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【あんぱん】本作の「影」を担う河合優実、瀧内公美の存在感が光る今週。「正義」の危うさも描かれ始め...

毎日が発見ネット

【あんぱん】本作の「影」を担う河合優実、瀧内公美の存在感が光る今週。「正義」の危うさも描かれ始め...

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『影』を演じる2人の女性」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとし、中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める朝ドラ『あんぱん』第5週「人生は喜ばせごっこ」が放送された。「強さ」と「正しさ」を常に問う本作で、今週は河合優実、瀧内公美と、光と影の「影」を担う2人の存在感が光る展開だった。



のぶ(今田)は女子師範学校に入学、寮生活が始まる。一方、浪人生の嵩(北村匠海)は弟・千尋(中沢元紀)に絵を描いて生きていきたいという本音を打ち明け、寛(竹野内豊)に覚悟を問われると、思いの丈をぶつけ、美術系の学校への進学を勧められる。帰省したのぶに、嵩はようやく自分の決意を伝えるが、のぶは晴れやかな顔で言う。



「嵩が最初に絵を描いてくれたときから、うち、わかっちょった。嵩は絵を描くために生まれてきた人やき」



絵を描いて生きていくことが非現実的だった時代、嵩の思いは幼い頃からブレていないが、その思いと向き合う・言葉にする勇気が持てなかった。その本音を弟が引き出してくれ、「食えるかもしれん」の曖昧な未来に賭ける覚悟を伯父が問い、のぶが背中を押してくれる。父を亡くし、母に捨てられた「一人ぼっち」の嵩は、実は人に恵まれた人生に見える。



その頃、朝田家では蘭子(河合優実)に縁談が持ち上がっていた。お相手はのぶと嵩の同級生のいじめっ子で、パン食い競争のときに卑怯な妨害をした岩男(濱尾ノリタカ)。蘭子が「食パンの角に頭ぶつけて死んでしまえ!」と罵った相手に、よりによって求婚されるとは。



ここまでの展開で最も心配だったのは蘭子だ。姉の夢を自分の夢と言い、自分は姉妹で一番勉強ができたのに進学せず、郵便局で働き、その上、家のために金持ちと結婚するとしたら、どこかで封じてきた自分の思いが爆発し、闇落ちターンがありそうな気がしていた。蘭子を「自己犠牲の人」とも思っていた。



しかし、思いを寄せる石工の豪(細田佳央太)に自分の縁談をどう思うか聞き、「お金持ちやし、えい話やと思います」と言われたときの憂いや、岩男との縁談を受け入れ、のぶと妹・メイコ(原菜乃華)に止められて、のぶに打ち明けた本音は意外なものだった。
「好きな人がおって......その人はうちのことらあ、なんちゃあ思うちゃあせんってわかったがやき。ほいたら、誰に嫁いだって同じや......お金持ちなら儲けもんやし」



蘭子が一人で背負い込もうとしていることに、のぶは気づき、蘭子を止めた。それは蘭子にとって救いだろう。はちきんの姉に比べ、冷静で引いて物事を見る蘭子は精神年齢が高く、幼い頃から家の状況もよく見えていたのだろう。だからこそ、自分を犠牲にする感覚なく、自然な選択として家族を優先してしまうように見える。そんな私欲のない蘭子が唯一強い思いを抱くのが豪。豪もおそらく同じ思いだろうが、師匠のお嬢さんに伝えることはできない。そんな2人の淡い恋心の場面は、ここだけ湿度を帯びて、樋口一葉の『たけくらべ』のような文学的香りがする。



昭和12年、嵩は受験した2校のうち1校が呆気なく散り、難関の東京高等芸術学校の試験に挑む。合格発表日、結果を見る勇気が持てない嵩のもとに学会帰りに東京に立ち寄った寛が現れ、二人で合格発表の掲示板に嵩の名前を見つけ、喜び合う。その姿を登美子(松嶋菜々子)が見ているのも知らずに......。



「何のために生まれて、何のために生きるか? わしは思うがよ。それは、人を喜ばせることや。おまんのあんな嬉しそうな顔を見て、わしもこじゃんと嬉しかったがよ。人生は喜ばせごっこや」



そう寛に言われ、嵩は幼い頃の幸せな思い出が詰まったあんぱんを東京土産として買い、のぶに渡す。そして、嵩には草吉から特大の「祝」あんぱんが。「あんぱんとあんぱんの物々交換」もまた「喜ばせごっこ」だ。



ところで、今週の女学校や寮・寄宿舎、怖い先生が登場する展開には、中園ミホ脚本の朝ドラ前作『花子とアン』(2014年度上半期)を思い出したが、本作の場合はやなせたかしの反戦の強い思いが土台にあるだけに、怖い先生・黒井雪子(瀧内公美)もフィクションでありがちな「厳しく、怖いけど、本当は優しい」キャラじゃない。むしろ時代を映す鏡のような存在だ。



のぶの幼馴染・小川うさ子(志田彩良)を「ボウフラより弱い」(ボウフラは生命力が強いと言われるが)と罵った黒井。しかし、うさ子は黒井先生のように強くなりたいと言い、のぶが帰省している間、なぎなたの稽古に励み、いつしか生徒の手本となっていた。そんなうさ子にのぶはなぎなたの試合で負けてしまう。黒井は言う。



「朝田さん、あなたは己に負けたのです。信念のない己に、負けたのです。まだわからないのですか? 愛する祖国のために、全身全霊で尽くす心がないから負けたのです」



黒井の「厳しさ」「怖さ」を構成するのは、時代が信じる「正しさ」「正義」だ。それはうさ子に、また別の者に伝播していく。



そして、第一話冒頭のモノローグ「正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう。おなかをすかして困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」=『アンパンマン』誕生に至るまで、この先何度も逆転が繰り返されていくのだろう。



そうした「正しさ」「正義」の危うさを描くのは令和のドラマ的だ。そして、おそらくその危うさを多くの者がすんなり受け止め、共通認識として抱くことに、『花子とアン』放送の2014年時よりもずっと戦争の足音が近づいている現在地を改めて感じてしまうのだ。


文/田幸和歌子

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