釧路湿原で「幻の魚」イトウを追う 静けさが支配する大自然をカヌーで進む
朝晩は零下まで冷え込む秋の北海道。この時期に湿原の雄大な自然の中でトラウトフィッシングを楽しむのを毎年の恒例にしている。本命はもちろん“幻の魚”イトウ。いつかメーターオーバーに出会いたい――そんな期待を胸に今年も晩秋の釧路へ飛んだ。
釧路湿原の魅力
釧路湿原は日本最大規模の湿地帯で、独特の地形と豊かな生態系が広がる。湿原の中心部は道路や建物から遠く、人の生活音が届かない。カヌーを進めると、人工物の影が一切視界に入らない時間が続き、まるで“音の無い世界”に迷い込んだような静寂に包まれる。
そして、その湿原を象徴する魚がイトウ。サケ科最大級の淡水魚で、大きいものは1mを越える。ただしその成長には長い年月が必要だ。釧路川流域にひっそりと生息し、まさに“幻”と呼ぶにふさわしい存在である。
さらに釧路湿原では、釣行中に野生動物と出会うことも日常。湿地に佇むエゾシカや丹頂鶴、上空を悠々と旋回するオジロワシ。いずれもこの土地の自然の一部として淡々と姿を見せる。その距離感はまさに“同じ場所に生きている”という実感を与えてくれる。
カヌーフィッシングガイドがオススメ
日本最大の面積を誇る北海道。そのスケールは想像以上で、個人で良いポイントを探し当てるのは至難の業だ。
だからこそ、毎年欠かさず利用しているのがカヌーフィッシングガイド。プロのガイドは、季節ごとの魚の動きや、その日どこにチャンスがあるのかを熟知している。自力ではまず辿り着けないようなポイントへ最短距離で案内してくれるのは、まさに最大のメリットだ。
さらにカヌー移動なら、足場の悪い岸際や倒木周りなど“釣れる場所”を正確に、しかも効率的に攻めることができる。広大な湿原を短時間で広くチェックできる機動力も、徒歩での個人釣行では絶対に得られない強みだ。
また釧路湿原では野生動物がすぐ近くに現れることも珍しい事ではない。土地を知り尽くしたガイドの存在は釣果だけでなく、安全面や“観察の楽しさ”を支える意味でも大きい。
ガイド利用のメリット
・ポイント選びの精度が圧倒的に高い
・季節・水量・地形を踏まえた的確な判断
・カヌーで倒木周りや深い流れをピンポイント攻略
・同一ポイントを複数角度から丁寧に攻められる
・野生動物の行動にも詳しく、安全面でも安心
「グレイスフィールド」
今回もお世話になったのが、カヌーフィッシングガイドのグレイスフィールド。代表自身が熱心なトラウトアングラーで、釣行中の釣り談義もまた楽しい。釧路湿原を知り尽くした案内と、親しみやすい人柄が魅力のガイドサービスだ。
氷点下のカヌーフィッシング開始
早朝、ホテルを出ると気温は零下。肌を刺す冷たい空気に、思わず昨年カヌーから落ちた記憶がよみがえる。
「今日は油断すると氷のオブジェ確定だな」と苦笑いしつつ、今年もカヌーフィッシングの始まりだ。
釧路川をゆっくり下りながら色々なルアーでポイントを探ってゆく。ある大きな倒木周りにスプーンを滑り込ませた瞬間、ラインに「コツン」と小さな違和感が走った。
ロッドが一気に弧を描き、ドラグが鋭く鳴く。「来た!」間違いなく“いい魚”だ。流れに乗って突っ走るその重量感は、これまで感じたことのない手応え。慎重にいなしながら寄せてくると、水面に銀色の巨体が現れた。
60cmアメマスが登場
ネットに収まったのは、自己記録を塗り替える60cmのアメマス。その存在感に思わず息を飲む。寒さで冷えていた体の芯が一気に熱を帯び始めた。
ベイトタックルでアメマス連打
次にベイトタックルに持ち替える。この日の為に買って、キャスト練習してきた新品のタックルだ。
ルアーはミノーをチョイス。すると今度は流心近くでロッドが大きく絞り込まれた。上がってきたのはグッドサイズの55cm。新タックルのデビュー戦にして、まさに理想的な“入魂”。これ以上ないスタートとなった。
その後もめぼしいポイントでは40cmクラスが次々とヒット。思わずカヌーの上で笑いが込み上げると同時に「ここまで魚が濃いのか」と改めて釧路湿原のポテンシャルに驚かされた釣行となった。
釧路湿原がくれた満足と余韻
結局、今年もイトウには最後まで出会うことができなかった。その事実だけを切り取れば、釣り人としてはほんの少しだけ悔しさが残る――はずだった。
しかし振り返ると、不思議と胸には満足感が広がる。アメマスの力強さを感じた川の流れ、野生動物が間近に姿を見せる静寂の湿原。雄大な自然で満たされた心ーーそれこそが、この遠征の最大の収穫だったのかもしれない。
また来年、あの静けさの中に身を置き、流れを読み、いつか巡り合うはずの一匹のためにロッドを構えたい。釧路湿原は、そう思わせてくれる特別なフィールドだ。
<夏野/TSURINEWSライター>