地元砺波産蕎麦粉100% 挽きたて・打ちたて・茹でたて十割蕎麦【増山城 蔵蕃そば】上杉謙信ら戦国武将ゆかりの山城近く 山菜天ぷらも美味
暑くなってくると、つるっとしたのどごしのいい蕎麦が一層おいしく感じられます。
“日本らしい食べ物”の代表格と言える蕎麦ですが、実は国内で消費される蕎麦粉のほとんどは輸入品。蕎麦粉の国内自給率は3割程度なんだとか。
つまり、国産の蕎麦粉を使ったものはそれだけ貴重というわけ。
今回紹介するのは、富山県砺波市の栴檀野地区で栽培された蕎麦粉100%で作る十割蕎麦の店です。
越中三大山城「増山城」の蔵番だった古民家を改装
富山県砺波市の山間、栴檀野地区。射水市櫛田地域や高岡市中田地域から砺波市庄川地域へと向かう県道沿いにあるのが、「増山城 蔵蕃(くらばん)そば」です。
店名に入っている「増山城」とは、標高約120mの丘陵上に立地し、砺波平野全域をほぼ眼下におさめる大規模な中世山城。上杉謙信が3度攻め入ったものの落とすことができず、「増山城は堅牢強固な城である」と称えたという逸話が残る史跡です
名誉城主は落語家のアノ人
ちなみに、この増山城の名誉城主は、城好きとして知られる落語家の春風亭昇太さん。
「日本の山城100名城」のなかで「城主になりたい山城」に増山城を選ぶなど、増山城ファンとして、その魅力を発信しています。
城は17世紀初頭には廃城になりましたが、曲輪、土塁、堀、石垣など山城に特徴的な要素がほぼすべて残ることから、国の史跡に指定されています。
きっと山城に関心のない人にはチンプンカンプンでしょうが、名誉城主の春風亭昇太さんがその魅力を語りつくしている音声ガイドがあるので、聞きながら散策すると関心がなくとも楽しめるかもしれません。
城の蔵番を代々務めた由緒ある民家が蕎麦店に
さて、話を「蔵蕃そば」に戻しましょう。
店舗になっている古民家の屋主は、増山城の蔵の管理を代々任されてきた由緒正しき家柄。
暖簾をくぐって中に入ると正面には、増山城の米蔵管理を行っていたことを記す高札が掲げられています。
消えかかっていて実際に読むのは難しいですが、かえってそれが歴史を感じさせます。
しっかりと内容を記した木板も添えられているので、歴史ファンも満足できそう。
地域の歴史も受け継ぐ 地元有志が始めた蕎麦店
空き家になっていたこの古民家を利用し、地元の有志8人が蕎麦屋を始めることにしたのが2016年。増山城のすばらしさや蔵番の歴史も受け継いでいきたいと、店名を「増山城 蔵蕃そば」とすることにしました。
「“ばん”の漢字は“番”なんですが、見た目のよさで“蕃”にしました」
教えてくれたのは、店主の坂本勲夫さんです。
屋主の承諾を得て、必要最小限の改装に抑えたという店内は、柱や梁などの構造材に趣きがあり、いかにも由緒正しい風格とその歴史を味わえます。
テーブルの天板には樹齢400年ともいわれる「荊波(うばら)神社」の大杉や地元特産の増山杉。
長い年月を経た美しさに、長い年月を経た時間の重みも感じられます。
店内に飾られている「花嫁暖簾」は、旧加賀藩、現在の石川県と富山県西部に伝わる嫁入り道具のひとつ。
蕎麦を注文したあと、じっくりと眺めてみてください。実際に使われていたもののため、艶やかさと美しい意匠にしばし時を忘れて見入ってしまいます。
地元産蕎麦粉100%
挽きたて・打ちたて・茹でたての十割蕎麦
「蔵蕃そば」で提供している蕎麦は、地元で約30年前から栽培している品種「信濃1号」を100%使用した十割蕎麦。
香りを楽しんでもらうため、毎朝、使う分だけのそば粉を挽いています。
挽きたて、打ちたて、茹でたて。
こだわるのは、地元の蕎麦の風味をしっかりと味わってもらうための3拍子です。
一番人気はざる蕎麦と天ぷらがセットの「蔵蕃御膳」
ニシンやおろし、キツネ、鴨南蛮などあたたかい蕎麦のメニューもたくさんありますが、一番人気は、ざる蕎麦に天ぷら盛り合わせがついた「蔵蕃御膳」です。
地元産の蕎麦粉100%のざる蕎麦。
甘皮を少し入れて挽いているという蕎麦の色は濃いめで、太さはほどよく田舎蕎麦っぽさが残る程度の細めに切りそろえられています。
挽きたて、打ちたて、茹でたての蕎麦を味わうため、まずは何もつけずに蕎麦だけで。
ほのかなそばの甘い香り、実や甘皮のボソっとした舌触り、もちっとした食感、そしてつるっとしたのどごし…十割蕎麦のおいしさをしっかり楽しめます。
ふた口目はつゆをつけて。
カツオと昆布のふくよかな香りも漂うつゆで、醤油の濃さはそれほど感じません。蕎麦のおいしさを上品に包み込む甘みや塩味加減もいいバランスです。
ネギと大根おろしがついてきますが、わさびと岩塩をつけてもらうこともできます。
わざびを入れて、大根おろしを入れて…何通りもの味変も楽しめそう。
地元でとれた山菜や野菜もたっぷりと
地元でとれた山菜を中心にした天ぷらの盛り合せは、季節によってラインナップが変わるので、訪れる度に今日は何かな?というよろこびも。
この日は、ナス、ワラビ、カボチャ、マイタケ、ヨモギ、エンドウでした。
衣はとても薄く、カラッとしていて、油っぽさがまったくありません。
抹茶塩でいただくもよし、そばつゆに少しつけて食べるのも◎。
「オープン当初はこんなにうまく揚がらなかったんですよ。衣を変えたり、温度を変えたりして試行錯誤しました」(坂本さん)
栴檀野産コシヒカリ100%のおむすび
十割のざる蕎麦と天ぷらがついた「蔵蕃御膳」はボリューミーなんですが、せっかく訪れたならぜひ味わってほしいのが、おむすび。
地元の粘土質の深い田んぼで丹精込めて作られたコシヒカリで、東京には出荷されていますが、県内で食べられるのは生産者の農家とこの店だけです。
粒だったお米の甘みをたっぷりと味わえるおむすび。自家製なんばん味噌が添えられていて、おなかがいっぱいでもペロリをいけちゃいます。
山城の魅力とこの地で培われた農産業や暮らしを味わうことができる「蔵蕃そば」。
ゆっくりと時間をかけて、楽しみたいものです。
【増山城 蔵蕃そば】
住所 富山県砺波市増山467
営業時間 11:00~14:00
17:00~21:00(要予約)
定休日 月曜