきました。
(※NHK出版公式note「本がひらく」から抜粋)
役が円熟してくるとますます楽しくなる
横浜「べらぼう」は、江戸の庶民パートと、幕府パートが並行して描かれます。江戸城中のシーンは心理的な駆け引きが多く、張り詰めどおしなので、いつも「あの場所にはいたくないな」と思って見ています(笑)。
渡辺 俺だってあそこにいたくないよ〜!(笑)
横浜 そうなんですね(笑)。幕府パートは多くが会話劇で、動きが少ない分、技術がないと難しいシーンばかり。そこを謙さんを筆頭に大先輩方が担ってくださっているので、いつも画面に見入ってしまいます。幕閣(ばっかく)の立場ではあの場にいたくないですが、役者として会話劇に参加したい気持ちはあります。
渡辺 座ってしゃべっているだけです(笑)。
横浜 いやいや。
渡辺 自分はほぼ畳の上での芝居なので、意次が自領の相良(さがら)の町を見聞するシーンなどは、庶民的な雰囲気で新鮮だった。それはそうと、流星の収録は第何回まで進んでいるの?
横浜 数話を並行しながら第27回の一部まで撮っています。(※対談収録3月下旬時点。)
渡辺 俺が「独眼竜政宗(どくがんりゅうまさむね)」(1987年放送)に主演したときは、ドラマの折り返しぐらいの第24回で豊臣秀吉(とよとみひでよし)(勝新太郎(かつしんたろう))に会ってるんだよ。で、そこから第40回くらいまでが、政宗が円熟してきていろいろなことが起こるので、すごく楽しかった。流星はどう?
横浜 僕もそうかもしれません。蔦重の少年期は大げさなぐらい姿勢の重心を上げて、声も高く演じていました。蔦重が自分と同じぐらいの年齢になるのがちょうどドラマの折り返しあたりで、日本橋に出店します。その頃の蔦重は板元(はんもと)(出版社)としてだいぶ力がつき、多くの逸材を巻き込めるようになっている。貸本屋からスタートして、やっと「日本一の本屋」になる夢をかなえられるかも、というところまで来ているので、芝居もやりがいがあります。
渡辺 流星とは初回のワンシーンを撮ってからしばらく共演がなくて、「吉原チーム」の現場を見る機会もなかったので、放送開始以前は、順調に収録が進んでいるのか心配していた。でも初回の放送を見て「よしよしよし!」となった(笑)。
横浜 よかった(笑)。ありがとうございます!
渡辺 流星との次のシーンが第10回で、ギア全開で芝居しているのを見て、ますますいいぞと思った。長丁場のドラマだけに、特に序盤は主役がフルスロットルでいかないとね。そして回を重ねるごとに自分のキャラクターにいろいろな含みを持たせていけるようになるので、さらに楽しくなると思う。
横浜 それを実感しています。蔦重は吸収力がある人なので、意次をはじめ平賀源内(ひらがげんない)など出会った人々から受けた影響も意識していこうと思っています。
渡辺 今は、黙って座っていても蔦重になれる感じがしない?
横浜 しますね、確かに。
渡辺 それは大河ドラマをやった人しか分からないおもしろさだと思う。役との距離感がなくなっていくんだよ。
横浜 分かります。だから変な力みがなくなってきた感じもあります。
意次がヒントをくれたから蔦重は本作りに目覚めた
渡辺 流星とは少し前に映画で親子役だったから、今回の現場に入るまで、その感覚が残っていたんだよね。
横浜 僕の中でも謙さんはお父さんという感覚でした(笑)。
渡辺 でも、蔦重と意次が初めて出会う初回のシーンは、目の前にいる蔦屋重三郎が「未知なるもの」に見えたんだ。それがよかったなと思っている。
横浜 蔦重が意次の屋敷に紛れ込み、吉原の女郎(じょろう)のために幕府非公認の女郎街を取り締まってくれと願い出るシーンでしたが、あのときはそれほど収録を重ねていなかったので、自分が吉原の女郎の暮らしの過酷さを本当に理解できていたかどうか……。
渡辺 それもよかったんじゃない?あの頃の蔦重は何かを深く考えているわけじゃなく、行き当たりばったりの感じがあったから。蔦重との間にピッと小さなスパークがあったことだけが視聴者の心に残ればよくて。
横浜 確かに意次が「吉原に人を呼ぶ工夫をしているのか」とヒントをくれたから、蔦重は本作りに目覚めることができた。その成果として意次に『青楼(せいろう)美人(びじん)合姿鏡(あわせすがたかがみ)』を献上したシーンは、蔦重がちょっと得意げでした(笑)。同時に、意次に一つの答えを提示できたことに小さな感動がありました。
渡辺 あのシーンのカメラテストで、俺が蔦重に近寄って再会の喜びを表現したら、演出家から「そこまでしなくていい」と言われて、内心「そうかなぁ」と感じていた。でも放送を見て「失礼しました! おっしゃるとおり!」と思ったね(笑)。
横浜 (笑)
渡辺 つまり、意次と蔦重が距離を縮めるタイミングとして、あのときはまだ早かった。
横浜 身分から考えれば、蔦重と意次が直接会うこと自体、本来ありえないことで、そんなふたりをつないでくれたのが源内なんですよね。蔦重にとって源内は、生き方そのものを教えてくれる存在でした。
この続きは、5月22日発売の『NHK大河ドラマ・ガイドべらぼう~蔦重栄華乃夢噺~後編』でお楽しみください。
取材・文=髙橋和子 撮影=山田大輔
ヘア&メイク=永瀬多壱(VANITÉS)(横浜さん)、倉田正樹(eNFLeURAGe)(渡辺さん)
スタイリング=森田晃嘉(横浜さん)、JB(渡辺さん)
衣装協力=BRUNELLO CUCINELLI(渡辺さん)
横浜流星(よこはま・りゅうせい)
1996年生まれ、神奈川県出身。2011年、俳優デビュー。主な出演作に、ドラマ「初めて恋をした日に読む話」「私たちはどうかしている」「着飾る恋には理由があって」「DCU」、映画「きみの瞳が問いかけている」「嘘喰い」「流浪の月」「アキラとあきら」「線は、僕を描く」「ヴィレッジ」「春に散る」「正体」「片思い世界」「国宝」など。大河ドラマは初出演。
渡辺 謙(わたなべ・けん)
1959年生まれ、新潟県出身。主な出演作に、映画「ラスト サムライ」「硫黄島からの手紙」「明日の記憶」「怒り」「国宝」「盤上の向日葵」、舞台「王様と私」などがある。NHKでは、「TRUE COLORS」などに出演。大河ドラマは「独眼竜政宗」「炎立つ」「西郷どん」などに出演。