【倉敷市】料理旅館鶴形 ~ 江戸時代の面影を残す倉敷美観地区の老舗旅館
せっかく倉敷美観地区を観光するならば、昔ながらの面影を残す宿に宿泊して心ゆくまで美観地区を楽しんでみたいものですよね。
料理旅館鶴形は、倉敷美観地区の倉敷川沿いにある江戸時代から残る商家を生かした宿です。
館内は、棟方志功(むなかた しこう)の作品をはじめとした民藝品が数多く活用されており、歴史的建築も相まって歴史と伝統を味わうのにふさわしい場所のひとつ。
倉敷美観地区という賑やかな観光地にありながら、日常から離れてのんびりとした宿泊体験を提供する料理旅館鶴形を紹介します。
料理旅館鶴形の概要
料理旅鶴形は、JR倉敷駅より徒歩約10分、倉敷美観地区内に位置する老舗旅館です。
遡ること江戸時代、1744年に建てられた商家を改築し、1970年(昭和45年)に旅館としてオープンしました。以来、数多くの国内外の訪問者を迎えています。
旅館の名前からもわかるように、食を大切にしており、四季折々の食体験を楽しめる宿です。
館内には、以下の施設を備えています。
・客室11室(すべて和室)
・大浴場(男・女)
・宴会場(大広間)
・お食事処「鶴形」(ランチタイムのみ)
宿泊はもちろん、結納や結婚披露宴などハレの場としても重宝されています。
料理旅館鶴形の建築
料理旅館「鶴形」は、八代将軍徳川吉宗の時代(1744年)に建てられた油問屋を活用。倉敷美観地区で二番目に古い建物(一番古いのは現在の「井上家住宅」)といわれており、江戸中期町屋の厨子二階造りの風格ある構えが特徴です。
母屋2階に位置する52畳の大広間には東西に通る太い大梁が残されており、江戸時代より受け継がれたその棟木の重厚さに目を見張ります。大広間の格子窓からは倉敷川や大原美術館、倉敷館 観光案内所など倉敷美観地区の主要スポットを見下ろせる絶景が望めますよ。
中庭の松は樹齢400有余年を誇る倉敷一の老木があり、石灯籠・北山杉など落ち着いた昔ながらの風景を楽しめます。
館内に入ると棟方志功の作品をはじめとした美術作品が飾られていました。
趣のあるライティングビューローから無料ドリンクを選べたり、ていねいに使用され続けてきた椅子に腰かけてのんびりと中庭を眺めたりと、ぜいたくに民藝品のある暮らしも体験できそうです。
全室和室の客室
料理旅館鶴形の客室は、全室和室です。
内装や構造は部屋によって異なり、各部屋に倉敷市内の地名が名づけられており障子と床の間が設けられています。
部屋の窓からは倉敷美観地区のなまこ壁や整備された中庭が臨めるので、倉敷美観地区に宿泊している実感がわくのではないでしょうか。
倉敷美観地区の倉敷川沿いにあるとはいえ、客室は奥まった場所に位置するので、静けさも感じられます。落ち着いた館内はどこか非日常のような気持ちにさせてくれるかもしれません。
料理旅館ならではのお食事も楽しみ
料理旅館鶴形は、素泊まりプランを設けていません。
その理由は、宿泊客に旅館自慢の料理を堪能してもらいたいから。
JAL国内線ファーストクラスの機内食の監修をしたこともあります。
当時の天皇皇后両陛下(現上皇上皇后両陛下)の岡山県井原市への行幸啓(ぎょうこうけい)の際には、距離があるにもかかわらず、鶴形にお弁当提供依頼があったそうですよ。
行幸啓
天皇・皇后がご一緒に外出されることをいいます。
料理は季節ごとに異なるだけでなく、連泊する宿泊客には毎日異なる料理を提供。
まさに、料理を通して季節を味わえる旅館です。
併設する「お食事処 鶴形」は和食のお店ですが、洋食派のかたは提携している倉敷国際ホテルの食事を楽しむことも可能です。(割引価格で提供)
倉敷の伝統を体感できる宿、料理旅館鶴形の櫃本有利恵(ひつもと ゆりえ)さんに話を聞きました。
料理旅館鶴形の帳場係をしている櫃本有利恵(ひつもと ゆりえ)さんにインタビューしました。
倉敷美観地区で昔からハレの場として大切にされてきた老舗旅館
──料理旅館鶴形は、倉敷美観地区で二番目に古い建物なのだとか
櫃本(敬称略)──
そのとおりです。
当館の建物は、村上水軍という瀬戸内の海賊船を設計した大工が建築したものになっております。二階の宴会場は以前倉庫だった場所を活用していて、船をひっくり返したような太くて大きな梁が天井にあるのが特徴です。
二階の宴会場はおもに、ツアーの団体客や地元のかたのお祝いの席などで使われています。結婚式や披露宴などでもお使いいただいていますよ。
──趣ある建物での結婚式、素敵ですね
櫃本──
ありがとうございます。
結婚式自体を当館で挙げられるお客さまもいますし、近くにある阿智神社で結婚式を挙げられて当館で披露宴を執りおこなわれるかたもいらっしゃいます。やはり、建物に合わせて和装をされるかたが多いです。
また、倉敷国際ホテルと提携しておりますので、ケーキなどのご用意や和装だけでなく洋装のご用意も可能です。
もちろん旅館ですので、結婚式の前後に宿泊されるかたもいらっしゃいます。現在は減ってしまいましたが、昔は両家とも当館に宿泊してゆったりとした時間を楽しみながら挙式を過ごされるご家族もいましたよ。
当館には、挙式専門のスタッフや提携している着付スタッフもいますので、安心してご要望を相談してください。
──お気に入りスポットを教えてください
櫃本──
私は、ロビーが好きです。
日本家屋ということもあって、玄関が広いんです。この木のぬくもりを感じる玄関に光が入る瞬間がお気に入りですね。
当館は倉敷川沿いに面しているので、その反射の光がキラキラと入るスポットがたくさんありますよ。
宿泊客に合わせた柔軟な宿泊プランの提供
──宿泊されるお客さまはどのようなかたが多いですか
櫃本──
お子さまがいらっしゃる家族連れから50~60代のご夫婦などはもちろん、お一人様の若いお客さまも増えています。6畳のお部屋もありますので、おひとり様だと余裕をもってご宿泊いただけるかと思います。
また、外国人のお客さまも増えているんですよ。当館は客室が11部屋ありまして、そのうち6部屋ほどが外国人のお客さまで埋まる日もあります。年間でいうと、三割程度が外国人のお客さまになりますね。
──外国人の宿泊客に向けて、特別なサービスなどは提供していますか
櫃本──
倉敷にいらっしゃる外国人観光客の多くは、日本観光に慣れているかたが多いようです。
お食事の際もナイフやフォークの準備はありますが、お箸で召しあがるかたがほとんどです。朝食も提携している倉敷国際ホテルで洋食もご用意していますが、みなさん和食を希望されます。
ただ、連泊されるお客さまが多くいまして。多いときで6泊されたお客さまもいました。
当館では素泊まりプランを用意していないので、6日間異なる夕食メニューを提供するために料理長が腕を振るいました。
このように、宿泊プランもお客さまの旅行プランに合わせて、宿泊プランも柔軟に変更しています。
「料理旅館」としての鶴形
──お料理も魅力だと聞きました
櫃本──
当館は料理旅館ということもありまして、料理には力を入れております。
特に、冬の時季は寒鰆(かんざわら)のしゃぶしゃぶを食べられるプランがおすすめです。そのほかにも、和食のお店ですので、お魚をおいしく食べていただけるプランを年中用意しておりますよ。
昼食は一般のお客さまもお食事処「鶴形」で食べられますが、朝食と夕食は宿泊者限定の提供になりますので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
館内ではゆったりとした「非日常」を味わってほしい
──接客するうえで大切にしていることを教えてください
櫃本──
お客さまがいらっしゃったときに親しみやすい雰囲気を出せるように「いらっしゃいませ」のひとことのトーンは意識しています。
また、旅館はのんびりと心と体を休めにいらっしゃる場所なので話すスピードもゆっくりめで、聴き取りやすいよう意識しています。当館に入った瞬間に、時間の流れがゆっくりとなり、非日常で穏やかな滞在時間を楽しんでいただきたいです。
やはりここは休息を楽しまれる場所なので、チェックインからチェックアウトまで時間いっぱいゆっくりと過ごしていただきたいと思っています。
──お客さんにはどのような宿泊体験をしてもらいたいですか
櫃本──
当館は日本家屋なので、時間がゆっくりと流れる空間だと思うんです。なので、その時間の流れを心ゆくまで味わっていただきたいです。
普段はお仕事や子育て、家事などの日常に追われているかたも、当館に来たら日常から離れてゆったりする時間を大切に過ごしていただけるようお手伝いいたします。
観光客にも地元の人にも親しまれる旅館であり続けたい
──どのような人に料理旅館鶴形をお勧めしたいですか
櫃本──
観光客のかたにはもちろん、倉敷美観地区の雰囲気を感じながら宿泊していただきたいです。
それだけでなく、地域のかたがたにも、もっと親しみをもってもらえるような旅館でありたいと考えています。
当館の歴史的な趣を感じさせる建物と、日本の伝統的な四季折々の行事はとても相性が良くて。五月には五月人形を飾り、秋の屏風まつりでは屏風を展示します。
普段宿泊されない地元のかたからは「普段はなかなか足を踏み入れにくい」との声もいただきますので、季節のイベントごとなどを通じて、地域のかたにも気軽にいらしていただきたいです。そして、ここを気に入ってくださったら、お食事や会食など地域のみなさんのイベントごとにも携わらせていただければと思います。
宿泊のお客さまの対応をしていない時間帯であれば、宿泊されないかたでも館内を見学していただくのも大歓迎です。いつでもお声がけください。
──2025年に開業55周年を迎える料理旅館鶴形として、今後の展望を教えてください
櫃本──
一度来ていただいたことのあるお客さまに、もう一度来ていただける旅館でありたいです。
特にお料理は季節ごとにまったく異なりますので、ぜひそれらを堪能していただきたいですね。
──最後に、読者へメッセージをお願いします
櫃本──
料理旅館鶴形は倉敷美観地区で二番目に古い建物で、建てられた当時の雰囲気をそのまま残す建築になっていますので、県内外問わずたくさんのかたに見ていただきたいと思っています。
どうぞ、いつでもお気軽にいらしてください。
おわりに
料理旅館鶴形では、日常を過ごす家庭とは異なるおいしい料理に舌鼓を打ちながら、古き良き建物に宿泊する「非日常」を味わえる空間です。
料理旅館鶴形が倉敷美観地区の中心部に佇むことによって、一市民として自信をもって倉敷での宿泊体験を含めた観光を提案できますし、倉敷市民にとっても訪れることでどこか懐かしさを感じられる。そのような場所なのだと感じました。
観光、宿泊体験、ハレの場として。
料理旅館で、心穏やかな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。