訪問介護の将来性は?|赤字訪問介護事業所が増加するなかで、今後の見通しについて解説!
訪問介護は将来的になくなってしまいますか?
本日のお悩み
現在、介護業界への転職を考えており、訪問介護に興味を持っています。
しかし、訪問介護は赤字事業所が増加しているというニュースを見て、長く働くには将来的な面で不安を抱えています。
訪問介護はいずれなくなってしまうのでしょうか。それとも事業所の工夫次第で継続していけるのでしょうか。
訪問介護が完全になくなることはないでしょう!
訪問介護事業の将来性について不安に感じられる方は質問者さん以外にも多くいらっしゃると思います。
訪問介護事業の今後を考えていくにあたって、まずは現状や取り巻く環境を知り、将来的に訪問介護が残っていくにはどのような工夫が必要であるかを専門家の方に解説いただきます。
執筆者/専門家
脇 健仁
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/22
「訪問介護」とは在宅支援の要
高齢社会の日本において、在宅での支援の必要性は今後も高まっていく
今、ご承知のとおり日本は少子高齢社会に突入しています。令和6年版高齢社会白書によると、人口に占める高齢者の人口割合(高齢化率)は令和5年で29.1%になりました。
2010年以降日本の総人口は減少しており、それと同時に高齢者数も2045年頃にはピークを迎え減少していく予想ですが、総人口の減少スピードのほうが高齢者の減少スピードよりも速いため、高齢化率は2070年には38.7%と上昇し続ける現状となっております。※1
また令和4年の死亡数1569050人のうち、病院で亡くなった方は1011326人(64.5%)、老人ホームは172727人(11.0%)、自宅は273265人(17.4%)となっています。今後、高齢者がさらに増え、それに伴い、病院への入院患者も増えていくと病床数にも限りがあるため、病院以外へ死亡する場所を移行していく必要があります。※2
※1 出典:内閣府令和6年版高齢社会白書(全体版)
※2 出典:厚生労働省第1編 人口・世帯 第2章 人口動態
人生の最期を自宅で迎えたい人は多い
上記グラフは、日本財団がおこなった「人生の最期を迎えたい場所」に関する調査結果です。
1位は自宅で58.8%、続いて医療機関33.9%、介護施設4.1%という結果となっています。
また絶対に避けたい場所については、1位は「子の家」で42.1%、続いて「介護施設」が34.4%でした。当事者意識として「家族の負担にならないこと」が95.1%である一方、子世代は「家族との十分な時間を過ごせること」が85.7%と、親子の考えにギャップがあるようです。※1
これらの時代背景より、「家族に負担をなるべくかけない体制で、自宅で最期を迎えたい」と思う方が多いことがわかり、その支援策が在宅医療・在宅介護になります。
その中でも訪問介護は、要の存在です。訪問診療や訪問看護といった訪問医療の社会資源は増えているものの、24時間365日を支えるには十分な数を確保できているわけではなく、訪問介護による日々の生活支援こそが重要となってきています。
在宅支援で、訪問介護の重要性が示されている具体例として、茨城県では「茨城県心不全地域連携の手引き」※2があり、心不全パンデミックが予想される時代に介護職を含めた生活期を支える社会資源として情報共有することが位置づけられています。これは、医療従事者からも介護職との連携の必要性が高まっている一例であると思います。
ここまでの説明で、利用者さんにとって家族以外で最も身近な存在として、生活状況を理解している訪問介護員の情報や支援が、今後の超高齢社会を支える要となっていることがご理解いただけたかと思います。
※1出典:日本財団人生の最期の迎え方に関する全国調査結果
※2出典:筑波大学附属病院茨城県心不全地域連携の手引き
訪問介護の市場について
社会的にとても必要とされているサービスである訪問介護において、赤字事業所が増えているということですが、実際の状況はどのようになっているのでしょうか。
ここからは訪問介護の市場について確認していきます。
赤字事業所には似たような傾向がある
まずはじめに、訪問介護の経営状況について、独立行政法人福祉医療機構の調査結果を見てみると、赤字となっている事業所には共通の傾向があることがわかります。
事業所によって形態や規模、利用者さんによってのニーズの違いなどはありますが、赤字事業所の多くは、サービス提供回数が少ないこと・身体介護の回数が少ないことなどといった傾向が見られます。※1、2
※1 出典:独立行政法人福祉医療機構2022 年度 訪問介護の経営状況について
※2 調査対象は独立行政法人福祉医療機構の貸付先である法人や企業
訪問介護事業を取り巻く制度や環境も変わってきている
また、訪問介護を取り巻く環境として、2024年度介護報酬改定では基本報酬の引き下げがあり、元々サービス活動増減差額が少なかった事業所では、経営への打撃が懸念されています。
一方で、プラスな側面としては、国が条件を満たした施設や事業所に対して、職員の処遇改善のために使用することを条件に施設や事業所への報酬に追加する「介護職員等処遇改善加算」があることです。これは訪問介護事業においても条件を満たしていれば適用され、令和4年12月の調査によると、介護職員等ベースアップ等支援加算で87.1%、介護職員処遇改善支援補助金で84.9%、介護職員処遇改善加算で92.7%、介護職員等特定処遇改善加算で69.4%が加算を取得しており、介護職員への処遇改善施策が増えていることは、赤字事業所を減らすことが期待できます。※1、※2
※1出典:厚生労働省令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要
※2注意:令和6年度より、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算は、介護職員等処遇改善加算に一本化されています。
ー介護職員等処遇改善加算には、加算要件があるので要確認!
介護職員等処遇改善加算については以下のような加算要件があります。
1.キャリアパス要件
2.月額賃金改善要件
3.職場環境等要件
1つ目のキャリアパス要件とは、介護職員について、職位、職責、職務内容に応じた任用等の要件を定めて、それらに応じた賃金体系を整備し書面で根拠規程を整備しておくことや、介護職員の資質向上の目標に対して研修の実施や研修機会の確保をすること、経験や資格など昇給する仕組みを整備すること、経験や技能のある人材のうち、一人以上は改善後の賃金額が年額440万円以上であることなどが要件となっています。
2つ目の月額賃金改善要件では、賃金改善を一時金(例としては賞与など)ではなく、毎月の手当として改善することが要件になっています。
また、3つ目の職場環境等要件では、6つの区分(入職促進に向けた取組・資質の向上やキャリアアップに向けた支援・両立支援、多様な働き方の推進・腰痛を含む心身の健康管理・生産性向上のための業務改善の取組・やりがい・働きがいの醸成)について、それぞれ区分ごとに取り組むことが要件となっています。
ー小規模な事業所では実施が難しい場合も
これらの加算要件については、小規模事業所では、難しいという声もあります。
例えば研修の実施や機会の確保については、少人数の場合、そもそも現場対応で精一杯となり、このような時間を確保することが難しいという声があがっていたり、研修を実施できても、現場で働いている皆さんに直接伝えたい内容に対し、管理者やサービス提供責任者の立場の方が来ることが多くなり、研修後の事業所内での伝達で、どこまで伝わっているかなど不安に感じる部分もあったりします。
キャリアパス要件の根拠規定の整備や職場環境要件なども、小規模事業所では資金的な余裕や時間的制約から取り組みづらい点があります。大規模な事業所のほうが有利となる施策も多く、現場を対応しながら管理業務をしている多くのプレイングマネージャーでは、なかなか大変な状況です。このような課題点があることからM&Aなどが盛んとなり、事業所の大規模化の流れは今後さらに進んでいくと思われます。
生き残る訪問介護事業所とは?
ご質問に戻り、「訪問介護はなくなるのか?」という疑問についてですが、部分的になくなる可能性はあっても、訪問介護全てがなくなるということは、少なくとも今のところはないと考えます。
生活援助の割合が高い事業所は、経営の悪化が進行する可能性がある
前述した、部分的になくなる可能性という根拠とについては、令和6年4月16日に実施された財務省の財政制度分科会の資料が挙げられます。これによると、訪問介護に関する部分として「軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への更なる移行」があります。※
ここでいう軽度者とは要介護1、要介護2の方たちです。
今までにも要支援認定を受けた方たちの予防訪問介護や予防通所介護は廃止され、介護予防・日常生活支援総合事業に移行された経緯もあります。先述した通り、生活援助割合が高いことで事業所収益性の悪影響や介護人材不足もあること、生活援助が身体介護と比較すると、必ずしも、専門職が担わなければならないものではないという点などを根拠として、生活援助が地域支援事業へと移行していく動きがあります。
また、生活援助については利用回数適正化のため、平成30年10月からケアプランの届け出を義務づけされたました。このことを受け、生活援助から身体介護に切り替えることで届け出を回避しているという見方もされており、身体介護も含めて訪問介護全体の回数で届け出を義務づけさせようとしている動きもあります。
※出典:財務省財政制度分科会(令和6年4月16日開催)資料一覧
今後も生き残っていく事業所の特徴3選
これらのことから、生き残りやすい事業所の特徴として以下の3つが挙げられます。
1.身体介護が得意で、多く対応している事業所
2.指定基準に対してある程度の余裕のある規模の事業所
3.理念が明確になっている法人や事業所
特に、理念が明確になっている法人や事業所は事業所の社会における存在意義は何か、一番大切にしていることは何か、そのために、どのような活動をしようとしているのかという部分がしっかりしているため、働きやすい環境が整備されていると思います。
その結果、良いケアができ、自分の仕事に対して誇りが持て、ワークエンゲージメントが高くなるため、継続的な経営につながると考えます。
最後に:入職する事業所選びをしっかり行うことで安心して働き続けられるでしょう
訪問介護は今後も社会的ニーズは高く、サービスがなくなることを今すぐに考える必要はないと思います。しかし、事業所大規模化の時流もありますので、入職される事業所を慎重に選ぶ必要はあると思います。
法人の代表の声を聴き、自分の介護観と共感できるか、そして管理者が現場に追われずに、きちんとチームマネジメントなどに目を向けており、職員が生き生きと働いているか、そして時代に求められ、時代の流れを見つけた運営ができているかなどは、訪問介護事業所にとって、生き残るために必要なことだと考えますので、これらについてご検討いただくことで良い事業所が選べると考えます。
繰り返しになりますが、訪問介護は在宅支援の要です。やりがいも大きく、とても魅力のあるサービスだと思いますので、ぜひ訪問介護のフィールドでご活躍されますことを祈念申し上げます。
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