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目黒『かつ壱』で味わう職人技。ボリュームたっぷりヒレかつの満たされランチを!

さんたつ

目黒 かつ壱

目黒は、おいしいとんかつ店が集まる街であることをご存知だろうか。目黒駅そばにあるビル、久米ビル地下の『かつ壱(いち)』もその店のひとつ。味はもちろん、ボリューム満点なことも人気の理由だ。1985年に開店した店は、創業40年を迎えている。昭和の雰囲気も漂う店内で分厚いヒレかつランチを味わおう。

かつ壱(かついち)

腕をさらに磨いて戻った2代目店主が守る味とボリューム

店名は、創業者がお客さんに壱万円ぐらいたくさんお金を使ってほしいと希望を込めて付けた。

久米ビルは目黒駅西側にある三角地帯の角でひと際重厚なたたずまいを見せるビルだ。その久米ビルの地下1階に『かつ壱』はある。年季の入ったのれんや座面の赤い椅子が5つ並べられた様子からも、長年愛される老舗であることは一目瞭然。期待が高まる。

店内はテーブル3つとL字型のカウンター合わせて18席。メニューは壁に掲げられている。ランチメニューはヒレかつランチ、ロースかつランチ、かつカレーランチの3種類のみだ。

店主の福原恒(ふくはらひさし)さんに、ランチメニュー3種類のうち、いちばん人気はどれかと尋ねてみると、「ヒレがいちばんよく出ますよ」との答え。その人気メニュー、ヒレかつランチをお願いする。

ランチのメニューは3種類。夜は定食などのほかに、その日に仕入れた魚介のフライなどが加わることも。

福原さんは『かつ壱』の2代目店主だ。調理専門学校を卒業後、8年間西洋料理のレストランで腕を磨いたあと、いずれ自分で店を持てる料理をと考えて、1995年ごろに同じく西洋料理出身の先代がいた『かつ壱』で働き始めた。3年間勤務したのち、大手のとんかつ店『和幸』に移って、店長としてますます腕を磨いていた。

カウンター席あり。1人でも気軽に入れるお店だ。

『和幸』在職中も定期的に顔を出していた福原さんに、『かつ壱』の先代が「自分は数年後に引退するから、この店をやらないか」と声をかけたのが2018年ごろだ。そして約25年ぶりに『かつ壱』に戻って、2023年から店主となった。店は、以前よりずっと忙しくなっていたという。

『かつ壱』が人気の秘密を聞いてみると「うちはやっぱボリュームですかね」。『かつ壱』のとんかつは、ヒレかつ用の肉が3切れで150g、ロースが140g。かつカレーランチの肉は100gだが、カレーもごはんもたっぷり。とんかつの付け合わせのキャベツもたっぷりだ。

この道30年以上のプロが見極める、とんかつの絶妙な火の通り

卵をつけるときに手が汚れない菜箸を使ったテクニック。自宅で真似したい。

カウンターの中では、ヒレ肉に衣をつける作業が始まる。1人前3切れでしっかり厚みのあるヒレかつは、最初に小麦粉をまぶしてから、肉に菜箸を刺して左手に持ち、卵にくぐらせる。なるほど、手を汚さないプロの工夫だ。菜箸を外してから粗くてソフトなパン粉を、やさしい手つきで押すようにつける。なお、肉に下味はつけてない。パン粉をたっぷりまとったヒレ肉は、170℃の植物性油の中へ。

2代目店主の福原恒さん。作業しつつも目を離さず、引き上げるタイミングを見逃さない。
火の通り具合を内側の色味を見てチェック。

揚げ油の前にいる福原さんに「何分ぐらい揚げるんですか?」と尋ねてみると「計ったことはないですね。肉質や肉の厚さによっても変わりますから」。話しながらも、とんかつから目を逸らさず、きつね色に色づいたヒレかつを油から引き上げる。しばらくしてから肉に包丁を入れた福原さんは、ちらっと中の色を確認して、納得の表情を見せる。

ヒレかつランチは1350円。ごはん、しじみの味噌汁、ぬか漬け付き。

ヒレかつがごはんや味噌汁と共に並べられた。まずはそのままと、ヒレかつを口に入れると、しっかりと厚みがあり、味わい深い。そしてとても柔らかい。「ヒレって、こんなに柔らかいんですね」と思わず声をかけてしまった。「ポイントは火の入れ方。家庭だと火を入れすぎて固くなりがちですね」という福原さんの言葉からは、長年培ったとんかつを揚げる腕への自信がにじむ。

中心部だけがほんのりピンク。

今回食べたヒレかつランチも、定食全体がボリュームたっぷり。ヒレかつはオリジナルブレンドのソースや塩、醬油、からしで味変を楽しむ。山のようなキャベツの千切りにもゴマドレッシングやソースをかける。しっかりした量のごはん、しじみの味噌汁に、旨味たっぷりのぬか漬けも、主役のカツと同じぐらい『かつ壱』での食事を盛り上げてくれる。丁寧に作られたものばかりで、おなかいっぱいだ。

40年来のなじみ客から、外国人旅行者までを引きつける小さな店の魅力

常連客は、とんかつやつまみでちょっと一杯を楽しむ。

『かつ壱』は、平日のランチは近隣で働く会社員、週末は家族連れやカップル、また外国人旅行客もちょくちょく訪れる。創業から40年も経つと、近隣の会社を退職した人が久しぶりに目黒に来たからと食べに来ることも。韓国人観光客から『かつ壱』が韓国で有名だと言われたこともあるそうだ。

カウンター奥の棚に、焼酎やウイスキーのボトルが並んでいて、とんかつ専門店で、ボトルを入れる人がいることを意外だと感じた。

「夜は定食は食べずに、つまみを頼んで飲んで行く人もいますよ」と福原さん。地下街の食事処兼ちょっとした飲み屋の顔も持っているのだ。

駅ビルや百貨店にあるようなとんかつ店での経験が長い福原さんにとって、訪れる人たちと会話が弾むことも店に立つ楽しみのひとつ。「仲良くなって一緒に飲みにいったりもします」とのこと。先日、初めての社員旅行を開催したら、常連客が5人も一緒に来たのだとか。

塩気は控えめで旨味がしっかりのぬか漬けは、もうずーっと前から自家製。夜は単品でも提供。

常連も初めての人も外国の人も魅了してしまう『かつ壱』のとんかつ。一度訪れて、味とボリュームだけではない魅力に触れてみてはいかが?

かつ壱(かついち)
住所:東京都品川区上大崎2-25-5 久米ビルB1/営業時間:11:00〜14:00・17:00〜21:30LO/定休日:日・祝の月/アクセス:JR・私鉄・地下鉄目黒駅から徒歩1分

取材・撮影・文=野崎さおり

野崎さおり
ライター
2016 年よりライターとしての活動を開始し、複数のweb媒体で食べ物やお出かけネタを中心に執筆。おいしいものはもちろん、作る人とその背景に興味あり。都内をバスか徒歩で移動するのが好き。

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